第6話 X
夢の中で、数学の問題を思いついてしまった。
そのせいで、土曜の朝、起きた瞬間からずっとその問題を考えている。A4白紙ノートを30ページばかり数式と落書きと空白で埋め尽くした。途中、母親に呼び出されて昼食を食べていた間も、頭の中は数学だった。ちょうど、何かのメロディーが耳について離れないときの感じに似ている。もうそろそろ日が沈む頃だと思うが、一向に問題は解けそうになかった。具体的に試してみたり、条件を緩めたりきつくしたり、色々と仲良くなろうと試みるが、どうにも気難しい野郎のようだ。
しかし、何か大事なことを忘れているような。
まあいいや。
そのとき、スマホが振動した。メールが来ている。
はて、誰からだろう。メールを開く。
あ。
昨晩ポエムを送った、添削サイトからだった。
わくわくしつつメールを開く。
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とても知的なお人柄が伝わってくる、すばらしいお手紙です。
ただ、知的すぎて、相手のかたがびっくりされてしまうと思います。
文学書などを読まれて、より日常的な、心に響く表現を探してみてはいかがでしょうか。
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………お?
これだけ?
本文の添削は?
………もしかすると、全部まとめてダメ出しをされたということなのだろうか。
でも、「知的なお人柄」とか「すばらしいお手紙」って書いてあるもんな。悪くはなかったってことか。
とはいえ、なんだか悔しい。自信があっただけに、もうちょっと具体的な評価がもらいたかった。
しかし、「文学書などを読まれて」ねえ。そんなの、国語の教科書に載っていた小説の断片をチラッと見たことがある程度なんだけど。学校の図書室で探してみるか。
「…………る、はる、は〜る〜! ねえ、聞こえてる?!」
「んおわっ?」
突如、母親の声が至近距離でして、危うく椅子から落ちそうになった。
「もう、晩ごはんできたってさっきから呼んでたのに、全然来ないんだから。また数学?」
「ああ、まあ、そんなようなもので。失礼、すぐ行きます」
スマホを置くと、俺は部屋を出て食卓に向かった。