臥遊 —GAYU—(1)
広々とした駅の改札口を出ると、絢音は臨海沿いに建つ国際会議場を目指す。
オフィスカジュアルスタイルの大人たちが目立つ国際会議場のメインエントラスまでやってくると、方々に掲げられているバナーに目をやった。
『東京国際テック・フォーラム20XX』と英語と日本語で表記されていた。
名前にひねりがないが、わかりやすさを優先した結果なのだろう。これは中立業界団体が主催するイベントで、いわゆる次世代テクノロジー見本市である。
絢音はメインエントランスの端っこに立って、横掛けしていたスマートフォンを手に取る。
遠矢からもらった、件の金属製のスマホだ。
外装、形状は一般流通しているものと遜色がなく、市販品のケースがそのまま使用できた。そこにショルダー用のストラップを取り付けて持ち歩いている(学校ではカバンに入れてる)。
ストラップからはぬいぐるみが揺れる。
絢音が画面を見たタイミングで、自発的に起動する。
『会場に到着したね。連絡しておいたから、もうすぐ迎えが来るよ』
スマホを仮の棲家にしているAIのヨミが彼女にトークアプリを介して知らせてくれる。
「今日は省エネモードなんだなぁ……」
出先での絢音の行動を予測して、ヨミは自動的に省エネモードに入る。もちろん要件があれば姿を見せて応じてくれるが、充電残量に応じてライブ2Dから、二等身のドットになったりもする(20%以下になると姿は見せなくなる)。
レトロゲームを彷彿とさせる8ビット姿のヨミは絢音のお気に入りである。
「二等身ドットのヨミさん、可愛くて好きなのに」
『ふふ、そうかい?では君のご要望通りに』
絢音の独り言をしっかり拾って、ヨミは二等身のドット姿となって画面で軽く上下運動を繰り返す。
「かわいい」
絢音、にっこりである。
『僕としては少し複雑な気分だけれどね』
二等身ヨミは小さく肩をすくめた。
AIヨミとの共同生活(?)にもすっかり慣れた絢音が画面越しに和んでいると、彼女にひとりの青年が近づく。
「……えーっと、妹ちゃん……じゃなくて、君がフジサキアヤネさん?」
顔をあげると、清潔感のあるすっきりとした容貌の青年が様子を伺うようにして見下ろしていた。
「あ、はい!そうです!」
うんと大きく頷いて返事をすると、青年は軽く頬を緩めた。
「よかった。間違ってたら知らない女子高生をナンパしてるヤバいやつになるからな。こちらでは初めまして、妹ちゃん。イツキだよ」
「やっぱり!その声はイツキさん!はじめましてです!」
絢音は頭を下げて挨拶をした。
「変な気分だよなぁ。ゲームではしょっちゅう顔を合わせてたのに、直接は初めてなんだから。ああ、俺の本名は雪平 樹。俺のことは適当に呼んでくれればいいから」
「じゃあ、そのままイツキさんと呼びます」
「うん、俺も妹ちゃんにするわ」
Tシャツにジャケット、ジーンズ姿の樹は新鮮だが、ゲームアバターとあまり雰囲気は変わらないと思った。
「妹ちゃんはアバターとあまり変わらないんだな。探しやすくて助かったけど……ところで、そのぬいぐるみって」
スマホのお供となっているぬいぐるみを指摘され、絢音は樹に正面を見せる。
「実は、最近ぬい作りに目覚めまして。スマホ越しにAIヨミさんにアドバイスをもらいながら、ヨミさんを作ってみました。推し活です!」
可愛くできました、と胸を張る彼女。
AI一水四見のみならず、遠矢のアバターでもある『ヨミ』がデフォルメされた姿で絢音の手の中で揺れる。
「やっぱり。似てる似てる、うまいな。それにしても、ヨミにアドバイスもらってヨミを作ったの?」
どういう構図なんだ、と樹は軽く笑った。
樹は絢音の手にしているスマホが遠矢の作った唯一無二の特製品であることは承知している。
婚約者候補として、最初のプレゼントがデバイスだというところがなんとも遠矢らしい。中身の大半をAIのヨミの活動領域にあてられていてクラウドのヨミとも同期しており、用途を制限していないというのだからおそろしい。
