渇き
ーーそれからはただ普通に、革命を起こすでもなく、王を目指すでもなく、流れるままに生きた。
孤児として一緒に育ってきた幼馴染みたちの中から、能力がある者を集めて傭兵団の真似事のようなチームを作って、戦争に出て荒稼ぎをしたり、ムカつく貴族たちをこっそり排除したりもした。
特に変わり映えのない日常。人を斬って、焼いて、粉々にして、大量のカネを手に入れて、そのカネを酒と煙草と女に費やして泡のように消していく。
リーダーと呼ばれ慕われようとも、あまり飲みには参加せず、戦う時だけ生き生きとしている。
ただつまらないと空を見上げ、やがて飽きたように下を向く。
顔が良いからと蟻のように群がってくる売女たちを腕に抱き、色彩の失せた世界を一瞥し、面倒さを見せぬように女たちにキスをして激しく押し倒す。どんなに美しい見た目でも、豊満な身体をしていても、小鳥のような綺麗な声をしていても、グレイの興味を引くには至らず、ただ泥の塊のようにしか見えない。
『ーーアイツが死んでからもう三年か………』
ふと思い出す時がある。あの男はいつでも豪快に笑っていた。いや、下品にとでも言い換えた方がいいか…。とにかくあの男が今のグレイを見ればなんと思うだろうか、怒るだろうか、引っ叩くだろうか、いや案外笑い飛ばして賭博場に連れて行かれるかもしれない。
アイツのことを何も知らないグレイには、アイツがするであろう反応さえも分からない。
ただ一つ分かるとするなら、あの男は内心悲しむであろうこと。どんなに平気そうに振る舞っていても、心のなかでは顔を歪ませて、己の無力を嘆くであろうこと。
ーーしかし、それさえも今のグレイを動かす原動力にはなりえないのだ。
〜 〜 〜
確かに自分で作った傭兵団の皆は信用している。能力が特出しているのは前提として、人柄も信頼度も他の人間たちとは比べ物にならない。
知略参謀に長けた副リーダーのルーカスを始めとして、諜報暗殺に優れたジャーファルや、他にも、医療技術、薬毒術、魔法陣解析、罠トラップ斥候、人心掌握洗脳、武器製造、変装など、各分野において専門家よりも高い実力を持つこの男女混合の十人以下は、多かれ少なかれ全員グレイのことを慕っており、裏切る可能性など無いに等しい。
そして裏切られるはずがないと断言できる最大の理由。それは先程のメンバーの能力の中に戦闘要因がいなかったことからも分かるように、
ーー”彼らが束になっても、グレイ一人に勝つことはできない”のだ。
戦場では彼一人がいれば十分事足りる。グレイ一人の存在でどんなに悪い戦況になっていたとしても、その日中に勝利を持ってくることが可能なのだ。たとえメンバー全員が協力し、策を巡らせ、彼を罠に嵌め殺そうと試みても、グレイは腕を横薙ぎに振っただけですべてを吹き飛ばすことができる。
それほどまでの特出しすぎている、戦闘力、知力、判断力、才能、カリスマ…。グレイは生まれながらにして、絶対的な食物連鎖の頂点なのだ。
その上で成り立つ信用は脆いように見えて、案外他よりも硬かったりする。
現にグレイは彼らに背中を見せて戦うことを許しているし、それを自覚しているメンバーたちは慢心などせず、ただ純粋に喜んでいる。
年齢も性別も出身もバラバラなこの集団が、戦場でも勝利の象徴と呼ばれるようになるまでそう時間はかからなかった。
◇ ◇ ◇
しかし、そんな代わり映えのない日常にも小さな変化は訪れるもので、
ーーグレイが14になった夏、最前線に一つの馬車がやってきた。
*)ベリア:この世界のこの時代でいう勝利の女神的なアレです。




