第7話 典型的な死亡フラグ
「俺が餓鬼との戦いに行くから、父さんは家で家族を守って欲しい」
家族の前で言い合いをしたくないから、家に帰る途中で俺は父さんに宣言した。
「だがな、バルト……」
そう言いかける父さんを俺は制して話を続けた。
「50人規模の兵を出すって村長は言ってただろ。
計算してみると、あれは戦いに行ける男たちの2人に1人は、兵とならないといけない計算なんだ。
我が家で戦える男は、父さんと俺の2人しかない。どちらかが戦いに行かなければならないんだ」
俺は理詰めで父さんを言い負かすことに成功したようだ。
「父さんが皆を守ってくれるって信じてるから、俺は安心して戦いに行けるんだ。
何をさびしそうな顔してるんだよ。
別に死にに行くわけじゃないって、元気に帰ってくるさ」
そう、別に俺は死ぬつもりとは毛頭ない。
ただ、死ぬつもりがないからと言って死なない保証はまったくないが、そんなことをわざわざこの場で言う必要もないからな。
家に帰って、家族を集めて、父さんの口から今日の集会での話が伝えられた。
そして、餓鬼との戦いについて父さんが話し終えたタイミングで、
「俺が餓鬼との戦いに行くことにした」
家族にそう宣言した。
俺の言葉を予想していたかのように、母さんが俺を強く抱きしめた。
母さんの豊満すぎる胸で息もできないくらいに苦しいって。
弟や妹たちはよく状況を理解できないのかポカンとしている。
母さんは、どうして? とかそういうくだらない事を聞かないでくれるので助かるな。
どうしようもないってことが世の中にはあるってことなんだよ。
そんなふうに家族での時間を送っていると、突然家の扉が勢いよく開けられた。
あれ? カギかけてあったよな。
まぁ、牛族の馬鹿力にかかってはあまり意味のないカギかもしれないけどな。
扉を開けて立っていたのはアンジェラ。
カギは予想通りに引きちぎられているようだ。
「バルト、行っちゃうの?」
どうして、アンジェラは説明も何もする前に全部わかっちゃうのかな?
「母さん、ちょっと出てくる」
俺は家族にそう言い残して、アンジェラを連れて外へ出た。
家から少し離れたところまでアンジェラを連れて行き、俺はアンジェラに話し始めた。
「俺が戦いに行くことにした」
「知ってる……」
「アンジェラのうちはどうすることにしたんだ?」
「うちはお兄ちゃんが行くって……」
アンジェラのうちには、両親以外に兄と姉が一人ずついて、アンジェラは末っ子だ。
うちと似たようなものか……うちの方が弟がいる分だけ一人いなくなってもマシか。
「そんな心配そうな顔しなくたって、ちゃんと帰ってくるから」
「だって……」
さすがにアンジェラのこういう顔見てるのは辛い。
「よーく聞けよ。俺は弟や妹たち、それにアンジェラを守るために戦いに行くんだ。
アンジェラがそんな顔してたら、俺は不安になってまともに戦えなくなっちまう。
だから笑顔で送ってほしいな」
「うん……」
うんって言うけど、アンジェラの顔は変わらず冴えない。
「なぁ、アンジェラ。必ず無事に帰ってくる。
帰ってくるから、もし無事に帰ったら、その時はアンジェラの牛乳飲ましてほしいな」
「ふぇ!」
アンジェラの顔が驚くほどすごい勢いで真っ赤に染まった。
「ま、ま、待って……
牛乳はまだ出ないの……
牛乳が出るようになるには、赤ちゃんを産まないと……」
あ、そうか。
いくら牛でも、雌が大人になれば牛乳を出すってわけじゃないんだよな。
うちは、弟やら妹やら、一定間隔で生まれ続けてるから、母さんはずっと牛乳出してて気づかなかったよ。
うーん、どうも基本的知識が足らなかったようだ。
「バルトとの赤ちゃん作るの?」
アンジェラが真っ赤な顔のまま、すごく大胆な発言をしてくれた。
っていうか、俺のさっきの発言はそういう意味になっちゃうんだよな。
うーん、俺の考えなしの発言が……
だが、後悔はない!
「そうだ!」
っていうか、もうこう言っちゃうしかないだろ?
アンジェラの豊満なおっぱいをちょっと吸ってみたかったなんて今更、言えやしない。
「うれしい……」
アンジェラは真っ赤になったまま、恥ずかしそうに俯いて、ポツリとそうつぶやいた。
OKなのか!
OKってことなんだよな。
俺も「ひゃっほー!」と叫びたくなる気分だ。
だが、ちょっと待てよ。
この状況ってあれじゃないか?
戦争を前にして、
「この戦いが終わったら、俺は幼馴染と結婚するんだ」
ってやつじゃないか?
いわゆる典型的な死亡グラグってやつか?
俺は、死亡フラグを立てちまったのか?
そして、戦争の後に、いいやつだったのにって皆から言われるそんな展開が待ってるとでも言うんだろうか……
いやいや、そんな展開は認めないぞ。
俺はちゃんと帰ってきて、アンジェラと子作りして、牛乳飲ませてもらうんだからな。