道とヒポハス、喧嘩する
俺の発する透明なエネルギーがマルティアの体に入っていく。
「ん……くすぐった……い……」
マルティアの体にある骨や筋肉や老廃物、ありとあらゆるものを知覚していく。
亜人はともかく、完全な人間に道テイムをかけるのはこれが初めてだ。
道テイム、道テイム、道テイム。
「ん……っく……っっくぅ……」
マルティアが悶える。彼女は顔を少し赤らめ、広角を上げる。本当にくすぐったいらしい。
今まで見た中で一番人間らしい反応だ。
そして。
「道テイム」
「ん……あっ……」
彼女の目が大きく見開く。
俺は神経を道テイムした。
マルティアの体が仰け反ったとこ見ると、レギンよりくすぐったがりなのかもしれないな。
彼女の神経にはやはり知恵テイムの紫色の魔力が染み込んでいた。
なら、レギンの時と同じ対応をすればいい。
「道テイム」
「わああああ!」
マルティアが驚いた顔をする。
「道テイム、道テイム、道テイム!」
「うっひゃああ! あ! あぁあああ!」
彼女はどんどんのけぞったり、転がっていったりする。
神経からどんどん知恵テイムを追い出すと、人間はこういう反応をするんだな。
「道テイム」
「うっぅうううううわああああああ!」
びくん、びくんと痙攣を起こしているマルティア。俺は悪いことなんてしてないはずだ。
その証拠と言ってはなんだが、やましい気持ちなんてなってないことが何よりの証拠だろう。
ちらり。
純白のパンツを確認。さっきの立ち姿と違い、うねうねと動くその動的なパンツがたまらないぜ。
へへへ!
【エナジーが回復しました】
よし。マルティアに再び俺は意識集中。
パンツを見るのは必要経費の為、仕方ないことだ。
知恵テイムを相殺するのはそれなりにエナジーを使う。
つまり、今ここでの正しさとはエナジー補給にほかならない。そう、俺は正義をしただけなんだ。
「道テイム!」
「うぅ」
俺は脳に向かって道テイムをやる。
すると、俺は驚いた。
「こ、これは……」
俺に向かってレギンが質問してくる。
「どうした、ロードロード」
「彼女の……前頭葉や側頭葉が働かないように制限されている」
「彼女だと!? 浮気するつもりか!?」
「その……そういう意味じゃないから」
「そ、そっかごめん。つい感情的になって」
「その、かのj……じゃなくてマルティアの脳は考える力とか記憶する力……あと多分だけど逆らう心さえも抑えられていると思う」
レギンは頷く。
「そうだな。ソロモン王は冷徹な面があるからそのくらいのことやるだろ」
いや、レギン……そうじゃないんだよ。
脳を操作されていたっていうなら……人間性を操作されていたことに等しいだろ。
ヒポハスがため息をつく。
「ロードロードさん。貴方に感謝はしています。でもね。エルティア王国には……俺の妻や子供も殺されているんですよ」
ヒポハスはぎろり、と殺意の込もった目でマルティアを見る。
マルティアはふらふらした足取りで、頭を抑えている。
ヒポハスはマルティアに思いっきり殴りかかった。
「道テイム!」
俺はヒポハスの筋繊維を道と捉え、彼の筋肉を収縮させる。マルティアに当たる前にヒポハスのパンチは空を切る。
「っぐ……」
ヒポハスは転んで、四つん這いになった。
俺は少しだけドスの利いた声で兵站将軍のケンタウロス族男に声をかける。
「ヒポハス……何しようとした? 返答次第では許さねえ」
「殺そうとした」
「――」
その迷いのない即答は、とても悲しいものだった。
「人間は敵です。マルティアを、殴り殺そうとしました。何か、文句でも?」
「大有りだな」
ヒポハスは歯ぎしりする。
「人間には、沢山殺された! 俺の妻も子供も、人間中心主義のエルティア人に殺されたんだ! この少女も、エルティア人だ!」
「俺はお前の妻や子供が殺された時いなかったから……」
「なら黙って俺が殴り殺すの、見てて下さいよ!」
「――それはできない。無実の……非戦闘員を、ましてや大人にもなりきってない少女を殺すなんて見逃せない」
「くそ。……ロードロードさん。貴方は所詮、元人間ってことですか?」
その言葉は、なぜか俺の心をえぐった。ヒポハスは俺に言葉を続ける。
「亜人国家エヴォルを何回も救ってくれてありがとうございます。でも……俺は人間を許せない」
ヒポハスはそれだけいうと、四つん這いから立ち上がり、後ろの陣営にとぼとぼと歩いていった。
なんだろう。俺は今は道っていう魔物だ。ヒポハスは……亜人。形だけなら、彼の方が人間に近い。
なのになぜ、俺はこの子を守ろうとしたのだろう。
俺が塞ぎ込んだ気持ちになってると、ぽん、とレギンが俺の体を叩いてきた。
彼女の顔は笑っている。
「ロードロード」
「何だ?」
「……かっこよかったぞ」
ドクン。
心臓はないはずだ。だというのに、鼓動が跳ねる。俺は喜んでしまう。
「あたしの彼氏、ロードロードで良かった。じゃ、道テイム……脳にかけちゃえ」
「うん……レギン、ありがとな」
「あはは。彼女は彼氏を、彼氏は彼女を理解するものだよ」
きっと難しいことを、簡単に言ってくれるサキュバスの乙女。
その言葉が、今の俺にとってありがたかった。
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