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この令嬢には、秘密がある。  作者: 誤魔化
 
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プロローグ






 綺麗な青が広がる空の下、大きな邸宅の中で、今日もうら若き侍女たちの悲鳴が響いていた。




 「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 涙目で逃げ惑う彼女たちを追いかけるのは一人の小柄な少年。


 「はっはっはっ、待てぇ!」


 そう、この少年は侍女たちのスカートめくりにいそしんでいる真っ最中である。


 ーーそして、そんな少年の頭をはたくひときわ小柄な少女が一人。


 「いい加減にしてくださいませッお兄様!毎日のように真っ昼間から侍女たちを怖がらせて恥ずかしいとは思わないのですか!?

  ーーそんなことをしている暇があるのなら苦手な乗馬や剣術の練習でもしていてくださいとなんど言えばわかるのです!」


 少女の叱責に少年は足を止めしゅんと項垂れる。


 「れ、レティ…、そんなに怖い顔をして怒らないでよ、せっかくの可愛い顔が…いや、怒っている顔も最高に可愛いけど、僕はレティの笑顔が一番好きなんだ。

 ーーただでさえ、最近は全然笑ってくれないのに…。」


 最後のほうは小声すぎて少女の耳には入らない。


 「さてはお兄様、まったく反省していませんね!?

 ーーお兄様のその口の達者さは唯一の取り柄と言っても過言ではないのですから、大事にするべきだとは思いますけど、女好きも大概にしなければいつまでたってもお父様から爵位を継承してもらえないかもしれませんよ…!?」


 「えぇ?唯一っていうのは過言であって欲しいな…。」


 

 それからもブツブツと文句を言いながら、家庭教師が待っているであろう部屋へと歩いていく兄を眺め少女は嘆息する。


 「はあ、ーーーあなた達、仕事の邪魔をしてごめんなさいね。お兄様にはまた私からよぉく言い聞かせておくから。」


 「い、いえッとんでもありませんお嬢様、ありがとうございました!」


 侍女たちがぶんぶんと頭をふって感謝を伝えてくるのを見て、少女は眉を下げ目尻をやわらげる。


 「そう、役に立てたのなら何よりよ。

  ーー仕事、いつも頑張ってくれてありがとう、あなた達の仕事は丁寧でとても助かるわ。」


 侍女たちは顔を真っ赤にして盛大にテレ、最近では珍しいお嬢様の微笑みにノックアウトされる。


 「「「「「て、天使…ッ!!」」」」」


 その様子に小さく苦笑した少女は、自らもと自室に帰っていったためその後の侍女たちの会話を知らない。




   〜 〜 〜 〜 〜




 「ーーねぇ、マリ…やっぱりお嬢様って天才よね、まだ4才なのにあんなに頭が良くてお優しいんだもの…。」


 「えぇ、ホントにね…私があのくらいの年のときはオヤツに駄々をこねたり、年の近い男の子たちを集めてお姫様ごっこをしてたくらいしか覚えてないわ…。」


 「さすがお嬢様よねぇ…、でもあまり笑ってくださらなくなったのはいつからだったかしら。」


 「たしか…あの日じゃなかった?ほらあの、お嬢様が階段から落ちそうになってちょうど下にいた旦那様が受け止めた日…!」


 「たしかに、その日からだった気がするわ。よっぽど怖かったのかしら、あまりあの日のことを怖がってるように見えないのが不思議だけど…。」


 「でも、お嬢様はあの日からめっきり表情を動かす頻度が減ったじゃない!」


 ーー昔は本当に天真爛漫で無邪気な方だったのに、今はまるで別人のよう…。


 それは皆が思えど、誰も口には出せない共通の疑問だった。



 「ーーまあ、私はどんなお嬢様でも大好きなことに変わりはないわっ!!」


 「「私も!」」「「私もよ!!」」


 皆が同意したことに満足し侍女たちは笑顔で仕事を再開する。




  〜 〜 〜 〜 〜






 そう、この令嬢レティシア・ルゥ・デルネガルには、大まかにわけて五つ、誰にも言えない秘密があるのだ。


 察しの良いあなたならお気づきだろう、


 レティシアには前世の記憶がある、いわゆる”転生者”であった。


 彼女、いや、彼はもともと日本で笹木ささき恭弥きょうやとして可もなく不可もない人生を歩んでいた。でも悲しいかな、本人に自覚がないだけで叶多は立派な社畜だったのだ。


 異世界転生でおなじみの過労死が死因。


 看取ってくれるような家族は存在せず、彼女とも一ヶ月前に別れたばかり。



 ーーーレティシアが3歳になったとき、屋敷の階段から落ちそうになって”前世の記憶”を思い出し、TS転生してしまった、と気づいたのだった。






 ーーこれが”私”の1つ目の秘密である。






 さて…、私の五つの秘密を暴き出し、それでもなお私のことを受け入れてくれる人は現れるのだろうか。


 きっとそんな都合の良い存在はいないのだろうと思う。


 だって私自身がそれを信じていないし、簡単に秘密を認めるだけの度胸も持ち合わせていない。


 でも、と一縷の望みをかけて綺麗な青空を見上げる。





 なんでも、女は秘密を着飾るとより魅力的になるらしい。


 ーーーならば、来たるその時までせいぜい完璧なご令嬢でも演じていようではないか。









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