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第11話 狐族の商人

 言い出しっぺということで、穴掘りの総指揮は俺が取ることになった。

 総指揮というよりも現場監督だな。

 こういう人を動かす役割って正直言って苦手なんだけどな。

 黙って体を動かすほうが得意だ。


 しかし、まわりの牛族って俺以上にそういうやつが多そうだ。そういう傾向にあるやつを寄り集めて牛族にしたんじゃないかと思えるくらいだ。

 皆、言われたとおりに何も考えずに作業させてると本当に生き生きとしてよく働いている。


 一人で現場監督してると、いろいろと目が届かないところが出てくるので、俺の小部隊の器用部門の5人を各部署に配置して、監視させることにした。

 監視の目的は怠けるのを防ぐためではない、そんなことしなくても、皆せっせとよく働いてくれる。

 監視してないと、皆やりすぎるのだ。なんか、とことんまで。


 ちょっと油断していたら、穴が深く掘られすぎてるじゃないか……

 誰だよ、こんな深くまで掘ってたのは。


 簡単に登ってこれないように数メートルの深さの穴を掘るように言ったつもりだったんだが、いつのまにか穴の深さが10メートル以上になってやがった。

 これだけ深いと危険だよ。

 間違えて落ちたら、大怪我どころか、当たりどころが悪ければ死ぬぞ。


 この深さで気づいてよかったよ。

 どうして気づいたかと言うと掘った土をかごに入れてロープで引き上げていたんだが、ロープの長さが足らなくなって困って俺のところに相談にきたせいだ。

 ロープがもっと長かったら、穴ももっと深くなったに違いないな。


 っていうか、穴の下で掘ってる奴らが上がってくるのも一苦労じゃないか、これは。

 俺は大量に運び出された土を見ていて、ふと思い出したので、ちょっと離れているが別のところにまとめて運んでおいてもらった。

 思いつきで仕事を増やしたのに、誰一人として嫌な顔一つしやしないな。


 そんなこんなで俺が最初想定していたよりもはるかに深い落とし穴ができたので、報告することにした。

 穴の様子を見に来た豚族の族長やその取り巻きたちは、あまりに深すぎる穴を見てあきれるばかりだ。

 そりゃまぁ、あきれるだろうな。


「これはまた見事な落とし穴だな」

 あきれながらも、感心した口調で豚族族長はそう話しかけてきた。


「ちょっと、やりすぎた感がしないでもありませんが」

 俺は素直にそう言っておく。ちょっとじゃないよな……


「落とし穴にはめた後はどうするのがいいだろう?

 落ちただけで死ぬような餓鬼どもは少ないと思うんだが」


「そうですね。弓を撃ちかける……のは難しそうですね。撃つほうが落ちそうだ」

 考えてなかったな……どうするのが効果的かつ安全だろう?


わらとか枯れ木とか、燃えやすいものを落として、火をつけるとかどうでしょう?

 それだけだと、燃えにくいか……

 なら、ガソリンでも……あっ、いやいや、なんか燃えやすい酒とかないですか?

 発火しやすいような」


 危ない危ない。この世界にガソリンとかないよな。


「うーん、あまり濃い酒は豚族では好まれないのでないなぁ」

 豚族族長が困った顔でそう言った直後、


「面白そうな、牛族の方がいますね。

 穏健なイメージの牛族にはあまり似つかわしくない大胆な考えの」

 豚族族長の影に隠れて、小柄な体が見えてなかったが、狐のような顔かたちをした男が前に現れた。


「豚族と取引させてもらってる狐族の商人アズネです。

 ガソリンはムリですが、ウォッカ並にアルコール濃度の高い酒なら大量に用意できますよ」

 狐族の商人は、にたにた笑いながら、俺にそう告げた。


 こいつはなんだ?

 ガソリンを知っている? そしてウォッカの名前を俺はだしてないよな。

 普通に考えれば、前世の記憶持ちってことか。


「おー、それは助かる。是非お願いしたいが、高いと困るな」

 豚族族長は気軽にそう狐族の商人に交渉していっている。


「いやいや、安いのがありますよ。白熊族の作る酒は滅相アルコール濃度が高いのですが、他ではあまり好まれないので安く流通しております。

 あっと、安いとか言っては商売人失格ですな。ふぉっふぉっふぉ」

 すっごくわざとらしい笑いだな。何を考えているんだろう?


「それはいいことを聞いた。是非お願いしたいものだ」

 豚族族長って素直すぎるんじゃない? 日頃、この商人にぼったくられてないか?


「そうですね。必要なのは3日後ですよね。

 ただ安い商品ですが、白熊族のところから急いで輸送してくるってのは正直言ってすっごく面倒なんですよ。

 困ったものですな。

 そうそう、牛族のお若い方、あなたのお名前は?」

 どうして、ここで俺の名前が必要になるんだ?


「バルトだ」

 しかたないじゃないか。この流れで名乗らないわけにもいかない。


「そうですね、すっごく面倒なんですが、バルトさんに1つこの件について貸しにさせてもらえるのなら、やりましょうか。

 面倒なだけで、できることですからね」

「貸し? 具体的に俺は何をすればいいんだ?」

「具体的なことがとりあえずないので貸しなんですよ。

 将来、バルトさんにできることで、面倒なお願いをするかもしれないので聞いていただければと。

 あくまで、できる範囲で」


 そういう流れかよ。

 すっごく嫌な予感しかしないけど、断れないじゃないか、これ。


「わかったよ、借りにしておけばいいんだろ。あくまで俺一人の借りだからな」


 こいつ悪徳商人に間違いないよな。

 その悪徳商人に借りを作るとか、絶対したくないんだけど!


 俺に今できるのは、牛族や豚族に迷惑のかからない約束にしておくことくらいだ。

 たくさんのブックマークや評価ありがとうございます。

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