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第1話 3

 一週間後。

 林間学校のバスに乗った僕たちは、さっそくお菓子を取り出して、くだらないおしゃべりをしていた。

 戦時下の人手不足の波が林間学校までやって来たらしい。

 引率の教師がいない。

 バスの運転手は終始無言。

 それもそのはず、自動運転の人形だった。

 さらにバスガイドなどテレビの中でしか見たことのない存在だ。

 つまり車内は僕たちだけ。誰も僕らを止めるものはいなかった。

 僕たちは自由を満喫していた。

 と言っても大昔の青春小説のような飲料用の酒やたばこは手に入らない。

 今ではそういうものは入手するのは難しい。

 少量を農業高校で作っているらしいが、超高級品だし、そういうものは政府のお偉いさんへの贈答用と決まっている。

 僕たちは、調理室で作った手作りのお菓子とお茶やレモネードで満足していた。

 話す内容もいつもの日常。

 せいぜいが将来の話だろう。

 僕たち四人は当然のように固まって談笑していた。


「なあ、卒業したらどうする?」


 鈴木は妙に神妙な顔だった。


「どうするって、高等工業学校や大学は学力考査で全国の上位0.1%に入らなきゃ行けないだろ。僕じゃ無理無理。このクラスのほとんどが軍に入隊することになるだろ?」


「いやそうなんだけどな。俺たちせっかく独学でオートアーツ制御のスクリプトおぼえたじゃねえか。高等工業学校の推薦もらえるんじゃないか?」


「エンジニアなんて生まれたときから専門教育を叩き込まれてるんだろ。僕たちの立ち入る隙間なんてないよ。あきらめて兵隊になろうよ。シミュレータの成績はいいから、オートアーツのパイロットにはなれるんじゃないかな?」


「……そうだな。あーあ、二十歳まで灰色の生活が待ってるぜ」


「なんだよ二人とも暗い顔して。ホラ、食べなよ」


 瀬戸が俺たちにドーナツを差し出す。


「私は軍に入ったらオペレータかな。任期まで務めたら適当な人を国に紹介してもらって、結婚したらダラダラ過ごす」


 瀬戸は欲望に正直だ。

 これだから恋愛に発展する気がしないのだ。

 香川はニコニコしながら俺たちを励ます。


「俺は思うんだ。俺たちの覇道がこれから始まるって」


 いやエサで釣る。


「は、覇道だと……どういう意味だ!」


「俺たちは世界三位のチーム。戦場では力は命。命はモテ……暗い人生は高校で終了。あとの人生はボーナスタイム。俺たちの人生はまだこれからだ!」


「なん……だと……」


 僕はゴクリとつばを飲んだ。

 そうだ。これから人生を取り戻せばいんだ。

 そう思っていた。

 そう、僕たちはなにも考えてなかった。

 これから起こる事も。兵士になった将来も。

 日本が誰と戦っているのかも。

 無知で愚かな子どもだった。


「目的地に到達しました」


 二時間ほど走行すると車内に無機質な音声がアナウンスされた。

 徐行したバスが止まり、ドアが開く。

 クラスメイトたちは喜びいさんで外に出る。

 僕たちも遅れて外に出た。

 なにやら様子がおかしい。

 クラスメイトたちが騒いでいる。

 外には迷彩服を着た屈強な兵士たちがいて、僕たちを取り囲んでいた。


「黙れ新兵ども。時間がない! いいからさっさと着替えてオートアーツに乗り込め!」


 兵士は問答無用という態度だった。

 そしてこういう態度には慣れているのか、アサルトライフルを僕たちに向ける。


「いいから行け。死にたくなければな」


 本気の目だった。

 僕たちは混乱しながらも、適当な木の陰で兵士に渡されたオートアーツの操縦服に着替える。

 更衣室などという文明の生んだ利器など……ない。

 僕たちは神経接続は慣れっこなので、「イッ!」とか「ぬう!」、「きゃッ」なんて、少しうなって終わりだけど、他のクラスメイトたちはそうじゃない。


「キャー!」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


「イタタタタタタタタ……」


 とあちこちから悲鳴が聞こえた。実に軟弱である。


「着替えたら持ち場につけ。操縦キーを忘れるな。すぐに実戦だ。作戦は無線で知らせる」


 持ち場に行くとオートアーツが用意されていた。

 各人に番号が割り当てられ、オートアーツが割り当てられていく。

 僕は一番だった。標準型、装備はレーザーアサルトとレーザーブレード。

 鈴木と香川もシミュレータと同じ装備だ。

 なるほど、シミュレーターに機体情報が登録されていて、その装備と同じものが支給されるのか。

 これに乗ったら戦闘開始だ。

 僕は鈴木と香川を見据えた。

 もう言えないかもしれない。


「なにがあっても俺たちはチームだ」


 こんな歯の浮くようなセリフ、今は言わなかったらいつ言うのだろう。

 だけど鈴木も香川も僕の様子がツボに入ったらしく、「プーッ!」っと吹きだした。


「黒木悪い。でもありがとうな。おかげで震えが止まったぜ!」


「鈴木。俺たちで黒木を助けてやらないとな」


「あーあ、黒木くんを守ってあげないと」


 僕たちは生き残る。絶対に。僕は決意した。

 僕たちは持ち場につく。

 瀬戸はドローンを飛ばすためオペレータールームに行く。

 僕たちがそれぞれの機体を起動する。

 ステータスオールグリーン。OSも問題なし。

 装備はシミュレーターでやっていたのと同じ。

 なるほど。個人の成績や装備は管理されていたのか。

 次にチームの参加者が表示される。

 兵士を入れて50名。

 今まで体験もしたことのない人数だ。

 僕たちがその数に安堵すると瀬戸から通信が入る。

 さすが世界三位のチーム。ドローンの起動は誰よりも早かった。


「こちら瀬戸、ドローン発進。サーモグラフィカメラに切り替えます。スクリプト、ラン」


 一瞬、瀬戸の声が枯れた。


「……うそ……不明機に……囲まれてます。数は……約300!」

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