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Blue knight  作者: 香澄るか
第四章 
26/30

第四隊長と第五隊長

「セイラン、彼らはウチの隊長たちだ。右から第一隊長ジュード、第二隊長ミレイア、第三隊長アルバート」


 ユリアスに紹介され青蘭は三人をじっと見つめた。


 ジュードは浅黒い肌にオレンジかかった茶髪でかなり体格がいい。それに反し、特に細いのがミレイア。鳴と似たような髪色で、瞳は長い前髪で良く見えない。アルバートはちょうど普通、真ん中といったところだが、その首から上は鼻筋の通った色白の麗人だ。


また銀髪なのが、エバンといい、狙っているのかと言いたくなる。アイビスが居たらまた騒がしくなったにちがいない。


「よろしくお願いします」


「おう。任せとけ! ビシバシ鍛えてやるからよ!」


 真っ先に応じたのはジュードだった。こっちを真っ直ぐ見ながら大きな口を開けて笑っている。


「……え、もう決定? この子、第一隊《お前のとこ》が引き受けるの?」


「ダメか?」


「全然。俺、ハナから面倒見る気ないし。人材育成とか向かないし」


 そう言ったのはミレイア。訊いたのは、どうやら確認のつもりだったらしい。本当に言葉通り面倒くさそうで、青蘭はつい彼に対し胡乱気な目を向けてしまう。


 その間にジュードはアルバートへ視線を移す。


「アルバートは? お前こいつに興味津々で妄想に耽ってたろう?」


「なっ……そりゃそうだけど……、わたしは、この目で幻遊鳥の姿を拝むことが出来れば、もうそれで結構……!」


「瞳孔開かせながら何言ってやがる」


 ジュードは呆れた様子で苦笑交じりに深く息を吐く。


「なあ、幻遊鳥って何……?」


「ああ……幻遊鳥っていうのは、伝説上の、別名【夜の王】と呼ばれる漆黒の鳥のことだ」


 先ほどから肉食獣が餌をロックオンした時のような爛々とした目でアルバートがみてくるので、危機感を感じた青蘭は隣のエバンへ訊ねるとそんな答えが返ってきた。


「えっ……、もしかして、あの長髪の人が言っているのって俺のこと……?」


「恐らくは」


「……俺は珍獣か」


「ある意味、そんなものより珍しい存在ではあるかもしれないけどな」


「え?」


「お前は、この王国至上初の異世界出身の騎士だからな」


「……そうなのか」


 エバンと二人そんな話をしていると、隊長たちはまだ誰が青蘭を受け入れるかの相談をしていた。


 正直青蘭は良く分らないのでどこだっていいと思っていたが、直後に副団長のアレンが声を発したことで事は進展を迎える。


「――お前達、話し合っているところ悪いが、彼の所属部隊はもうこちらで決めてある」


「「「え」」」


 一斉にジュード、ミア、アルバートがアレンを見た。しかしアレンは口を閉ざし、ユリアスが入れ替わりでこの場に居る全員に向かって告げた。


「――彼が所属する隊は、第三・アルバート隊だ」


 その瞬間、ジュードは心底残念そうにその場に崩れ、アルバートは声を殺してガッツポーズ、ミアは無関心を決め込んでいた。


「……団長が決めた事なら従うしかねえが、訊いてもいいですか? 何で、アルバートのところへ?」


「同隊のエバン・シリウスが、彼の二人一組ツーマンセルの相手は自分にしてほしいと、わたしに直訴してきたからだ」


「「「え……」」」


 ユリアスの言葉に隊長三人が心底驚いている様子でエバンを見る。


 何だ……? 何かおかしいのか……?


 ちらりと隣を盗み見れば、エバンは少し居心地の悪そうな顔をして立っていた。青蘭一人が彼らの表情の意味がわからず困惑する。


 妙な静寂が空間を包んだあと、声を発したのはアルバートだった。


「シリウス」


「……はい、隊長」


 弾かれるように顔を上げたエバンの目はどことなく落ち着かなそうに揺れる。


「団長の仰っていることは本当かい?」


「……はい。勝手に動いて申し訳ありません。でも、俺は……っ「違う。わたしは怒っているんじゃない」


「へ……?」


「もう、あのことはいいんだね……?」


 アルバートがそう訊くと、初めて言わんとしていることが解かった様子で、エバンは表情を一転させ、強い眼差しを向けながら力強く頷いた。


「はい」


 するとアルバートも穏やかに微笑む。いつの間にかその場の空気も和らいでいるように感じた。直後、エバンが不意にこちらへ振り向き微笑んだ。


 特別言葉は無い。交わされたのは視線だけ。でも、不思議と青蘭は驚くことはなく、むしろ嬉しかった。


 恐らく隊長たちの表情や、二人のやり取りの裏には、青蘭の知らないエバンの過去がある。それが何かは分からない。それでも彼の笑顔を見たら、もう前を向いているのが分かったから、自分と同じ方向を見ようとしてくれている意思を受け取ったから、充分だと思った。


