第1話 終
次の瞬間、ドローンとの通信回線が切断された。
ドローンが撃ち落とされたのだ。
「うっ、急いで次のドローンを飛ばす。30秒待って」
嫌な予感がした。オペレータールームへ走り出す。
「鈴木、香川! 敵の目的はオペレータールームだ! 瀬戸が危ない!」
「わかってる! クソ! 姑獲鳥だ。小さいころに図鑑で見たまんまじゃねえか……」
ドンッという音がした。鈴木と姑獲鳥が戦闘を開始したのだ。
まずい! 鈴木のレールガンは多数の敵を相手するようにはできていない。
「ミサイルを撃つ! 鈴木は撃ちもらしたのを狙撃して!」
あちこちで銃撃の音が聞こえてきた。
それと同時に操縦席から聞こえる爆発音も。
空を見ると上半身が女性という気持ちの悪い鳥、姑獲鳥が炎の弾を吐くのが見えた。
炎の弾はオートアーツにぶつかると激しく爆発する。
爆発でオートアーツの上半身と下半身がちぎれて飛んでいった。
「よしロックオン! 発射ぁッ!」
昼間だというのに空が明るくなり、香川の放ったミサイルが白煙を上げながら飛んでいくのが見えた。
「よし、一発で倒せる! もう一度!」
香川の声に勇気がわいた。
だけど僕が森を抜けるとそこは惨憺たる有様が広がっていた。
そこかしこにスクラップになったオートアーツが転がっている。
すぐ近くに足が壊れた標準機のオートアーツが見えた。
色はグレー。初期値のまま。オートアーツの訓練をサボっていた連中だ。
「黒木、黒木か! 俺だ円上だ! 助けてくれ! みんな、みんな、最初の襲撃で」
姑獲鳥が炎の弾を吐くのが見えた。
円上のオートアーツが無残に爆発した。
主人公。僕のクラスの主人公はなにもできず、なにも残せず、爆死した。
じゃあ脇役の僕は……。
僕は死を頭から追い出そうと必死になった。
冷静に。冷静に。集中力を維持しろ。
僕は円上を仕留めた姑獲鳥にレーザーアサルトを乱射する。
蜂の巣になった姑獲鳥が森に落ちた。
僕は必死に走る。
鈴木も、香川も、瀬戸ももうすぐ近くだ。
「すまねえ……黒木、俺、詰んだわ。外部電源ユニットが壊れた。俺は放って瀬戸の方に行ってやれ」
やめろ。やめてくれ!
「俺もミサイル全弾撃ち尽くしたわ……黒木。あとは頼んだぜ」
おい、ふざけんな! あきらめんな!
「じゃあな黒木! オラァッ! 化け物ども来やがれ! 俺が世界最強のスナイパー鈴木様だぁ!」
「ぐははははは! オラオラオラオラァッ! 俺が香川だ! 来やがれ焼き鳥野郎!」
二人はわざと外部スピーカーで虚勢を張った。
心で泣きながら僕はオペレータールームに走る。
後方でオートアーツがひしゃげる音が聞こえた。
オペレータールームは姑獲鳥に囲まれていた。
僕以外にも気づいたものがいたのか、オートアーツが激しい戦闘を繰り広げていた。
僕はレーザーアサルトで姑獲鳥を撃つ。
姑獲鳥を何体も蜂の巣にした。
全ての姑獲鳥を落としてないのに、今度は先ほどの残存勢力の一つ目が突撃してきた。
僕はレーザーアサルトを乱射するが、すぐに電圧低下の警告音が鳴った。
センサーを見ると脚部ステータスが赤く光っている。警告音が鳴り響く。
それでもやるしかない。
僕はクールダウンをしながらレーザーブレードを抜く。
動き回ることはできない。
一つ目がやって来た。数は数十匹。
僕は動けないが、今回は味方がいる。
味方のオートアーツが実弾のアサルトライフルを乱射する。
やはり実弾ではワンカードリッジで一体倒せるくらいだ。
それでも弾幕によって、無事にクールダウンが終わった。
僕は倒れているオートアーツからショットガンを拾う。
そのままショットガンを乱射する。
一つ目を数体倒すと弾切れ、ショットガンをリロードする時間はない。
僕はショットガンを捨てるとレーザーブレードを抜く。
一つ目を斬って、斬って、切り裂いていく。
肩口から切り裂き、脇から切り上げ、喉を突き刺す。
数体を切り捨てると一つ目の様子が変わった。
その目は知っている。
恐怖だ。
彼らは僕に恐怖を抱いていた。
格技の授業の成績が良いとは言えない僕を恐れているのだ。
「今だ! 彼が一つ目を抑えている間に対空射撃!」
僕は一つ目ににじり寄る。
一つ目が金棒を振り回す。
僕は踏み込んで足を突き刺す。
当面は動けなくすればいい。
他の一つ目よりも筋肉がついた強そうな個体がやって来た。
四股を踏んで強いぞとアピールするが、僕は問答無用で脳天から一刀両断にする。
そのまま他の一つ目に襲いかかる。
一気に三匹に襲いかかり、目を突き刺し、首をはね、胴を両断した。
焦るな。焦るな。焦るな。僕が下を抑えているから、みんなは対空射撃ができる。
「ごめんね。黒木くん……」
その通信に胃液が上がり、口の中がすっぱくなってきた。
「だいすきだよ」
おいやめろ!
後方で爆発音がした。
炎が上がり、オペレータールームが消えた。
僕は雄叫びを上げた。
妖怪は一匹残らずこの世から消してやる!
斬って、斬って、斬りまくる。
一つ目を全滅させると、転がっていたオートアーツの残骸から武器を取り上げ。
姑獲鳥を撃ちまくる。
姑獲鳥も火炎弾を撃ってきたが。もう僕は構わなかった。
皆殺しだ!
足が爆発しても僕は銃を撃ち続ける。
マガジンがなくなったら転がって、別の銃を手に入れてさらに撃ち続ける。
もう作戦も何もない。
本能のままに暴れ回った。
200は殺しただろう。ようやく最後の姑獲鳥を撃ち殺す。
僕のまわりにはオートアーツの残骸が散らばっていた。
誰一人生き残ってはいなかった。
隊長も。兵士も。
クラスメイトも。
鈴木も香川も。
瀬戸も。
……たった一人、僕だけが生き残った。
救援のヘリが近づいているとのメッセージが表示されていた。
勝利したというのに、なぜか涙が止まらなかった。
それが【私】の少年時代の終わりだったのではないか。
そう今は思う。