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この令嬢には、秘密がある。  作者: 誤魔化
幼少期編
6/15

この令嬢の2つめの秘密






 「ーーーーーーーーレティ……?」


 すぐ近くからニキルの声が聞こえる。取り敢えず怪我はないとわかるが、だからといって怒りがおさまることはなかった。レティシアはニキルのことを孫のように可愛がっている。この体に生まれて初めての友人だ、大事にするなというのも無理があるのだ。


 少し先に転がってピクピクと痙攣してる黒豹のような魔物を無表情で睥睨する。


 「なんだ、神獣ではないか」


 本来神獣のような高位の存在はよほどの理由でもない限り、不用意に人間や下位の魔物を攻撃したりはしない生き物だ。


 近づいて軽く蹴りを入れ反応を見てみる。


 「グガァァァァァァァァ……ッ」


 苦しげに呻く神獣を見て、多少怒りが沈むとともに気が落ち着く。


 「おい、どういうつもりだ貴様。

 ーー神獣は人語を話せるんだろう、言い訳でもしてみろ。」


 『グルルル……、ーーー何故だ!?何故人間がそんな力を持っているッ!?』


 わめき出す神獣の滑稽な姿にレティシアは呆れをにじませ嘆息し、ひたいにはビキリと青筋を浮かべた。


 「ーーはァ?そんなのお前に関係ないだろうが、それより質問に答えろ。何故こんな状態になっている?」


 勝ち目がないと判断した神獣はしぶしぶながらも話し出す。



 曰く、もともと千里先の別の山の守護神だったはずのこいつは、別の神獣がやってきたことにより住処を追われたらしい。酷い怪我と相手の持つ特性の毒にやられ衰弱していたことから理性を失い、気がつけばここで子供を襲っていたのだと。そしてレティシアの蹴りによって理性を取り戻し今に至る。ーーということだ。



 「ふーーん、それで?」


 『は?』


 「え、だから命乞いは…?このままだとお前は私が殺しちゃうぞ。」


 レティシアはやっと口調が取り繕える余裕ができてきた。


 「ほら、はやくニキルに謝って。今私ははらわたが煮えくりかえりそうなの、我慢できなくなる前に、跪いて、命をすり減らす覚悟で許しを請わないとダメじゃない。」


 翡翠の瞳が妖しく光る。神獣ですら息ができなくなってしまうほどの濃密な殺気に、ニキルがやっと動き出した。


 「ーー待ってレティ!なにも殺さなくても…!!」


 (……えぇ?)


 「でもさ、こいつはニキを殺そうとしたんだよ?殺すだけで済ませてやるなんて優しいくらいじゃない。」


 心底理解できないというふうに首をかしげる。


 「この、神獣?も理性を失ってただけで悪気はなかったんでしょ?…なら!」


 「はぁ、ニキは優しすぎるよ。べつにそれ自体は良いことだしさぁ長所だとは思うけど、いつかその性格で足をすくわれるよ?」


 聞き分けのない子に諭すように言われたニキルは一瞬怯むも、すぐに真剣な表情をつくる。


 「それでもお願い、一回だけチャンスをあげようよ。

 ーーそれにまた何かあったとしてもレティがなんとかしてくれる気がするし!!」


 レティシアはニキルの主張に少し目を見張って驚いたあと、クスリと小さく笑う。


 「そのときその場に私がいなかったらどうするの?」


 「じゃあ、僕はもうずっとレティから離れない!」


 ーーんン?なんか趣旨がずれてきてるぞ…プロポーズみたいなことになってるし……。


 てれるじゃん(笑)


 「あーーもうっ、ニキルに免じて一回だけは許してあげる。おいお前、次はないからな、せいぜい気張っとけ。」


 『んえ?』


 「おい、返事は?」


 『わ、わかった…』


 「ふざけてんの…?」


 『〜〜〜………はい。』


 

 そしてニキルが一件落着とばかりに息をつくのを見て、レティシアはしょうがない奴め、と小さく笑う。



 「あ、そういえばレティいつのまにか髪が元の色に戻ってるね。」


 冒険者としての活動中は髪を黒く染めると決め、今朝も実際黒髪だったはずのレティシアが、なぜか今は元のはちみつのような金髪に戻っていることを今更ながらニキルが指摘する。


 「あぁうん、ホントだね…不思議。」


 ニキルは、レティシアの身体能力や先程までの口調など聞きたいことは沢山あるだろうに、持ち前の優しさで空気を読み当たり障りのない話題を出す。


 ーーもう猫をかぶるのをやめたニキルは年不相応に頭がきれ、落ち着きがあり、気の使える男となった。





    ◇ ◇ ◇





 さて、ではレティシアの2つめの秘密の話をしようか。




 この秘密は、レティシアの出自にある。


 レティシアの正式な名前は、”レティシア・ルゥ・デルネガル”。デルネガル侯爵の唯一の令嬢として領民からも慕われているのだが、そんな彼女は完全に侯爵と血が繋がっているわけではない。


 表向きには、レティシアは侯爵の私生児として登録されている。

 しかしそれは真っ赤なウソだった。母が平民であるわけでもないし、父親がデルネガル侯爵だというわけでもない。

 

 レティシアの母は現在のデルネガル侯爵の実の妹だ。17という結婚適齢期の歳である日突然どこかのだれかと駆け落ちし、3年ほどたった日に一人の赤子をだいて戻ってきた。しかし、突然のことに屋敷は混乱したも暖かく迎え入れた矢先に静かに病死したのだ。


