道←移民推進派(移民美少女のパンツ見たい) 村長←移民反対派(隣国攻めた時に証明する)
ハンニバルは目を伏せ、腕を組む。
「移民は大変だ。ローマだって色々な問題があったけど、結局は少子化や移民で滅んだのだ」
「そうだな……まぁ、苦労する人達がいるのは理解する」
「ロードロード、お前は移民政策の必要性があると思うか?」
ハンニバルが目を開けて俺を見たので、俺も真っ直ぐ見つめ返した。
「……必要性は無いが、魅力はある」
「根拠は?」
「俺は魔王ガンダールヴの刻印情報を乗っ取った。これはデータ収集機能がある。大量のビッグデータを集めるのに移民政策は適している」
「ほう……」
ハンニバルは興味深そうに頷く。
「悪くない。だがただでさえエヴォルは他種族国家なんだ。これ以上余計な問題を増やすべきでは無い」
「分かった」
同意は得られなかったが得たものはあるので、質問して良かったと思うとしよう。
でも、ちょっと悔しい。
魔王がいなくなれば……俺かブーケかドワーフ大臣がトップになるかもしれないが、頭脳面は間違いなくハンニバルが担当することになるな。
内心、俺は人より賢しく考えることが出来ると思ってたが……この村長は違う。
頭がいい。きっとすぐにこの男の頭脳を超えることは出来ないだろう。あるいは、永遠に。
……こんな男を相手によくローマの某武将は勝ったものだ。ハンニバルが考えてることは、俺より一歩二歩先を行ってる。
「しかし首都一極集中は魅力的だな。これは本格的に考慮するに値する」
「そうか?」
「あぁ。ロードロードがいてくれるなら……防衛網そのものが強くなる。つまり、輸送網に大事な施設を近づけても守れたり、そもそも大事な施設を一箇所に固めることができるってことだ」
「あぁ、そういうことか!」
ここに来て俺は漸く理解した。
「軍事力が弱かったから物流網遠くにドワーフギルドとか置いてたんだな」
「そうだ。効率的な施設なんて作ろうものなら、ジャンヌのような火力ある転移者に一瞬で落とされてしまう。だから分散していた。しかしロードロードがいるなら」
「守り切れる」
ハンニバルは頷いて、俺に聞く。
「ロードロード、前世は何人だ? 出身の国を教えてくれ」
「日本人」
「ふーん。日本人か……島国で閉鎖的なイメージがあるな」
「あってると思うぞ」
「……私の祖国も島国だったからよく分かる」
くははは、とオッサンは笑った。
ハンニバルはどこまで俺の時代のことを知っているのか気になった。雑談も悪くない。
「移民で苦労しなかったか? 移民政策を日本人が言い出すイメージがない」
「……個人的な考えを言わせて貰えば、日本は移民に根本的な苦労はしてないな」
「何時代の日本人だ?」
「第二次世界大戦後だよ。スマホ世代、かな」
「……それなら在日米軍や在日朝鮮人や在日中国人や在日ベトナム人に思うところはないのか?」
「直接的な質問だな」
「私は全世界の移民の情報を調べてるからな。クルド人の情報とか調べるの好きだ」
なんでそんなこと調べているんだよ。くそ、なんかローマ人に共感しちゃう。ハンニバルって痛いとこついてくる。
だが俺は歴史を読み、日本を読んだ人間。普通の人が知らないことをちゃんと調べてきたから自信を持って返答する。
「ハンニバル、それは日本の歴史を理解してないな」
「……? というと?」
「昔、日本の人口の三分の一が百済からの帰化人だった時代がある」
「それは知らなかったな」
ハンニバルはまじまじと俺をみた。
「知らないかもしれないけど、日本には色んな移民が昔から来てたんだよ。ローマ人も来たかもしれないし、シュメール文明の人も来たかもしれない。俺のいた時代では平安時代にペルシャ人が来てたことが明らかになって歴史界隈では大騒ぎだった」
「ほう……」
ハンニバルはどこか遠いところを見る目をした。
