第13話 国境門
今回の餓鬼迎撃ではこちら側の重軽傷者なし、当然ながら死者もなしという大成功に終わった。
問題は次回以降も同じように餓鬼どもが落とし穴にはまってくれるかどうかだ。
人間同士の戦いなら、罠の存在はすぐ敵に知られ、同じ罠がもう一度通用することとかありえないであろう。
でも、餓鬼どもは前回の戦いの結果を持ち帰って次に繋げるという様子はこれまでのところ、まったく見られてない。
たぶん大丈夫なんだろうなぁと皆で思いつつも、もし違ったらどうしようという疑心暗鬼のまま、5日間が経過し、餓鬼の襲撃の日を迎えた。
不安はすぐに解消された。
前回と同じように餓鬼どもはまっすぐ攻めかけてきて、前回と同じように落とし穴に落ちていった。
俺たちもやはり前回と同じように、餓鬼どもを燃やし尽くしたのだ。
人間って、どんなことにもすぐに慣れてしまうんだな。
前回あった葛藤はすでに今回はなく、極めて機械的な作業で餓鬼の迎撃を再び無傷で終わることができた。
これを持って再び豚族との打ち合わせが行われた。
打ち合わせの目的は、今後のことについてだ。
「牛族の協力に感謝する。また狐族の商人の協力にも同様に感謝したい。
連続して、誰一人怪我することもなく餓鬼どもを迎撃することができた。
そして今後とも同様の手段で迎撃し続けることが可能であると見極めることができた」
豚族族長はとてもご機嫌のようだ。
意気揚々と話を続けた。
「今回の牛族との共同作戦はこれをもって一旦、終わりとしたい。
今後は豚族だけでの迎撃で大丈夫だろう」
豚族族長の言葉に牛族のリーダーたちは喜んでいる。
これで草原に帰れると考えると俺だって嬉しいのは当然だ。
でも、それでいいのか?
「共同作戦終了というのは正直言って嬉しい。
でも、それで豚族としてはいいのか?
迎撃可能とはいえ、5日毎に餓鬼どもの襲撃という日常ではないことが今後も起こり続けるのだが、それに耐えられるのか?」
俺は一言、そう言わずにはいられなかった。
「ならば、どうしろと言うのだ?
餓鬼界に攻めて行って白黒決着つけろとでも言うのか?」
怒ったような口調で豚族族長は俺にそう言い返す。
「いや、餓鬼界に行くのだけは正直言って勘弁して欲しい……」
これは本心からそう思う。あの餓鬼どもが見渡す限りいるところを想像するだけで怖気づいてしまう。
「それはそうだろう。誰もがあんなところへ行きたいと思うわけがない。
ならば、しかたないではないか」
「一つ疑問があるんだ。
餓鬼界との間に門があって、それがいつの間にか壊れていて、そこから餓鬼どもが攻めてきたんだよな」
「ああ、そうだ」
「その門って必要なのか?
その門を使って餓鬼界とこちらの世界とを行き来する必要があるやつがいるのか?」
俺の疑問に誰一人として答えを返す者はいなかった。
「ならば、その門を直す……直してもまた壊されるかもしれないか。
いっそ、完全に塞げないか?
そうしたら、餓鬼どもとの戦い自体がなくなるだろう」
いったい、この戦い自体が意味のあるものなのかどうかが疑わしい。
餓鬼どもは何故攻めてくるんだ? 俺たちを食べるためってのは本当なのか。
門はどうして壊れた? 誰かが壊さない限り自然に壊れるとは思わない。
5日毎って周期もよくわからん。
何かの邪な意思のようなものを感じる。
誰かが壊したのなら直しても無駄だろう。
もう物理的にどうこうできないように完全に塞いでしまえばいいじゃないか。
「だが、あの門はずっと昔からあそこに……」
村長が弱々しくそうつぶやく。
「昔からあったって、不要な物では?
いや、不要どころか俺たちにとって有害な物のはずだ。
そんな門ならないほうがいい。
少なくとも俺たちは餓鬼界とかに用はないんだから、塞いでしまえば後腐れなくなっていいじゃないか」
俺の意見に主に豚族の面々から、「そうだそうだ」との賛成意見の声が増えてきた。
その様子を見守っていた豚族族長が再び口を挟んだ。
「国境門の封鎖という意見が強いようだな。反対意見はあるか?」
しばらくそのまま眺めていたが誰も反対意見はないようだ。
「よし、ならばどうやって封鎖するかについて話し合うとするか?
バルト、何かアイデアを持ってそうだな?」
さすが、いい勘してるようだな。アイデアならちゃんと持ってるよ。
「この前、掘った穴から出た土を門からさほど離れてないあたりに貯めてあるんだ。
それだけじゃ、とても足らないけど、あの山一つ崩せば、門のあたりが埋まるんじゃないかなと」
ちょっと乱暴な考えだけど、近くにちょうど木が少ない山があるんだ。
あの山なら、簡単にがけ崩れとか起こせるんじゃないかって思ってる。
山一つ分の土をすべて運ぶとなると、さすがに力持ちの牛族でも重労働すぎるけど、がけ崩れ起こした後の整地くらいなら簡単とは言わないけど余裕でやっちゃえそうだ。
その証拠に俺が言い出した一見ムチャな感じの提案にも牛族のリーダーたちは、そのくらいなら問題なさそうだなって感じの表情をしている。
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