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「元の素材」

 光輝く空間。


「どこだ、ここは」


【ロードロード】


 それは小賢者本体アダムの声。アダムと小賢者分身バースは声が少し違うので理解できた。


 俺は辺りを見回すが、光輝く白い景色以外何も見えない。


「アダム、ここはどこだ!?」


【……意識空間だ。だがいつもと違う。まさかもうここに来るなんてな】


「変なとこなのか?」


【……そのコンクリートは、ただの素材で出来てない】


「素材?」


 光輝く空間の中央に、アダムが現れた。


 相変わらず、赤色人インディアン白色人コーカソイド黒色人アフリカン黄色人モンゴロイドと……青色が混じったような肌の色をしている。


 俺もアダムも、宙に浮いてるような感じだ。見ればアダムも地に足ついてる感じがない。


「……素材ってどういうことだ?」


 俺の言葉に、アダムは頷く。


「……見ろ」


 アダムは指をぱっちんして、下を見下ろす。


 下に景色が現れる。そこには、黒衣を纏った……男性? が石に手を付けている。


「彼は?」


「ムハンマドの真似をしてるイスラム教徒だ」


「――」


 おいおい……見ていいのかよ。まぁムハンマドの真似であって、本人じゃないなら良いだろう。


「……お前、あの石に見覚えは?」


「ないな。しかし、大事なものなのか?」


 信仰されるものってあるからな。ムハンマドの真似ってことは……コーランに書かれたことを真似してるんだろう。


 俺は下を見回す。そこには……砂漠や荒れ地に囲まれたような中東っぽい街並。


 見たことあるような景色だった。というか、ここは。


「イスラエル」


 アダムは俺の言葉に頷く。


「そうだ……そして、あの石こそ……神聖的石ファンダメンタルストーン


「聞いたことないな」


「おいおい、お前歴史通だろ? 欧米じゃ常識だぜ?」


 アダムは肩をすくめる。


「でも俺、前世日本人だから」


「やれやれ」


 アダムは溜息する。


「あれ、そんなに大事なのか?」


「……あそこはな、ロードロード」


 アダムは再び、指をぱっちんする。


 すると、下にある街並や人々が消えて……自然豊かな景色になった。


 しかし、変わらず大きな石がある。あれは間違いなく、イスラム教徒が手を当てていた神聖的石ファンダメンタルストーンだろう。


 違うのは……。


 とぼとぼと、赤子を抱きかかえながら老人がやって来た。腰は曲がり、顔も手も皺だらけだ。


「何だ、あの老人」


「彼は……アブラハムだ」


「――」


 アブラハム。


 ソロモン王が言っていた……「最強の異世界転移者」になれる人間の一人だ。


 そして、イスラム教もキリスト教もユダヤ教も……全てあの男に起因している。


「つまり、あれは」


 大きな石を俺は凝視する。


 苦悩に満ちた顔で、よぼよぼの老人が赤子を大きな石に……神聖的石ファンダメンタルストーンに載せて、胸元からナイフを取り出した。


 俺の心に、声が響く。


《アブラハム、お前は弱者男性の鏡だ》


 アブラハムは空を見上げ、苦悩のまま話す。


「主よ。私はずっと子供が出来ませんでした。仲の悪い知人に、『やーい、この種無し野郎』と煽られたことがあるのはご存知のことと思います」


 ……聖書にその煽りは無かったが、アブラハムが子供出来ない日々を送っていたのは事実だ。


 そうか……俺は勘違いしていた。モテないだけでなく、子無しも一つの弱者男性だよな。


 そしてアブラハムはまさしく、種弱い系の弱者男性だったのかもしれない。


 子供が出来たの、七十歳を過ぎてからだからな。


「そして主よ、貴方は私に子供をくれた。百歳になって、私は漸く、正妻との間に息子を授かった」


《七十六歳の時も息子生まれただろ》


「えぇ、奴隷との間にね。その時若干夫婦関係気まずかったのですが、まぁそれを神に理解してくれとは言いません。言いませんとも」


《……》


 むっちゃ理解して欲しそうだな。うん……聖書と語り口調は違うが、アブラハムが七十六歳の時に女奴隷との間に子供が出来たのは事実だし、百歳の時に正妻との子供が出来たのも事実だ。


《不満か?》


「――」


 アブラハムは悲痛としか言い様がない顔をしていた。


 哀れな感じだ。


「いえ、その……種なし野郎と言われた私に向かって、神のお力で元気な精子を作ってくれたのは感謝してます」


《だろ?》


「えぇ……それで、何故……ここに来て『息子イサクを生贄にしろ』とか言われるのですか?」


《……》


「あんまりですよ」


《やれ》


「……」


 アブラハムは苦悩を限界までやったとばかりに眉間に強い皺を浮かべる。


 うん……ユダヤ教の神様って、けっこうえげつないからね。


 っておい、これって。


 『イサクの燔祭はんさい』かよ。


 アブラハムはナイフを上に掲げ、振り下ろそうとする。


 その時、《声》がした。


《アブラハム。お前の信仰心は分かった。殺さなくて良い》


 アブラハムは泣き崩れ、赤子イサクを抱きしめた。その目からは涙が溢れている。


 そして、アダムが指をパチンと鳴らす音がした。


 辺りは光輝く空間に戻る。


 景色は光とアダム以外、何もない。


 俺はアダムと向き合って、彼に聞く。


「……つまり、あの石が……このコンクリートの素材なのか?」


「違う」


 え?


 アダムは首を横に振った。


「あれとは違う。でも同等以上の素材さ」


「同等以上? イサクの燔祭はんさい……それに思い出したけど、ムハンマドの昇天だろ?」


 アダムはぴくっと動いた。


「そうだよ。ムハンマドの逸話、知ってたんだね」


「イサクを捧げた石に、後世でムハンマドが手を当てたら彼が四人の預言者と出会ったって言うのは知ってる」


「成る程」


 ……違う、というのならアダムはなぜこれを見せたんだ?


 そして、神聖的石ファンダメンタルストーンと同等以上の素材なんて限られてる。何だよ、それ。そんなもの存在するのか?


「ロードロード、君の素材は特殊だ」


「答えを教えてくれ」


「それはダメだ。禁則事項、俺は……お前の力を強くし過ぎる訳にはいかない」


 え、これ以上強くなるのかよ。


「知れば知るほど、お前は強くなってしまう」


 アダムは苦笑して俺を見る。


 気が付けば、光輝く空間が蒸発するように飛散していく。


「ロードロード……魔王ガンダールヴを助けて欲しい」


「洗脳されかけてるんですけど?」


「それでもだ。たった一人の、僕の味方よ」


 小賢者本体アダムはくすりと苦笑いしたまま、俺に手を振る。俺の意識は沈んでいくように、元の場所に帰っていく。

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