八百万。
転移門、その中にどんどんエヴォルの国民の魂が入って来ている。
とは言え、俺にそれは直接見えない。
レギンの茶色い魔力に「何か」が覆われていて、それを魂と呼んでいるだけだ。
俺は不安を口にする。
「エナジー、足りるかな?」
レギンが笑顔で答える。
「ロードロード、気付いてたでしょ? 魂と肉体を結ぶ紐を修復してもあまりエナジーは減ってなかったって」
「う、うん」
「それはあたしの……サキュバスの加護があるから。そして今はスレイブの……エルフの加護がある。だから今回の治療、エナジーは間に合うと思う」
レギンの豪語に、俺は躊躇う。
百万人規模の死者蘇生、それは……簡単、なのだろうか?
だが難易度の問題じゃない。
やるしか、ないんだ。
上を見ると、ソロモン王がほくそ笑んで――なかった。
ブーケに蹴られて、吐血している。
〖ぐぼぉあ!〗
ブーケ、何やってんだ?
凄い身体能力だ……。
そして、ブーケがこちらを振り向く。
「道さん。治療が出来るとなれば、話は別です。あたしが知恵テイムの発動の妨害を行います。ソロモン王に蹴りを入れますので、今のうちに……死者蘇生をお願いします」
「おう!」
あいつは所詮復活するから、無駄なんじゃ……いや、待てよ?
桃色のケンタウロス美少女は空まで伸びた鉄の道を使ってジャンプして蹴りを入れたようだ。
くるくると新体操選手のように器用な身のこなしで、ソロモン王を蹴った上空から鉄の道の先端まで戻ってきて、無事に着地する。
あいつ、賢いな。成る程……確かにソロモン王は無限の残基を持っている。
しかし一端肉体を破壊してしまえば、知恵テイムの発動は遅延するにしろ停止するにしろ、妨害できるのは間違いない。
ブーケの言うとおりだ。
ソロモン王をブーケが押さえ、レギンとスレイブが俺を加護する。これだけ状況が整えば、もう問題はない。
「よし……治すぞ! 道テイム!」
サキュバス族。ドライアド族。エルフ属。ケンタウロス族。オーク族。オーガ族。ドワーフ族。
ありとあらゆる魔族……亜人達を、俺は道テイムで治していく。
驚いたのは……スレイブの加護で体への治療が非常にやりやすくなったことだ。
スレイブの体を治した時以上に、俺は肉体を修復しやすくもなっている。
ものの十分くらいで、あらゆるエヴォル国民への道テイム……体の修復が行われ……そして、
「道テイム!」
魂と肉体を結ぶ紐を修復し、縮めていく。
それは次々と帰って行く。
そう、黄泉から……返っていく。蘇り、黄泉返り……。
「――」
ふと俺に、前世の記憶が蘇る。
――――――――――――――――――――――
それは、俺の前世。祖父の声が聞こえる。祖父は……喪服を着ている。
「どうていよ……我々○○家は……道を司る」
「じーちゃん。道を司るって、どういうこと?」
「我々は道祖神を扱い……いつかイザナミ様を、この世に……」
――――――――――――――――――――――
なぜ今こんな記憶が蘇るのだろう。
そんなことはどうでもいい、はずなのに。
どこか懐かしく……どこか、力が湧いてきた。
「道テイム!」
レギンが俺に驚いた顔を向ける。
「どういうことだ? 道テイムの魂に対する出力が……急に効率化されたぞ?」
道テイム、道テイム、道テイム。
俺は一心不乱に百万人の体を修復し、魂を入れていく。
スレイブが俺に、新しいデータを入れてくる。
これは。
「ロードロードさん。……これは刻印情報で魔王ガンダールヴ様が集めていた国民の整体データです」
あの魔王、そんなことしてたのか。
「よければこれをお使い下さい。きっと道テイムに」
スレイブの言葉に、俺は頷く。
レギンが苦笑し、黒翼に……茶色い魔力が宿った。
「仕方ないな。……生きている亜人の魂を知覚するのは大変なんだけど、えぃ! 《魂の知覚》!」
今度はレギンから情報が流れてくる。
それはエヴォルに存在する……八百万人ほどの魂、生き返った人間も含めての数だった。
そして俺はそれをまるで宇宙空間から俯瞰するように、真っ黒な――意識空間の世界で、彼等の怪我を近くした。
健康な肉体を持つ者は青緑色、不健康な肉体は赤色で表示されている。
俺は怪我をした国民に向かって、意識を集中。
「道テイム!」
時間はかかった。十分くらい。
しかし、どんどん治療されたり、蘇っていく美少女達。
彼女達のパンツが見える。
【エナジーが回復しました×六千】
……どうやらこの六千とは、エヴォルに存在する美少女の数のようだな。
そして、俺は彼等彼女等にかかっている紫色のエネルギーを……知恵テイムを知覚する。
レギンの《魂の知覚》とスレイブの遺伝子テイム、それにより……八百万もの人間の脳を俺は同時に知覚できた。
彼等のニューロネットワーク、すなわち道に、意識を集中していき……道テイム!
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