第7話 X
日曜も一日数学をして過ごし、月曜になった。
ということは、学校に行かねばならない。眠い体を引きずって登校する。
一時間目:数学、二時間目:すうがく、三時間目:スウガク、四時間目:math、五時間目:mathematics。
これが今日の時間割だった。実に多彩なり。なお、仮に六時間目が存在したとしたら數學をやっただろう。
なお、当然ながら、教師が何の科目を教えているかではなく、俺の脳内で進行していた科目である。四時間目は体育で、よりにもよって大大大嫌いな持久走だったが、三次方程式の解がくびきから解き放たれる様子が脳内に浮かんで恍惚としながら走っていた。
そんなこんなで授業が全て終わり、放課後。
俺は3Fにある教室から階段を降りて、昇降口近くの図書室に向かっていた。昨日の添削にあったアドバイスの通り、文学書を借りるためだ。
図書室の引き戸を開けると、相変わらずの埃っぽい匂いが漂ってくる。この静かな感じ、嫌いではない。ときどき、放課後はここで数学をしたりする。
で、文学書の棚はどこだ? いつも理系書の棚にしか寄らないからわからん。
図書室入り口の室内図を見るも、方向音痴(いつも思うのだが、この言葉って論理的におかしくないか。方向の音とはなんぞや)が災いして、296秒もかかってようやく文学書の棚にたどり着いた。図書室の最深部。ラスボスでもいるだろうか。
壁と本棚の間にもぐりこみ、並んでいる本たちを眺める。
が、どれがいいのかさっぱりわからん。というか、タイトルを見ても内容がさっぱりわからん。理系書だったら、『複素数入門』とかわかりやすいタイトルがついているのに、なぜそうしない。ぜんぶ『吾輩は猫である』ぐらいに明快に定義せんかい。
これはもう、ランダムに一冊選んで借りてみるか? いやしかし、人の考えるランダムは全然ランダムじゃないからな。スマホでオンラインの乱数ジェネレーターでも探してみるか。いやしかし、そのためにはこの本棚に入っている冊数を数えねばならない。あるいは、本棚の幅と高さを測って座標を導入するか。
んなことをぐだぐだ考えていたら、本棚の入り口に誰かの気配を感じた。顔を向ける。
そこにいたのは、俺が今こうして文学書を探している目的であるところの人物。
三編みの文学少女。
静海永遠だった。