プロローグ
僕の名前は海橋 光。ごく普通の高校生。
頭も平凡だし、運動はそこそこできるけど、他に取り柄はない。
僕はいつも通り、2-1と書いてあった、扉を開け、入る。おはようと僕に挨拶してくれる人におはようと返し、一番後ろにある窓側の席に座る。
「おはよう、梓」
「うん、おはよう光」
僕の右隣から本を読みながら、話しかけて来たのは、僕の幼馴染、田所 梓。無口で協調性があまりない子だけれど、僕と幼馴染のだけあって、僕にだけは心を開いてくれる。長年一緒にいたからこその結果だね。梓の特徴としては、腰を隠すぐらい長い青い髪に、スレンダーな身体、胸はそこまでないけれど、そこを考慮したとしても、とても美人だと、幼馴染の僕でも思う。
「あれ?まだ夢は来てないの?」
「............」
「あれ?梓?」
「............なに?」
梓はぷくっと頬を膨らませ、何か起こってるようだった。
あれぇ?なんか僕なんかしたかなあ?
「夢ならもうそろそろ来るんじゃない?ほら噂をすれば光の大好きな、夢が来たよ」
前の扉を勢いよく開けたのは、クラス委員長の夢だった。
西明寺 夢 紫色の髪で肩ほどある。胸も高校生では大きい方、腰もスレンダーでとてもスタイルがいい。
彼女は責任感が強く、運動神経は抜群だが、勉強はそこそこ、だが明るい性格からか、この学校の人全員友達なんじゃないかと思ってしまうくらい人望がある。
「おっはよーーー!!光くん!梓ちゃん!」
「私に気安く喋りかけないでっていつも言ってるでしょ、だいたいあんたはいつも光と............」
いつもの光景に僕は微笑んでしまっていた。夢と梓がいて、そして僕がいる。なんて幸せなんだろうと、何度も思ってしまった。このまま、時が止まってしまえばいいのに。
『いいえ、あなたは時を止めることはできません。これから違う世界に行ってもらいます』
意識が内面から外へ戻る時、僕がさっきまで見ていた幸せな光景は消え、真っ白な何もない空間にポツンと立っていた。思考が追いつかなかった。僕は自分の心配よりも梓と夢の心配を優先した。僕より大切な人が傷つくのはもっと悲しいから。
「こんにちは、海橋 光くん。あなたは最初の実験............ンンッ、転生者に選ばれました」
僕の前に現れたのは、赤い髪をして、ボーイッシュを意識しているのかというくらい短い髪の毛。そして雰囲気から漂う、女神様のような、おしとやかな空気が僕を支配する。てかこの人、さっき実験体って言おうとしたよね!!
「て、転生者って何ですか!あと、梓や夢は!どこにいるんですか!」
「梓さんと夢さんは元の世界にいますよ、時間は停止してあります」
「て、停止?」
「はい、なのであなたが今から説明する世界に行って世界を救ってもらった暁には、なんでも願いを叶えましょう」
「ね、願いを?すいません理解が追いつかなくて何が何だか」
女神様のような雰囲気を漂わせる人はクスッと口に手を当てながら笑うと、こちらに向き直した。
「ごめんなさい、順を追って説明しますね」
そして彼女は指をパチンと鳴らすとどこからともなく、高級に見える一人掛けのソファーを対面に1つずつ、目の前には高級な机が現れ、「おっと、これを忘れてはいけませんね」などと呟き、柿の種をお皿に並べ出す。
僕はその光景に圧倒されていたけれど、状況が状況だ。いちいち驚いてられないと思い、静かに座り、彼女が喋るのを待った。
******
とある世界はいくつかの国に分かれていた。魔法を駆使して、戦争を起こし、領土争いが絶えなかった。そしてそれを止めるべく、一つの反乱軍が声をあげた。戦争を止めるために動き、市民に手を貸す優しき反乱軍だった。だが戦争を止めるなんて、他のお偉いさんの国たちの人が許すはずもなく、反乱軍を潰しにかかるが、反乱軍はとてつもない強さで、圧倒していく。だから他の国の人も焦り、共同戦線を結んだ。そして反乱軍と世界との戦いが始まろうとしていた。
「って感じね」
柿の種をぽりぽりとお上品に食べながら、説明してくれた。
「ひ、ひどい話じゃないですか!反乱軍の人は戦争を止めるために働いていて、それで滅ぼされてしまうかもしれないなんて!」
僕は声を荒げて、世界の人たちを否定する。それもそうだ、戦争を止めるために働いているのに、世界から嫌われてしまうなんておかしな話だ。
「そうなんです、だからあなたに手を貸して欲しいんです、もちろん異世界に行くときはお決まりのチートと呼ばれる能力を差し上げます。お願いします。世界を救ってもらえませんか?」
僕は喉をゴクリと鳴らし、自己の内心と向き合う、僕は善良な人が殺されるのがたまらなく嫌だ。その感情だけが僕の心の中を駆け巡る。なら僕が取る選択は、
「わかりました。やります!世界を救ってみせます!」
「ありがとうございます。まず注意事項として、転生して異世界で死亡したとしても、元の世界に帰還することができます」
「帰還することができるんですか?」
「はい、時間は停止してますので、あなたが最後に見た光景からスタートという形になります」
僕の目の前に、テレビのようなものが浮かび上がり、図と一緒に説明してくれる。わかりやすくて助かるなぁと思いながら話を聞いていた。
「ただし、一度死亡してしまったら、もう元の世界には行くことができません、能力もそちらの世界では活用もできませんのでご了承を」
「そしてこれからやることですが、あなたはとある国に行ってもらい、学校に通ってもらいます」
「学校ですか?」
「意外な顔をしてますね、一応魔法が発達している国なので、魔法をレクチャーするところはありますよ」
元の世界では戦争中の国は学校なんて無くて、軍事力をあげる作業ばかりしていたと小さい頃から学んでいたので、少し意外だった。
「そこで、まず魔法を学んでもらいます。あぁ、大丈夫です。あなたにはチート能力がありますから、すぐにその学校で最強になることができるでしょう」
「その、チート能力ってなんですか?」
一番気になっていたことを説明を求める。チート能力がすごいものなんだろうけど、どういうものなのかは気になる。
「あなたがいく異世界では、一人一人に能力が生まれた時からあります。例えば、炎を操る能力だったり、身体能力強化だったり」
「あなたの気になる能力は、『錬金術』です」
「れ、『錬金術』ってあの『錬金術』ですか?」
「あなたが考えているものとはちょっと違います。あなたが手で触れたものはなんでも伝説級の剣に変わるというチート中のチート能力になります」
その時僕の額から汗がブワッとでて、手汗もひどかった。なんだよその能力超チート能力じゃないかと心を震わせてしまった。僕も男の子なんだと、心の中で納得してしまった。
「では、説明はその程度でいいでしょう。あなたには衣食住を与えておきますのでご安心を、では良い異世界ライフを。世界を救ってきてください」
僕の足元には紫色の魔法陣らしきものが浮かび上がり、今にも僕のことを異世界に召喚することが直感で伝わった。
「あ、あの!」
僕は召喚される前に一番の疑問を彼女に問いかける。
「あなたは誰なんですか!!」
その人はクスリと可笑しそうに笑い、男の子なら誰でも惚れちゃうような笑顔でこう言った。
「私は、リーム。女神の端くれですよ」