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第2話 2

「なあに、すぐに出動することになる。それまでは待機しろ。宿舎を案内させよう。マリア、彼を案内してやってくれ」


 女性が入ってきた。

 廊下で待機していたのだろう。

 年齢は10代後半から20代前半。

 眼鏡をかけた女性だ。

 異国の血が入っているのか、髪の色が明るい。

 そして、なんというかたいへん胸の膨らみの大きい(かた)だった。


「黒木くん、私は新條マリア。宿舎まで案内するからついて来て」


 私は新條のあとをついていった。

 基地の敷地内に宿舎はあった。

 それはマンション型の集合住宅。

 中に入るとエントランスにテーブルと椅子が並んでいた。

 談話室のように使われているようだ。


「ここか屋上で毎週パーティが開かれるんだ。強制参加ね。ただ夜中まで騒いでいると、松下隊長に鉄拳制裁されるから気をつけてね」


 みな楽しく過ごしているようだ。

 私は少し安心した。

 たとえ死が待っているとしても、それまでは楽しく生活したい。

 むろん妖怪への憎しみはあるが、この先ずうっとお通夜のように過ごすのは、私にはひどく困難に感じられた。

 私は喜びも哀しみもする。

 それが人間というものではないだろうか。


「そこは電算室。シミュレーターもあるよ。訓練はここで行うことになるかな」


「ここでオートアーツ用のプログラミングはできますか。できればワークステーションが欲しいのですが」


「プログラムできるの!? えっと……できるよ。ワークステーションもあるよ。へぇ、世界三位はそんなことまでするんだ」


「そんなことまで知られてるんですか」


「うん、シミュレータで近接格闘術を使うプレイヤーがいるって評判になってたんだ。へぇ、スクリプトまで書いてたんだ。他にもあるの?」


「ええ、地上でも使えるようにしたソナーとか、ドローン用の赤外線カメラとか」


「うわー、すごーい! 今度見せて! いや、ちょうだい!」


「う、うん、いいけど」


 およそ女子が好きそうな会話ではないが、新條の食いつきは良かった。

 私たちはエレベーターで8階に案内されるまで、オートアーツの話をしていた。

 8階に着くと新條はその中の一室に私を案内する。


「はい、ここが黒木くんの部屋。荷物置いたらラウンジに来て、歓迎会やるから」


 どうやら断るという選択肢はなさそうだ。

 私は荷物を置くと言われた通りラウンジに向かう。

 ラウンジには人が集まっていて、パッケージングされた食料や飲料が置かれていた。

 私を見かけると浅黒く日焼けした少年が手を振った。


「おーっす、来た来た。よう、彼が新しい仲間の……えっーっと」


「黒木晶です。よろしくお願いします」


「南条一樹だ。んじゃ、いつも通り適当につまんで、適当に飲めや。では新しい仲間に乾杯、そして黒木の仲間へ献杯!」


 私は場の空気に押されてお茶の入ったコップで乾杯をした。

 なぜか彼らは皆一様になれなれしい。

 私はそれが不思議でたまらない。


「ま、黒木は俺たちが常に怒ってたり、悲しんでないのをおかしいと思ってるんだろうな」


「はあ」


 私は気のない返事をした。

 確かに私は、私たちのほとんどが二年以内に死ぬだろう。

 それなのに妙に明るい理由が知りたかった。

 だが、いきなり話を振られて、どう答えれば良いかなんてわからないのが普通だ。

 正直に答えられるほど、彼らを知っているわけではないのだ。


「そんな顔すんなって。みんな最初は同じ事を聞くんだよ。答えは【どうせ死ぬなら、開き直って楽しく生きることにした】だ」


「……はあ」


「真面目な顔すんなって、ハゲるぞ。死ぬ間際まで前世紀のドラマみたいに大声で言い争うなんて、俺たちはごめんだってだけだ」


