道「俺と旧魔王なら俺を選ぶ?」 村長「あぁ」
「……ハンニバル、貴方は俺とガンダールヴなら俺を選ぶって言うんだな」
「あぁ」
ボロいローブを羽織ったオッドアイの男は俺に頷いた。
「リリスと人類ならどっちにもつかんが……ソロモン王やローマがいるならその敵側に付く。敵の敵は味方、俺はエヴォルに付く」
……なら、おかしい。
「ならなぜエヴォルの魔王であるガンダールヴを否定する?」
「決まっているだろ。その男は……平和の為なら自国民が死んでもいいと思っているのだ」
ハンニバルは忌々しげにガンダールヴを見ている。軽蔑としか言い様がない目だ。
「逆だ。平和の為なら戦わないといけない。自分の全てをかけて、国を守る。それが……国民として当然だ」
――。
俺は絶句した。
そうだ、目の前のこの男は……カルタゴという島国を守る為に海を渡り、ローマ相手に最後まで戦い続けたのだ。
最後はローマの武将に敗北するものの、その勇猛果敢ぶりは凄まじい。
思い出した。
こいつは……ローマにとって最大の敵だった武将なんだ。
ハンニバルは忌々しげに魔王を睨むのを止め、俺に笑顔を向ける。
「……ユダヤ人も好きになれるとこはあるんだけどな。その……ローマ相手に内戦をしかけるとことか」
そう言えばあったね、そんなこと。うろ覚えだけど。
「だが……ソロモン王の魔術が嫌いでな。それでかの王を裏切り、俺はエヴォルについたんだよ。ロードロード、俺がエヴォル軍を指揮するから……道テイムでエルティア王国に侵略……じゃない、復讐戦争しかけに行かないか?」
「は?」
ハンニバルは満面の笑みで、明るく話す。
「いや、行こう。さっさとむかつくソロモン王の国をぶち殺しに行こう。ガンダールヴは霊脈を掌握してるから弱っててもその内回復してしまう。行くなら……明日にでも!」
ハンニバルはガンダールヴを指差す。
確かに、ガンダールヴも霊脈を掌握しているが……道もまた掌握しているのだ。そして俺の方が掌握する力ははるかに強い。
それこそ赤子とショベルカー、まるで力が違うのだ。
「ハンニバル。俺も魔王になって霊脈に干渉出来るようになったからガンダールヴはろくに回復出来ない。霊脈は道テイムで掌握した。だからそれは安心してくれ」
俺は作り笑いを浮かべた。俺の体には笑顔が浮かんでいることだろう。
すると、ハンニバルは数秒沈黙した後、肩をふるわせ始めた。
「し、信じられぬ……霊脈を掌握? どういうことだ?」
彼の目は驚きに満ちている。
「道だよ、道」
「は? 道?」
「道テイムで霊脈を乗っ取った。これで俺はパンツを見なくても道テイムが出来るようになった」
これでパンツを見ないでもいい。浮気しないで済むぜ。へへへ。
これで恋人とも別れないで済む。
「ロードロード、化け物かお前……悪魔や中位神よりは絶対に強いぞ」
ハンニバルはドン引きした顔で俺を見る。
「だ、だって霊脈だって道だし」
「俺はお前の力を過小評価していたらしいな。このままでは……いつか天地創造してもおかしくない」
神じゃないんだから、そんなことしないって。
俺は生コンクリート状態になってぬるぬると移動する。
「ハンニバル……エルティア王国を倒しに行くってのは賛成だ。俺も地理を見たいし、不安要素は断ておきたい」
それに転移門をある程度塞いでおけば、ソロモン王が空間転移してくるのを防げるはずだ。
ハンニバルは俺に頷く。その額には冷や汗が流れてる。
「……噂以上の化け物だな。ロードロード。お前は……戦いの神になるだろう。それを知るものは、後世に語り継ぐほどのな」
ハンニバルはそう言うと、魔王を縄で拘束し始めた。
「……それと魔王化のことは黙っておいた方がいい。恐らく……リリスに知られたら大変なことになる」
「リリスに?」
俺に疑問にハンニバルは頷く。
「魔王化はリリスの許可が必要だ。なのに道テイムで霊脈を掌握したなんて知れたら……ドラゴンロードやエルフロードを率いてリリスがお前を殺しにくるぞ」
ドラゴンロード。
度々聞く、最強の代名詞。
……そんなに強いのだろうか? 正直、ソロモン王や魔王ガンダールヴさえ倒した俺なら簡単に倒せそうだが……しかし、誰もがドラゴンロードを強いと言うなら本当にそうなんだろう。
どれだけ強いか想像もつかない。
「ハンニバル、ドラゴンロードってどれだけ強いんだ?」
「……お前はこの世界がどんな世界か知ってるか? 人間の知恵を奪う世界だ」
ハンニバルに言い返すことはしなかった。彼が聖書の世界と気付いてるかどうか知らないが、そこは今大事な話じゃない。
「……つまりな。ドラゴンロードは人間の知恵の究極を使う」
「人間の知恵の究極って何だ? コンピュータか?」
「……ツァーリ・ボンバ」
「!」
嫌な言葉を聞いた。
「ソ連が開発した水爆だ。それをドラゴンブレスとして吐き出し、地球上全てを射程圏にしている。そしてドラゴンロードには放射線への耐性があり、そのブレスには……魂を破壊する力さえあると言われている」
ハンニバルは憎々しげに言う。
ドラゴンロード、絶対に敵対しない様にしよう。
……魂が破壊されるとなれば、道テイムによる転生も不可能だろう。
恐ろしい魔物がいるものだ。
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