 レティシアの母、メーミアは死ぬ直前に自身の兄である侯爵に遺言を残した。曰く、お腹の子は特別なお方との間にできた子だと、何が何でも大事にして大切に育ててほしいと。


 特別なお方…、王族や他国の貴族だろうか、と推測をたてるがそんなものしがらみや政治的な意味で面倒でしかない。しかし情に厚い侯爵は最後の願いだと受け入れ了承した。周りの貴族や家臣たちももちろん騒いだがそれらの反発全てから守るようにレティシアの出自を隠し、大事に育て続けた。ーーそれが知っている者のごく少ないレティシアの真実だった。


 しかしそんな侯爵でさえ知らないものがある。


 それはレティシアの父親の正体。メーミアの駆け落ち相手のことであった。


 結論から言うと、父親の正体はこの世界で神を除き最も高貴な存在、”精霊王”だった。


 唯一にして大地の絶対なる守護者、精霊王ザカライアが数百年ぶりの息抜きに人間界へ降り立ったときに偶然花畑を散歩していたメーミアと出会い恋をしたのだ。しかし精霊王が精霊樹ユグドラシルがある精霊界を離れ人間界に留まれるのにも5年以内という限界がある。出会って2年で駆け落ちし、加えて2年経った頃にはお腹に子供もいたが、生まれてくる子を拝むこともできず精霊王は精霊界に連れ戻された。


 そしてレティシアを産み衰弱したところに伝染病にかかってしまったメーミアは残り少ない命で実家に戻り兄を頼ることとなったのだ。


 ザカライアがメーミアと一緒に精霊界に行くことができればよかったのだが、人間であるメーミアには精霊界にいろんな意味で耐えられない。空気に漂う魔力の量も桁違いで酸素も存在せず、人語が通じる者はごく少数、おまけに人間を嫌う精霊が大半なため、攻撃を受ける可能性が高い。いくら精霊王の花嫁といったって所詮は人間、王を恐れないものからしてみれば、身の程知らずにも高尚な存在である我々のうちの一人ザカライアを誘惑し誑かした人間じゃくしゃだ。たとえ隠して連れて行ったとしてもバレてしまうのは時間の問題なのだ、そんな選択肢を取れるわけもなかった。





 ーー精霊王の血を引くレティシアには多くの恩恵がもたらされた。


 第一にその美貌。神が作り出した最高傑作の作品ような体は細部に至るまで精工で、かんばせはもちろんのこと、産毛どころか毛穴の一つもない雪のような白い肌にほんのりと朱色に色づくうなじはまだ幼いながらも酷く煽情的だった。


 そして身体能力。身体強化などを使っていない通常時でも気を抜けば蚊を潰そうとしただけで岩を粉砕させてしまうほどの握力に、軽くジャンプしただけで10メートルは飛んでしまう脚力。他にも、本気を出せば音と同じ速さで走れるし、屈強な男に全力で大剣を振り下ろされても皮一つ傷つかない防御力も、我が事ながらキモいほど規格外だ。


 加えてレティシアには毒や精神攻撃などの状態異常にも完全耐性がある。


 これは実体験なのだが、レティシアは3歳のときに暗殺者によって精神を完全に壊す猛毒を盛られた。暗殺者はメイドに偽装しており、夜一人になるタイミングを狙ってやってきて堂々と頼んでもないホットココアを渡してきた。もちろん毒入りだ、一口でも悶え苦しんで泡を吹いて倒れるほどの毒を入れたのだから暗殺者もそういった反応を予想していただろう。

 ーーしかしレティシアはご期待に添えるリアクションを取らなかった。

 のんきにも一気飲みして、けぷっと間の抜ける息を付きながらおかわりを所望した。流石におかしいと気づいた暗殺者はそんなはずはないと思いながら毒をいれそこなった、もしくはすり替わった可能性を考えるも、

「いつもと味がちがうね」と笑顔でニコニコと告げてくる少女に毒はちゃんと入っていることを知る。


 完全にバケモノを見る目で見られたし、なんならだいぶ引かれてた。


 今思えばちょびっと恥ずかしい黒歴史だ。




 ーー話が脱線したから少し戻そうか。


 他の恩恵といえばやはり精霊魔法と精霊術の存在が大きい。精霊しか使えない精霊魔法は強大で強く、事象をつかさどる真理そのもの。

 精霊術は一般に、人間が精霊を使役し働かせたりだとか、魔力や他のなにかを対価に力を貸してもらうといった人間のための魔法だ。王の血を引くレティシアは人間界にいるほどの人間好きな精霊の好意と協力を無制限に受けることができる。

 レティシアが人間と精霊のハーフだからこそ、両方が使えるというチートが発生するのだ。


 動物や植物に好かれ会話を可能とするのも精霊魔法だし、


 冒険者としての活動用にと髪を黒く染めていたのも、実は塗料ではなく精霊魔法だ。制御のできない怒りとともに精霊魔法と精霊術が暴発して、髪に込めていた魔法が吹き飛びいつのまにか色も元に戻っていたというのが事の真相なのだ。




 ーーレティシアの前世、笹木恭弥は精神的にも成熟した平凡なサラリーマンである。


 いい意味で身の程をわきまえていたし、判断力のあるいい年したおじさんだったので、こうして突然凄い力を手に入れたからといってその力を自分の物と勘違いし驕り高ぶり、自ら破滅を招くような真似はしない。


 だからといって使えるものは全て使う主義なので適度に使うのだが。








 まぁ、つまり何が言いたいかって言うと令嬢レティシアの2つめの秘密は『精霊王を父に持ち、身体能力、防御力、美貌、とともにいずれも人外級の規格外』であることだった。






 


 

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