 なんとなくだが腑に落ちた。

 たとえそれが偽りのものであっても、彼らは心穏やかに死ぬことを選んだのだ。


「確かに争いは戦争だけで充分ですね」


「そういうことだ。だからこの基地では争いは厳禁だ。オイタしたら地下の営倉にぶち込む。それ以外は自由だ。わかったな」


 私は返事をしなかったが、南条はそれを同意と受け取ったようだ。

 それでもいい。反論する気も起きない。

 もともと対人での争いは好きではない。

 誰にでもニコニコと尻尾を振る気はないが、積極的に喧嘩をする気力もない。

 そもそも恨まれて戦場で後ろから撃たれるのはバカバカしい。


「さあさあ、釘を刺すのはここまで、今度は聞きたいことがあるんじゃないか? なんでも答えてやるよ」


「九十九隊長にもう聞いた」


「もっと詳しくだよ。九十九隊長は憶測の話はしねえ。だけど俺は噂や考証なんかも教えてやる」


 くだらない。

 噂など聞いてなんになるというのだろうか。

 私はお菓子を手に取る。

 手作りしたものとは違い、ちゃんと空気に触れないようにビニールで個別包装されている。

 たまに手に入るチョコレートと同じだ。


「最初来たときは俺も驚いたぜ。俺たち兵士に優先支給されてるのな」


「一応は優遇されているわけだ」」


「生き残った兵士の士気を下げないように、あらゆる方策をとっているんだわ。音楽、各種映像コンテンツ。戦果を出せば、タバコ、酒……カウンセリングルームのAIの許可を取れば精神の薬もくれるぞ」


 兵士の質に対する執念が度を超えている。

 執着しすぎている。

 数を揃えた方が楽に決まっている。


「なんでそこまで質にこだわる? クローン兵士なら天才だけ選別すればいいんじゃないか?」


「天才ってのは環境やら出会い、愛情なんかも複雑にからんでくるらしい。それは今の進んだAIでも狙って生み出すことは不可能だってさ。だけど発生条件はわかっているから、発生確率の高い愛情深い家庭でクローンを育てるわけよ」


「今の子たちをちゃんと戦闘訓練した方が……」


「それは天才の発生率が高い連中にはされてるぜ。九十九隊長とかな。あいつは幼児のころから妖怪を殺すためだけに英才教育を受けたらしい。俺たちは選別落ちのみそっかすってやつだ」


「じゃあ九十九隊長を1000人用意すりゃいいじゃないか」


「そういうわけにもいかねえのよ。九十九隊長は最強ってわけじゃねえし、100体のクローンもほとんどが初戦を生き残れなかった。兵士の数を増やすとなにが気にくわないのか妖怪の数も増える。戦争初期に10万人の歩兵を動員したら、その10倍の妖怪がわいたってさ」


 50人の兵士に姑獲鳥を入れて500以上の妖怪画現れたのはそういうことか。


「実際それに気づくまでに人類の大半が死亡。以後はクローンに頼らなければ、戦争も産業も維持できなくなったってわけよ」


「地獄だな……」


「だから量より質なんだよ。最初に選別して生き残ったやつだけ育てる。そして最後に生き残ったやつら、DNA的に優秀な兵士を掛け合わせて、百体以上クローニングする。そのおかげで、たった一機で数百体の妖怪を斬り捨てたお前みたいなのが現れる」


 どうやら私は化け物扱いらしい。

 かなりの数を斬り捨てたのは事実だが、ほとんどは落ちていた銃を使い捨てにしながら逃げ回り、ときには仲間の乗っていたオートアーツを盾にして惨めに生き残ったというのが真相だ。

 なにより仲間を犠牲にした。とても自慢できたものではない。


「まあまあ、むくれるなよ。あとで俺の部屋に来いよ。面白いもの見せてやるからよ」


 南条という男、なかなかクセがある。

 私はこの男のせいでせっかくのお菓子の味もわからなくなってしまった。

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