 自分もただ彼の隣にいればいいのだと。





 その後、青蘭は漸く全団員と対面を果たした。


「皆注目してくれ。今日からうちの団に新たに加わったセイランだ」


 ユリアスが改めて青蘭を紹介すると、団員達は顔を見合わせたり何かを囁き合っていた。


(見ろよ。黒髪だぜ……)


(異国から来た男って本当だったんだな……っ)


(つーか、若くねえ? いくつだ?)


(でも、ガタイと面構えは申し分ねーな)


(生意気の間違いだろう)


(見掛け倒しかもしれねーぞ)


 品定めするような視線からは不満がありありと見て取れる。青蘭は、聞かなくても大体想像つく彼らの心の声に負けまいとして、拳を強く握ると、真っ向から全員を睨む勢いで強く見返した。


「俺はこの通り余所者で、何も分からない事ばかりだけど、一度やると決めたことには絶対に手を抜かねえ! ……馬鹿にしてられんのも今のうちだからな!」


「「「……!?」」」


 青蘭の宣誓はその場にいる全員の度肝を抜いた。団員たちは背中に緊張の汗が流れるのを感じながら言葉もなく立ち尽くし、隊長以上の者達は腕を組んで不適に笑みを浮かべる。


「団長~! やっぱりあいつ、俺のとこにくれません?」


「ダメだ。彼はうちの隊だ。これはもう決定事項だからな!」


「お前になんか聞いちゃいねーんだよ、アルバート」


 ユリアスに言ったにもかかわらずアルバートが返したことに不満を露わにするジュードの言葉に団員達がどよめく。


「え、あいつアルバート隊長のとこなの!?」


「マジか……っ」


 そんななか、空気を一変させたのは未だ顔を合わせていなかった残りの隊長二人だった。


「第四隊長のヴィルだ」


「俺は第五のジャック。お前おもしれーな」


 ヴィルは、暗色の茶髪を撫でつけた琥珀色の瞳の実直そうな男で、反してジャックは、肩につく長さの深紅の髪に藍鼠色の瞳をした、飄々とした男だった。


 そのジャックが、青蘭の耳元に顔を寄せながら気の抜けた声で言う。

 

「氷姫のところは難儀だぞ~。訓練馬鹿の野獣よりはマシだけどな」


「ひょうき? やじゅうって……?」


「見て分らねえか? アルバートとジュードの奴だよ。……まあ、アルバートのことは【氷鬼】って呼ぶ奴もいるがな」


「……はぁ」


 良く分らないなりに青蘭がアルバートとジュードを順番に見て頷くと、ジャックは怪しく微笑みながら、徐にあるものを青蘭の手にねじ込んだ。


「そうだこれ、やるよ」


「へ……っ」


 それは、紙切れ……というわけではなく、どうやらこの国の紙幣のようだった。


 これは一体どういうことなのか……。青蘭があまりにも渋い顔をしていたからか、異変に気付いたヴィルが青蘭の手中にあるものを見付けると、たちまち鬼の形相に変わってジャックを睨み付けた。


「ジャック!! ほんと、お前と言う奴は……っ!!!」


「そんな怒んなよ~……隊長として新人への気遣いだろーがよー! ――おいセイラン、お前が早く仕舞わないから面倒な奴にみつかっちまったじゃねえか! ったくよ……!」


 舌打ち交じりにそう言いながら、ジャックは青蘭の手から紙幣を奪って懐へ戻す。


 それをじろっと睨みながら、ったく……はこっちのセリフなのだが?と思った。


 後にエバンから聞いた話で、ジャックは下の者にああして硬貨や紙幣を握らせては、情報を横流しさせ、一人楽して手柄を得ようとする悪癖があることがわかった。


 青蘭は心底彼の隊に配属されなくて良かったと思うと同時に、ジャックを要注意人物に定めたのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 青蘭、初っ端の挨拶で煽りとは良い度胸だw こう言う性格だと敵も作り易いけど、逆に気に入られる事もあるんだろうな(*´艸`) 良い方向へ転がってくれれば良いな。
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