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第1話 4

 するとハスキーボイスの女性の声が操縦席に響いた。


「あわてるな。いつもの(・・・・)ことだ。諸君、私は隊長の松下だ。まず諸君らの戦っている相手だが……かつて土地神と言われたものたちだ」


「はあ?」


 思わず声に出していた。

 たぶんみんな同じだっただろう。

 でも松下隊長への通信はできないようになっている。

 つまり質問は許されないのだ。

 ディスプレイに一つ目の巨人が表示された。


「敵は妖怪や精霊とも言われている。あれが我らが100年以上戦っているものの正体だ。今映し出されているのは敵の主力。歩兵【一つ目】だ。飛び道具は持ってないが投石をしてくる。気をつけろ」


 松下隊長の話はほとんど冗談みたいだった。

 だけど話はこれで最後を迎える。


「作戦は全力で生き残れ。以上だ。戦闘開始!」


 僕たちは使い捨ての駒だった。

 それをわからないものはいないだろう。

 僕はレーザーライフルを構え突撃する。

 遮蔽物。キャンプ場の森に入ってカバーしながら撃とう。

 とにかく敵を減らせば生存率が上がる。

 僕は辺りを見た。

 後方で外部電源ユニットをつけた迷彩柄のオートアーツが親指を立てた。

 鈴木の機体だ。本当に色まで再現している。

 さらにその先に全身黒いキャタピラの機体がいた。

 おそらくあの悪趣味な塗装は香川だろう。

 僕が手を見ると腕が赤い。

 なるほど色は搭乗したら設定した色に変わるのか。

 僕は素直に感心していた。そう、シミュレーターで慣れてるため冷静だったのだ。

 だがあまりゲームに積極的ではない層は違った。


「クッソ、俺はオートアーツの授業をサボってたんだ。動かし方なんてわからな……」


 クラスで偉そうにしていたヤンキー、佐山が泣きそうな声で訴えた。

 教えてやろうかと思った次の瞬間、ぐちゃっと湿った音がして通信が切れた。

 振り向くと投石ではなかった。

 引っこ抜かれた巨木が、胸にある操縦席に突き刺さっていた。

 佐山は死んだのだ。あっさりと、まるで冗談のように。悪夢のように。


「冗談だろ……」


 僕はつぶやいた。

 こんな雑な殺され方をするなんて聞いていない。

 女子が一斉に悲鳴を上げる。

 だけど僕たちのチームは冷静だった。


「黒木くん、囲まれてる。ソナーを使って!」


 瀬戸の声がしたのと同時に僕はソナーを使った。

 オートアーツと同じ大きさの三体の怪物に囲まれているのがわかった。

 まだ気づいていない。

 僕は身を乗り出すと、一体の頭に狙いを定めた。

 一つ目。金棒を持った巨人。

 距離は思ったよりも近かった。

 僕が引き金を引くと、シュンと音がして、一つ目の胸に風穴があく。

 傷口は焼け、血も出ず穴がぽっかりあいていた。

 一つ目は悲鳴を上げることもできずにその場で倒れた。


「黒木! 危ねえ!」


 鈴木の声と同時に、僕に金棒を振り降ろそうとする一つ目の上半身が弾け飛んだ。

 鈴木がレールガンで狙撃してくれたのだ。

 僕はレーザーアサルトで三匹目を撃つ。

 やはり一撃で動かなくなる。

 装甲は薄い。いや生身だ。


「ちゃんと殺せる!」


 恐怖が引いていくのを感じた。

 冷静になりさえすれば、勝てる相手だ。たぶん。


「黒木! 敵四体が接近中。榴弾撃つから下がれ!」


 香川の声の途中で僕は走った。

 足の熱センサーがピーッと鳴って注意を促す。

 モーターが焼き切れる前に休まなければ。


「だんちゃーく、いまー!」


 爆発音。土埃が上がり、香川の榴弾が弾着する。

 一つ目が吹っ飛んでいく。

 マイクの許容音量を超えたのか、操縦席の内部スピーカーから「ガガガガガ」という雑音が流れた。

 僕は木の陰に隠れ、ラジエーターを最大にして熱を持った足を冷却する。

 強制換気がされ脚部からプシューッとガスが出る音がする。

 その間もソナーセンサーで辺りをうかがう。

 瀬戸からブロードキャストされたドローンの赤外線カメラには大量の敵が写っている。

 圧倒的不利。でも僕はなんとか冷静さを保っていた。

 だけどやはり他のクラスメイトたちはそうではなかった。

 先ほどから悲鳴が聞こえ続けている。

 金棒で殴られたオートアーツがグチャリとつぶれる音が聞こえた。

 もう10人は死んだだろう。

 なにもできずに10人もが死んだのだ。

 オートアーツを満足に動かせないやつから死んでいく。

 助けようにも僕にはその力はない。

 僕は脇役なのだから。

 だから僕はできることに専念する。


「冷却完了。突撃する」


「了解。いつも通りだ。お前が釣って、俺たちがサポートする」


「みんな、絶対に生きて帰ろうね!」


 香川の声を聞いて僕は元気になった。

 男ってやつはなんと単純なことか。

 ソナー起動。

 近距離に三体。

 もう敵の動きは理解した。

 今度はもっと効率的に動けるはずだ。

 僕は飛び出した。

 一匹目。後ろを向いていた。

 脚部から発する音で振り向くがレーザーアサルトで蜂の巣にする。

 二匹目がすぐに気づくが、それもまとめて蜂の巣に。

 レーザーアサルトの電圧の低下で警告音が鳴る。

 オートアーツ本体からバッテリーにリチャージせねば。

 森は炎に包まれていた。

 爆発なのか、間抜けが火炎放射器を使ったのかはわからない。

 一酸化炭素の警告も先ほどからピピピピとうるさく響いている。

 三匹目が体当たりして来るのが見えた。

 僕は半歩間進んで合いを盗むと、そのまま転回。

 一つ目の後ろに回り込むと、首根っこをつかんで、すぐ近くにあった大木に一つ目の顔面を打ち付けた。

 めきめきと音を立てて大木がへし折れる。

 やはりできた。

 シミュレータでは格闘戦までは完全に再現できてなかった。

 どう念じてもせいぜい刀を振るくらいだ。

 おそらく格闘戦はおまけ程度だと考えられているのだろう。

 それをどうにかできないかと考えて組んだ動作補助スクリプトによって、僕はシミュレータでも戦場でも生身と同じ動きができていた。

 熟練の兵士よりも動けているだろう。

 学校で習った近接格闘術が役に立ったのだ。

 僕はレーザーブレードを抜くと、後ろから一つ目の首筋目がけて剣を振り下ろした。

 ぶんッっと小さく音がして、一つ目の首が落ちる。

 一撃で仕留めたので腕部の数字は変わらない。


「三体撃破! クールダウンする!」


「黒木、サポートする必要もなかったな」


「援護してくれ!」


 勝てる。

 僕は確信していた。

 たとえ数が多くても、丁寧に撃破していけばいつかは勝てる。

 ああ、なんと悲しいことか。

 僕は気づいていなかった。

 相手はもう百年も戦っている相手なのだ。

 弱いはずがないのだ。

 二度目のクールダウンが終わると瀬戸から通信が入る。


「黒木くん、不明機多数接近! 空を飛んでいる!」

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