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第12話 殺戮

 いろいろあって気が滅入るな。

 こんなときは美味しい草でも食べてのんびり昼寝でもしたいところだが、どうもこのあたりの美味しい草は牛族が食べ尽くしてしまったせいで、いまいち美味しくない種類の草しか残ってない。

 牛族の住む草原が、牛族にとってどれだけ住みやすい場所であるかってことか。

 早く草原に帰りたいな。


 気に入らない流れにはなったが、落とし穴以降の作戦案もまとまった。

 藁や枯れ木などは豚族の方で用意してくれると言うので、そちらはまかせることにした。


 いくらなんでも大きな穴が丸見えではどうだろうという意見もあったので、これも豚族主導で偽装工作を行うことになった。

 俺としてはあの餓鬼どもの勢いなら、偽装工作とか要らないような気もしたが、それを主張するほどの根拠もないので、ここは素直に偽装工作の方はまかせることにした。


 半日ほどすると、さすがに偽装工作を主張した豚族の面々の腕は確かなようで、ぱっと見た限りでは落とし穴だと気づかない感じになった。

 これなら、まったくもって問題なさそうだ。

 どちらかと言うと、餓鬼以外が落とし穴にはまらないように徹底する必要がありそうだ。


 そのまま、次の襲撃の日の前日になったが、狐族の商人からの荷は届かない。

 ギリギリになるだろうと最初から言っていたから問題ないとは思うが、やや心配だ。


 村長や豚族族長も不安になったのか、荷が届かない時の対策を練っておこうかとの打ち合わせが行われた。


「基本的に荷が遅れたとしても、落とし穴はそのまま有効だと思います。

 ただ、落ちた餓鬼を安全に殲滅する手段がちょっと思いつかないのが問題です。

 そのまま荷が届くまで、少数で監視し続ければ大丈夫かと」


 俺が対策として考えたのは、そんな詰まらないアイデアだ。

 基本は現状維持で、今更じたばたしてもしかたないってところだ。


 荷は遅れることもあるだろうけど、届かないってことはありえないだろう。

 2-3日遅れてもそれはそうれでなんとかなるだろう。

 その次の餓鬼の襲撃まで届かないとなるとちょっと問題だろうが、その時はその時で考えればいいじゃないか。

 もっといいアイデアがあったら俺の方が教えて欲しいところだ。


 牛族は基本的に楽天的、豚族は商人をそれなりに信用しているという両方の理由で、俺の考えでいいだろうと言うことになった。

 それはそれで、俺が心配になるけど、他にいいアイデアが出ないのなら仕方ない。




 狐族の商人からの荷は結局、襲撃の2時間ほど前になって届いた。

 本当にギリギリだったな。ヒヤヒヤさせられたぜ。


 でも、これで不安はなくなった。

 あとは、餓鬼どもの襲撃を待つだけだ。


 俺たちは落とし穴のこちら側に全部隊で陣取った。

 予定通りの時刻に予定通りのコースを通って、餓鬼どもの襲撃が始まった。

 本当にこいつら機械的な動きしかできないんだろうか?


 俺はやや不安ではあったが、餓鬼どもは俺たちが陣取っている方向に向かって真っ直ぐにかけてくる。


 もう少しだ……


 俺はハラハラしながら見守っていたが、予定通りに先頭の餓鬼が落とし穴にはまって落ちていった。

 勢いのある餓鬼どもは先頭が落とし穴に落ちたことに気づくこともなく、そのまま次々に落とし穴に落ちていく。


 先頭で落ちた餓鬼の何割かは即死したようだが、後続の餓鬼は先に落ちた餓鬼がクッションの役目をしたせいか、無事な奴らが多いようだ。

 穴の下で、積み重なるように、こちらへ向かって這い上がろうとあがいている。


 これは当初の深さだったら何匹かは這い上がってこれたかもしれないな。

 牛族の勝手に深く掘った奴らに感謝しないといけなさそうだ。


 俺は指示を出して、作戦の第2段階に移行することにした。

 餓鬼たちに向かって、藁や枯れ木が落とされていく。

 そして、その上から大量の蒸留酒がばらまかれた。


 後ろで構えていた、豚族の弓矢隊から穴に向かって火矢が放たれる。

 蒸留酒に浸された藁や枯れ木が勢いよく燃え上がる。


 穴の中から餓鬼どもの断末魔が聞こえる。

 地獄ってのはこういう有様なんだろうな。


 平和な日本だと、こういう殺戮方法に非難の声を上げるやつはいるかもしれないな。

 でも、直接武器で殺すのと、罠にはめて焼き殺すのとでは、どう違うんだ?


 同じく敵を殺す行為なら、俺は少しでも味方が安全な方法を取りたい。

 当然、こうやって殺すことが罪でないなんて思わない。


 でも、仲間を守るためならいくらでも、どんな罪でも俺は犯すことに躊躇するつもりはない。


 この餓鬼どもの断末魔に耳を塞がずに最後まで聞くことが唯一の俺の贖罪である。

 この殺戮は俺が計画して俺が実行したものだ。

 すべての罪は俺が背負えばいいことだ。

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