第1話 2
ここまでさせながらゲームは単純だ。
仲間と一緒に世界のどこかでプレイしているプレイヤーと対戦する。
チーム戦でどちらかのチームが全滅するまで続く。
勝てば点数が入りランキングが上がる。
本当にこれだけだ。
ただ、レスポンスの悪い自機。ガクつく照準。少ない弾丸。と無駄にリアルに近い。
心の底からゲーム性を追求しろよと言いたい。
僕の機体は二足歩行の標準型。
装備はレーザーアサルトと手榴弾。それに近接用のレーザーブレード。
メインはレーザーアサルト。アサルトライフルの偽物。光学兵器だ。
弾丸が多く、重量も少ないが、水中や霧の中では屈折したり乱反射したりで使い物にならない。
ノックバックもせず威力も少し弱いので扱いどころが難しい。
でも実弾兵器は威力のわりに故障が多く、弾詰まりをし、なにより重くて弾数が少ない。
だから僕はいつも光学兵器にしている。
するとディスプレイに通信が入る。
鈴木の暑苦しい顔がドアップになる。
「うおっし、準備完了! 僕のレイラちゃん今日もがんばろうねえー♪」
鈴木は僕と同じ二足歩行の標準機。
鈴木の装備はレールガンと実弾拳銃、それにナイフだ。
レールガンは要外部電源というふざけた武器で、機動力を犠牲にして威力を取る選択と言えるだろう。
ゆえに鈴木はスナイパーに徹している。
ちなみにレイラちゃんとは鈴木の機体のことだ。コメントは黙秘させてもらう。
「はいはーい。準備できたよー」
香川の顔も表示される。
すでに汗だくだ。
香川は足がキャタピラになっている戦車型。
速くはないが悪路でも走行できるし、複雑な機構がないので二足歩行タイプよりパワフルで頑丈だ。
香川の装備は榴弾砲とミサイル。
僕というオフェンサーをサポートする装備だ。
「じゃあ、いつものように黒木がアタック。俺たちがサポートするぞ」
「ちょっと! 今ドローン飛ばすから大人しく待ってて!」
瀬戸が怒るのも無理はない。
作戦もなにもあったものじゃない。
なにせ瀬戸はオペレーター兼コマンダー。
無人ドローンを飛ばして周囲を偵察、その情報から僕たちに作戦を提案するのも彼女の役割なのだ。
「認証完了……ドローン発進!」
ドローンが空を飛ぶ。
僕たちの操縦席にドローンのカメラ映像が映し出された。
「サーモグラフィカメラに切り替えます。スクリプト、ラン」
オートアーツはリアルを追求している。
それはセンサーの制御スクリプトを自作できるほどだ。
スクリプトのアイデアと出来で勝負が決まると言えるだろう。
もちろんそれはドローンも同じだ。
瀬戸は森の中を温度カメラで見る。
たとえ夜間の森であろうとも、高温を発するオートアーツを見つけるのは容易だろう。
「敵は三体。散開陣形で森を警戒しながら進軍中……」
パンッと音がした。
同時にドローンの映像が真っ暗になる。
「あらま、撃ち落とされちゃった。次のドローン出すまで三十秒」
「了解。それで大丈夫」
僕はレーザーアサルト片手に森に飛び込む。思いっきり音を立てて走った。
一人だけ先行。絶好のカモだ。
パンッ!
僕は今さっき通った場所の木が弾けた。
引っかかった!
僕は自前で作成した弾道計測スクリプトを走らせる。
弾道から敵のだいたいの位置がわかった。
次にソナーセンサーをディスプレイに表示する。
激しい砂嵐。ソナーは普通だと使い物にならない。環境音まで拾っているのだ。
そこであらかじめ用意したスクリプトで自動補正する。
波形編集で環境音を排除してオートアーツ特有のモーターの駆動音や機体の軋みだけを拾うようにしたものだ。
襲撃者の音がハッキリと見えた。
位置がわかればあとはパイロットの腕だのみ。
僕はレーザーアサルトを構える。
照準がガクガクと揺れる。
それでも僕は引き金を引いた。
ぶうんっという光学兵器特有の耳障りな音が響き、小さな爆発が起きる。
木に穴が空き、ピッという一酸化炭素への小さな警告音が筐体に響いた。
これが危険な濃度になるとガスマスクを着用する警報がけたたましく鳴る予定だ。
気が付いたらまわりが火事で一酸化炭素中毒でゲームオーバー。
初心者がよくやるミスだ。
光学兵器は面倒なのである。
僕は木の陰に入った。
次の瞬間、ソナーが大きな音を検出した。
「突っ込んで来やがったな」
僕はそう言うとレーザーアサルトをメチャクチャに乱射した。
出力低下の警報が鳴り響く。
僕はすぐにレーザーアサルトを捨ててレーザーブレードを抜く。
同時に闇から穴だらけになった機体が突っ込んでくる。
二足歩行標準機。
獲物は両手持ちの戦斧。
さすがにレーザーブレードだと打ち負けそうな気がする。
「鈴木!」
僕が叫ぶと対戦相手の頭が吹っ飛んだ。
鈴木のレールガンだ。
これで一体倒した。
だけど対戦相手も同じ事を考えていた。
次の瞬間、僕の機体が吹っ飛んだ。
グレネードランチャーを撃たれたのだ。
一瞬、ディスプレイが真っ白になる。
爆発音でソナーのセンサーが故障。
あわてて僕は通常画面に切り替える。
計器のLEDは足部が真っ赤。
破損したことを意味していた。
僕は自分で捨てたレーザーアサルトのところまで這って行った。
レーザーアサルトを抱えると腹を向けて構える。
「うおおおおおおおおッ!」
僕は、そのまま闇雲にレーザーアサルトを連射した。
するとはるか空から、なにかが降ってくるのが見えた。
「うっそー! ちょ、待……」
それは榴弾だった。
それも二方向から同時に。
対戦相手はオフェンサー1機と、バックアップ2機だったようだ。
だが同時に僕の目に映ったのは、耳をつんざく轟音を上げながら空を飛ぶミサイル。
香川のミサイルだ。
知っていたのだ。
香川、いや鈴木もソナーを使って他の二人の姿を把握していたのだ。
「あんの連中! 僕をオトリに使ったなー!」
榴弾が降り注いだ。
僕の機体は一瞬でスクラップ。
僕はなぜか香川が親指を立てて歯を輝かせている姿を思い浮かべた。
「黒木くん……なんかごめん。私役立たずだったかも」
僕の味方は瀬戸だけだ。
もう同盟国がどこの国かもわからない時代。
世界との通信手段はゲームのみ。
僕たちはゲームにのめり込んでいた。
まるで彼女も作れない、人間としてのダメさをゲームをすることで穴埋めしているかのように。
でもそんな日々がもうすぐ終わるなんて僕たちは知らなかった。