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第6話 緊急集会

 それからも平和な日々が続いていた。

 俺はのんびりすごすだけの日々を少しだけ改めた。父さんの仕事の手伝いを始めたのだ。


 いくら、食事に困らない牛族とはいえ、服や日用雑貨は買わなければならない。そのため最低限の仕事は必要なのだ。

 なんと言っても牛族の取り柄はその馬鹿力。腕力を活かした仕事がもってこいだ。

 父さんの仕事は木こり。森で木を切り倒して材木として市場へ卸すのが仕事だ。


 俺も斧を担いで、父さんについて森へ行くようになった。

 斧といっても力任せに振り回せばいいというわけではないらしい。振り下ろす角度や力を入れるタイミングで木の削れ方がぜんぜん違う。

 父さんと俺とでは、力はほとんど同じはずなのに、木を切る速度と言ったら倍以上の差になってしまうんだ。


 それでも毎日、斧を振り続けることでコツのようなものがつかめてきた。

 2ヶ月続けることで、木を切る速度もずいぶん早くなった。それでも、まだ父さんには敵わないな。


 市場に父さんと材木を持って行くと、いつもと違って何やら騒がしい。


「アルギス、ちょうどいいところへ来た。緊急集会が2時間後に開かれるってことで、あちこちに通達を出しているんだ。

 10歳以上の男は全員出席のことだそうだ。場所は市場前の広場だ。

 確かに伝えたからな」

 男は父さんにそう伝えると、忙しそうに駆けて行った。

 10歳以上となると俺も参加しなければならないようだ。ちなみに弟はまだ6歳だから関係ない。


「なんだろうな?」

 父さんが心配そうな顔でそう呟く。

「緊急集会ってたびたびあるの?」

「いや、俺も初めて聞くぞ」

「そうなんだ」

 いったいなんだろうな?


 村長に聞いた修羅界との戦いに何か変化が起こったんだろうか?

 嫌な予感がする。


 俺と父さんはそのまま、近くの草原で草を食んで、昼寝をしながら緊急集会が始まるのを待つことにした。

 チラホラと集まって来る他の牛族の人たちも同じ感じだ。

 緊急集会というのに緊張感がまったくないのは仕方がない。

 だって、牛族だからな。

 たいていのことは強いからなんとでもなるし、草原がある限り生きていけるんだから。


 そのままムニャムニャと昼寝してると緊急集会の時間になったようだ。

 横でまだ寝てる父さんを起こす。まわりも1/3くらいは寝てるから、近くの人が揺すって起こしてる。


 前を見ると村長が立っている。何やら先日ののんびりした表情ではなく、緊張しているような気がする。

 なんだろう?


「牛族の皆、緊急の呼び出しにもかかわらず、よく集まってくれた。

 豚族の使者から大変な情報が伝えられたのじゃ」

 村長がそう言うと、後方から牛族と比べるとやや小柄な男が現れた。


 おー、オークだ!

 いや、豚族か……初めて見たぞ。

 転生後は美的感覚が少々変化してるが、それでもあまり美しなくはないな。

 向こうから見ればこっちもそうかもしれないから、そのあたりはどうでもいいが。


「牛族の諸君、聞いてくれ。

 西の国境門が破られて、餓鬼の群れに豚族の集落が襲われた。

 敵の第一陣は半分ほど倒して追い払ったが、その際、豚族の多数が餓鬼どもに食われた。

 奴らは第二陣、第三陣と限りなく襲ってきている。

 撃退は可能だが徐々に豚族の被害も膨らんでいるのが現状だ」

 豚族の使者は一気にそれを伝えた。


「いろいろ補足しよう」

 豚族の使者の言葉に続いて、村長からの情報が付け加えられた。

「この使者の前にも急使があって、我々でも調査させてもらった。

 豚族の餓鬼による被害は事実だ。そして豚族の集落を襲った奴らの残党と思われる餓鬼に牛族も襲われておった。

 襲われた牛族の家族は食われておった」

 食われたのか……それにしても牛族をも倒すとは、餓鬼どもは強いのか?


「餓鬼の一匹一匹は怖くない。ただ、やつらは餌と思うと集団でかぶりついてくる。

 どれだけ叩き殺しても、後からどんどんかぶりついてくるから、こちらの攻撃の手が止んだ途端に一気に押し切られて食い殺される」

 うわぁ……生きたまま集団の餓鬼に食い殺されるとか、考えただけでもぞっとする死に方だな。


「それで、どうするつもりでしょうか?」

 牛族の一人が手を上げて村長に向かって発言する。


「豚族との連合を組んで、餓鬼との戦いに挑むしかないであろう。

 すでに豚族の同意は取れておる」

 豚族としてはすでに戦いに突入しているわけだから、牛族の参戦は願ってもないことだろう。


「他の種族への協力はムリなんでしょうか?」

「それについては、協力の要請は一応してみるつもりだが、難しいと思う。

 皆は知らない者が多いだろうが、ずっと多くの種族が修羅との戦い続けているにも関わらず、これまで豚族や牛族は無視し続けていたからな」

 確かに、今更ピンチだから手伝えと言っても、協力してくれるほどお人好しな連中はいないだろうな。

 これまで協力していたなら、ともかく。


「その前提で皆も一度、家に戻って話し合ってきてもらいたい。

 戦いに参加する以上、我が牛族からも50人規模の兵を出さねばならん。

 また二日後、ここで集会を行うことにする。

 そしていきなりで悪いが、そのまま出兵となる」


 牛族の村の規模は300人程度と聞く。

 うち男は半数の150人くらいで、老人や子どもを除けば100人くらいが戦いに赴くことができるであろう。

 そのうちの半分か……どれだけ生きて戻ることができるだろうか?


 この50人が壊滅すれば、牛族の生存の危機であろう。

 このまま、この土地で餓鬼の侵略から実を守ることも難しくなってくる。

 この豊かな草原を捨てて、牛族は生きていけるだろうか?

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