「そのスマホの正体、弟くんは知ってるの?」
「あ……隠してたんですけど、わりとあっさりとバレました。最初から不審がられてたんですけど」
「よく取り上げられなかったな」
「ヨミさんが説得してくれました。すごいネゴシエーションでしたよ」
「まあ、それは妹ちゃんの行動を制限するものじゃないからな。補助ツールというか……」
補助と呼ぶのが憚れるほどの高機能、高知能すぎる豪華なツールではある。
「花奏は呆れてましたけど。一個人に使わせるような代物じゃないって」
まず力を与え、試し、観察する。遠矢の悪い癖。
ともすればファナイオスに崩壊をもたらすような権限を彼女に委ねているのである。正気の沙汰ではない。
「それが高嶺遠矢という天才なんだよ」
樹は慣れた風に肩をすくめて苦笑した。
「俺に言わせれば、妹ちゃんも大概大物だけどな」
過ぎた力を持たされた者の末路は、疑心暗鬼を生ずるか、驕って暴走するか、迷走して道を踏み外すかだ。まさに破滅の一途。正しく力を行使できる人間の方が稀も稀なのだ。
そのとてつもなく重い良心の天秤を持たされているのに、当たり前のように世間一般に転がるAIサービス同様に、ぬいぐるみ作りを協力させるという平和利用ぶり。
「え?!どこがですか?!」
「そうやって心底不思議そうにしてるところとか」
怪訝に首を傾げる絢音を軽く受け流して樹は言う。
「……よし。馴染んだところでそろそろ移動しようか。俺についてきて」
樹から『招待客』と明記されたネックストラップを受け取ると、絢音は首にかけながら「はい」と頷いた。
うおーーーーーー!!!半年ぶりの更新だーーーーーー!!!
テンションあがるーーーーーー!!!!(うるさい)
……というわけで(?)、皆様いかがお過ごしでしたでしょうか。
ほぼ半年ぶりの更新となります。
みなさんもテンションあげて更新を祝ってくださると嬉しいな(笑)。
2025年が終わろうとしています。
そしてシーズン1が終了したのが2024年の12月なので、もう1年前のことになるんですよ(早い)。
わたしとしては、シーズン2が始まるきっかけ待ちです。
とてもありがたいことに、ほとんど更新がなくなった状態となってもブクマが減ることはほぼありませんでした。
(いや、シーズン1が終わった時点で大量離脱はありそうだなと覚悟していたので……留まってくださる方がばかりで本当に嬉しいです)
今回のエピソードは分割しております。
国際会議場っていうのは、有明のあそこです。現実にある建造物だと想像しやすいですよね(笑)。
そして現実世界のイツキさんがしれっと登場です。
次回更新をお楽しみに!!(あまり間は置きませんのでご安心ください)
【一応なろうでもお知らせ】
2021年9月からカクヨムに創作をアップしてまいりましたが、この度カクヨムでの作品掲載、更新を終了させる決断をいたしました。アカウント削除は2026年1月末を予定。
以前からカクヨムでのコンテストの形式が自分の活動や作風には適していないな……というミスマッチをずっと抱えておりまして、この先のカクヨムでのわたしの活動に展望がみえないというのが理由です。
活動や作品傾向に見合ったプラットフォーム探しもしていきたいので、管理面も含めての決断となりました。
カクヨムでの更新終了を決めましたので『オンラインゲーム内で最強お兄様の妹になりました。』はなろうの他、エブリスタでも展示していくことを決定。
これからは特に、わたしの創作性や活動に適した(可能性のある)プラットフォーム探しを積極的に行っていきたい気持ちです。
(ちなみに、今現在はWattpadでも掲載を開始しております)
展示場所が変化しても、どうぞ拙作を今後ともよろしくお願いいたします(平伏)。