「ユダヤ人とかも確実に日本に来ていた。朝鮮半島や中国からだけじゃない。そして……そういう命が全部まとめて、『一つの日本』になったんだ。それが大日本帝国の時代だ」
「一つの日本。まるで……アメリカのエ・プルリブス・ウヌムのようだな」
俺は苦笑した。
「……その言葉、多分殆どの日本人知らないぜ」
「……」
ハンニバルは重々しい雰囲気で、興味深いものを見るように俺を見る。
「ロードロード、本当に元日本人か?」
「あぁ」
「……アメリカ人やイギリス人じゃないよな?」
「そうだけど、何で?」
「……お前、普通の日本人の精神ではない」
……そう見えるのか。俺が大学で史学科のゼミに参加してたらどうなったんだろう。さっぱり分からない。
「ロードロード、結局お前は何が言いたかったか一言で聞かせてくれ。移民について」
「……日本が大和や出雲、百済や新羅、そして皇室にまつろわぬ民がいても結局『日本』になった。移民や反乱分子がいても、それはいつか大きな流れの中に溶けていくと俺は考えてる」
「大きな流れの中に溶けていく、か。成る程な。さっき言っていた三分の一の百済人、のようにか?」
「あぁ。だから移民政策を推進したい」
俺は美少女パンツを見たい。まぁこんな理由、恥ずかしくて言えないけど。
この重々しい雰囲気で俺が淫らなことを考えてるとは露ほども思うまい。
しめしめ。へへへ!
「……だめだ」
ハンニバルは首を横に振る。
なぜだ? 俺が美少女パンツを見たいっていう内心スケベな気持ちがバレたのか?
っく……流石キレ者だ。
「お前の移民政策には穴がある。移民を受け入れるなら、少子化とか……自国が持って無い技術を移民が持ってるとか何らかの必要性があるはずだ。でないと受け入れるメリットがない」
返答は真面目な理由だった。何だよ、バレてないのかよ
俺は平静を取り繕いまともな返答をする。
「そっか。そういえば……百済からの亡命移民を受け入れた時は仏教導入の時代だったからか。それに百済が亡国だったから行き場所のない百済人を可哀想に思って当時の日本人は受け入れたってのもあるかもしれないな」
ハンニバルは真顔で、俺に頷く。
「私は百済のことは知らない。だがこれだけは言える。……移民は、大変だ。ローマを見てたからよく分かる。そして……俺と一緒にエルティア王国に行ったら理解出来る。移民は大変だとな」
ハンニバルは遠い目をまたした。この時、彼は多分歴史のこととか色々考えているのだろう。
「……どうやら、俺は貴方に国を考える知能が劣ってるようだな」
「くくく。当たり前だ。私は……カルタゴにいた時、国家予算四十年分の借金を数年で返してしまった男だぞ?」
ハンニバルは宙に浮かぶ地図を指す。
「しかし、お前が俺の計画を杜撰と言ってくれるのはありがたい」
「なぜだ?」
「こんな素晴らしい地図があるから、お前はそんなことが言えるんだ」
……褒められた。道テイム、褒められるとなんだかんだ嬉しい。
成る程。
ハンニバルを慕う人々がいたのも理解出来る。この男は賢く強いが……素直な気持ちで相手を認めるのだ。
彼についていった人々は、そこが魅力だったのだろう。俺はふと、そんなことを思った。
「そして、他人は私の凄さに圧倒されると……イエスマンばかりになってしまう。それが嫌でな。私の方が正論でも……皆の意見を置き去りにしたくない」
ハンニバルは紙の資料と俺の地図を見比べて言う。
「素晴らしいな。俺が手書きで計算したよりずっと良い道だ。ロードロード……お前が俺とエルティア王国へ行ってくれるなら証明しよう。エヴォルはこれ以上、移民政策をするべきじゃないとな」
オッドアイのオッサンは嬉々とした笑顔で語った。
……さて、移民美少女のパンツをどうやって見ればいいだろうか。
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