シルクロード会議9 シルクロードの中間地点
「私としてはまだまだ話したいが、シルクロード計画というのに並々ならぬ政治構想があるのは分かった。私は前世カルタゴという島国で国家予算四十年分の賠償金を完遂した過去がある」
「ハンニバル、すげぇな……よく支払えたな」
「ロードロード、私はそれなりに賢いんだよ」
いや、賢すぎるわ。こりゃローマが目を付けるのも悪くない。
……っていうか、カルタゴって傭兵国家だったよな。それだけ経済力あれば人を雇って殺すことが出来るはず。
そしてまたハンニバルみたいな奴が現れたらこりゃ大変だ。
うーん。カルタゴは可哀想だけどローマも可哀想。どちらにも共感しちゃうぜ。
「しかし一帯一路か」
「そんなに気になるのか?」
「あぁ。アメリカの地政学を模倣しているようにも思える」
「そうだな、そういう面もあると思う。じゃなきゃこれだけ『海』を大事にしてロシアの北極海航路まで繋げようだなんて思わないはずだ」
「中国共産党は間違いなく中華史上ナンバーワンの傑物達。しかし……アメリカはやはりこれを自前で出来たというのなら、アメリカこそ人類史上ナンバーワンの傑物だと思わざるを得ない」
言いたいことはわかる。俺も正直言うと、中国共産党というのは過去の焼き増しとアメリカの模倣をした上で一帯一路を上手に構築したというのは認めても……アメリカより上かと言うと疑問に思う。
それほどまでにアメリカが成し遂げた地政学とは凄まじいのだ。
そして、俺が大学一年で理解したことをこのオッサンは一時間もしないで理解してしまう。
やはりハンニバルは天才だ。一を知れば、千を理解してそう。
「中華史上ナンバーワンの天才達が、人類史上ナンバーワンの天才達である英米の地政学に挑む……なんと面白い時代なことか!」
ってこのおっさん、なんで笑顔なんだよ。さっきまで「戦争が起こる」とか青い顔で言ってたのに。
「ハンニバル、嬉しそうだな」
「言っちゃ悪いけど、凄く面白い」
「……」
「これほどの傑物同士の戦いがリアルタイムで見られる時代か。当事者になったらたまったものではないが、対岸の火事として見れば面白いな」
「不謹慎だぞ」
「ロードロード、お前の国だって歴史映画とかあっただろ? 戦争してる時代なんてどこの国にでもあるけど、それを読み物として楽しむのは楽しくなかったか?」
大河ドラマとかハリウッド映画か。うん、楽しかったな。
「確かに楽しかった」
「だろ? そういうことなんだよ。これは……第二次ポエニ戦争が地中海でなくユーラシア大陸の覇権国家・中国と新大陸の覇権国家・アメリカで行われる海上権力の奪い合いだ」
青い顔はどこへいったのか。ハンニバルは興奮して少し頬を染める。
「ハンニバル、シルクロード計画を進めたいんだが」
「おぉ、そうだったな。亜人国家エヴォルは人間界で言うところのアフガニスタンに位置している。私としてはここを基点に物流を担った民がいるからそれをそのまま使うのが好ましいと考えている」
「というと?」
「ソグド人という民族を知っているか?」
「……名前を聞いたことはある」
ハンニバルはブーケやヒポハスやリィフィに目配せしたが、全員首を横に振った。
あまり有名な民ではないらしい。
「ロードロードも知らないか」
「うん」
「シルクロードの中間地点にいた民族で、商業の民だった」
「成る程」
俺は理解した。シルクロードは東西を結んだ貿易の道だ。その中間地点にいたということは、具体的な物資の運搬を担った民と言えるかもしれない。
昔はただでさえ山賊が盛んだった。原住民との仲良しこよしがないと貿易なんてできない。
つまり……長い歴史があるシルクロードの中で重要な中継ぎ役をやった民族ってことだろうな。
「あの……」
リィフィが挙手。
今ので理解できなかったらしい。
「今ので理解されても、私達が置いてきぼりなので、説明してもらってもいいでしょうか?」
俺は彼女に丁寧に説明する。が、前提知識が色々と足りず、少し時間がかかった。
リィフィはすっかり疲れた顔でメモを続けていく。
「アフガニスタンは険しい場所が多く、兵站や補給が難しくなったりする。『帝国の墓場』と言われることもあった。だからこそ、地理に精通した原住民が協力ことで貿易を進めていけるってことだな」
「ロードロード、その理解で間違いない。ソグド人のいた場所はアフガニスタンからズレているが、その働き方はエヴォルに相応しい。ケンタウロス族の物流網を使って東西南北の物流を変革する。その運搬代や関税で疲弊したエヴォルの借金を減らしていきたいというのが本音だな」
突拍子もないところは一つもなく、着実に歩んでいけそうな計画だ。
俺の道テイムで石畳を整備すれば、ケンタウロス族は縦横無尽に大陸を駆け巡ることが出来る。
よし、道テイムで整備するぞ!
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