第14話 餓鬼戦終結
さて、がけ崩れってどうやったら起きるんだ?
下からあの山を削っていけばいつかはがけ崩れも起きそうな気がするけど、それだといつ起こるかわからないから、掘ってる連中ががけ崩れに巻き込まれるよな。
ちょっと危険すぎるからその手は取れないな。
そうなると、上の方から削っていっても、やはり巻き込まれるか……
いろいろ意見を聞いてみたところ、「ある程度上から斜めに穴を掘って、そこに大雨とか降って大量の水が流れ込めば、自然と崩落するだろう」ってがなかなか良さそうだ。
とは言っても大雨を待っているのも問題がある。
近くに川は流れているもの、山の上まで水を引き込むとかできやしない。
ってことで一つ思いついたことがある。
俺の水属性魔法だ。
200リットル程度の水を出してもどうこうなるものでもないけど、この魔法は連発可能なんだよな。
MP消費量はわずかで、自然回復分ではさすがにまかなえないが、俺のMPが空になる前にどれだけ水が出せるかな?
MP量がどのくらいかよくわからないけど、結構な量の水を流し込めそうな気がする。
崖の上に穴を掘るのは牛族の皆にまかせておいて、俺はぐっすり眠っておくことにした。
穴が掘り終わるまでにそれなりに時間がかかるだろうから、俺の仕事はその後だな。
眠っておけば、きっとMPもマンタンになっていることだろう。
朝から始まった穴掘り作業は昼過ぎには終わっていたようだ。
俺が見に行くとまた結構やりすぎな感のある穴が斜めに深く掘られていた。
こんなに掘っても大丈夫なのか?
俺が何もしなくても崩落が起きそうなくらい掘られているじゃないか。
危なっかしいな。
まぁとりあえず事故はなかったようなのでいいことにしておこう。
俺のリクエスト通りに魔法で出た水が穴の中に流れ込んでいくような溝もしっかり掘られている。
あまり近くで水属性魔法を使ってると、俺までがけ崩れに巻き込まれかねないからな。
「ウォーター」
俺の詠唱で200リットルくらいの水が湧き出し流れていく。
うん、いい感じだな。
これからは単純作業だ。
最初のうちは物珍しがって俺の周りには豚族、牛族だけでなく、狐族の商人まで見物人が押し寄せて来ていたのだが、あまりにも単調なので、徐々に見物人は減っていった。
そりゃ見てても急な変化とかないだろうし、退屈だろうな。
俺もどのくらい水を出したら崩落が起こるかとか見積もりができてるわけじゃない。
もしかしたら、そう簡単には起きないかもしれないからな。
そのまま、2時間ほど経って、俺はめまいを起こしそうになった。
どうやら、MP切れらしい。
うーん、このアイデアはどうやら失敗に終わったようだな。
残念だがしかたがない。
これまで作戦がずばりと当たってきたが、そうそう上手くいくものじゃないな。
俺はがっくりしつつも、この作戦の中止の指示を出して、山の上から引き上げた。
その日は夕方から、ポツリポツリと雨が降り出し、夜には本降りとなった。
深夜に大きな音がして目が覚めたが、この真っ暗な状態で見に行くのは危険なので、朝が来るのを待つことにした。
朝日が登ってすぐに崖下を見に行くと、派手にがけ崩れが起こっていた。
俺たちが昨日のうちにやっていたところに、自然の大雨がトドメを刺した結果になったようだな。
偶然なのか、これ?
王でも目指すのなら、「天意は我にあり」と宣言したいところだが、俺にはそんなつもりはない。
ただ、ラッキーって思うだけだ。
何はともあれ、がけ崩れは無事に起こせたようだ。
「村長、後の指示はお願いしていいですか?」
これ以上、俺が出しゃばり続けるのは、今後いい結果に繋がりそうにない気がする。
俺は、後始末をすべて村長に押し付けることにした。
「MP使いすぎて、まだ気分が悪いので、今日はゆっくりさせてもらいます」
本当は嘘だ。
十分に寝たわけではないし、MPは当然マンタンになってないが、別に普通の活動をするのに困るような状況ではない。
でも、こう言っておけば、誰も信じるしかないだろう。
なんかラッキーなだけの結果を誇る気にもならないが、何はともあれ成功したことで重圧が解かれて気が抜けちまった感がある。
ちょっとくらいのんびりとゴロゴロさせてもらっても、バチが当たることもないだろう。
美味しい草がないのが残念だが、今日は昼寝して過ごさせてもらおう。
これで終わりかなと思ったら、なんか急に家族やアンジェラの顔が見たくなってきた。
なんとか無事に終わって帰れそうだよな。
帰ったらのんびりと美味しい草でも食んで、母さんの牛乳飲んだり、アンジェラと2人で草原で日向ぼっこしながら昼寝したりしたいな。
狐族の商人との間に借りを作ってしまったのが将来の禍根になるかもしれないけど。




