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第2話 9

「くそ! 黒木、うおおおおおおおおおおお!」


 八幡のミニガンが火を噴く。


「黒木いいいいいいい!」


 南条もアサルトライフルを撃った。

 鬼は私から目を離すと南条の方に歩いて行く。

 鬼の体が蜂の巣になる。

 いや違う……。傷つきながらも鬼は再生をしていた。

 これでは南条のアサルトライフルも八幡のミニガンすらも豆鉄砲に過ぎない。

 鬼は持っていたナタを南条機に振り下ろす。

 南条の機体は私のスクリプトを使っているせいか、その場で転がり難を逃れた。

 だが南条は私ほど近接戦の経験があるわけではない。

 二撃目で腕を切られてしまう。


「クソ! レーザーナイフで!」


「南条下がれ! 片手で使える武器を拾ってこい!」


 南条がいても犠牲者が増えるだけだ。

 それならせめて生きてもらおう。

 私はそう考えたのだ。


「くそ……わかった。死ぬなよ!」


 南条は素直に離脱した。

 私は立ち上がりレーザーブレードを構えた。

 だが鬼はこちらに手を広げた。

 待て。

 そう言いたいようだ。

 後ろから斬ってやろうと思ったが隙がなかった。

 俺は冷たい汗を握っていることに気づいた。


「うおおおおおおおおおおお!」


 銃撃に効果がないとわかっているのにもかかわらず、八幡は攻撃をやめなかった。

 なんたる蛮勇。……いや、違う。これは恐怖だ。


「おい、八幡! 逃げろ! ミサイルとか迫撃砲を拾ってこい!」


「う、うるさい!」


 鬼が銃撃の中、八幡に突っ込んでいく。

 その運動性能は明らかに猟犬部隊の機体を上回っていた。

 鬼がナタを振り下ろす。

 八幡の機体にナタがめり込んだように見えた。

 いやミニガンで防御していた。


「う、うぐぐぐぐ。きゃあああああああああああッ!」


 バキンと音がして八幡の機体の腕が弾けた。

 ギアと人工筋肉が負荷に耐えられなかったのだ。

 同時に足もオーバーヒートした。

 私の機体と違って重量がありすぎて内部の負荷に弱いのだ。

 そのまま八幡の機体は膝をついた。

 高重量機の欠点が一気に出た形だ。

 鬼は八幡にトドメを刺そうとしていた。

 やめろ、八幡はまだ死んでいない。

 私は勇気を振り絞り、鬼に斬りかかる。

 鬼は私がいる方に振り返った。見事な歩法。無駄がない。

 それと同時に鬼はナタを振り下ろす。

 無駄のない動き。それはまさしく剣術だった。

 私はレーザーブレードでナタを払う。

 レーザーの爆発で相手のナタも大きくはじき飛ばされる。

 私ははじき飛ばされた勢いを使い、レーザーブレードの軌道を変える。

 同時に足の力を緩める。ヒザを狙う。

 鬼も同じく弾かれた勢いを利用し、そのままナタを振り下ろす。

 私のレーザーブレードの方が速かった。

 膝を斬りつけられた鬼がガクンとバランスを崩す。

 ナタが私の機体の頭を素通りした。

 残念なことに鬼の足を切断はできなかったようだ。

 鬼は瞬時に回復し、体勢を立て直す。

 だが私はその隙を見逃さなかった。

 鬼に飛びかかる。

 飛びながらレーザーブレードで鬼の顔を突き刺す。

 鬼が空いている方の拳を握ったのが見えた。

 私はとっさに腕で防御する。

 ガシャーン!

 操縦席が揺れた。

 いや私の体にまで衝撃が通った。


「げぶッ!」


 操縦席の私の口からなにかが飛び出した。

 鉄臭い。血だ。

 今の一撃は私の体を揺さぶった。

 内臓のどこかを傷つけ、口から血が流れ出た。

 センサーは危険を知らせ、ひたすら鳴り続けていた。

 私は意識を失う寸前だった。

 だがそれが逆に余計な力を抜き、感覚を鋭敏にしていた。

 よろけた私の機体にナタが振り下ろされた。

 私はよろけるままにしながらも機体を誘導した。

 まるで綿毛のように私の機体はナタをすり抜けた。

 そのままサイドに回った私はまるでダンスのように鬼の腕を取った。

 そのまま脇に鬼の腕を挟み、ステップを踏む。

 鬼はバランスを崩し膝をついた。

 わたしはそのまま肘を極める。

 それは関節技だった。

 鬼の肘が折れる音が響いた。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 悲鳴。よし回復しない。

 肉は回復しても、靱帯と関節の回復は難しいようだ。

 私は攻撃をやめない。

 鬼の腕を解放し、今度は首に手刀、いや肘を落とす。

 相手は生物。鉄の塊で殴られたらひとたまりもない。

 私の肘は骨を粉砕したはずだった……。

 だが鬼はまだ戦えた。回復が間に合ったのかもしれない。

 私の機体の片腕がつかまれ、一気に引っ張られた。

 ブチブチという音が操縦席に響く。

 肘から先がちぎれた。

 センサーが警告表示を出し、エラー音がけたたましくそれを知らせる。

 だが私は冷静だった。

 ちぎれた腕の方の肘鉄で鬼を殴りつける。

 さらにヒザに関節蹴りを入れ、へし折る。

 鬼が倒れると馬乗りになって殴り続ける。

 鬼はそれでも下から殴り返してくる。

 ダメだ! これじゃ倒せない。

 私はまだ配線で繋がったままの腕を引きちぎる。

 そしてその腕で鬼を殴る。

 まだだ。これでも足りない!

 私はちぎれた腕を見る。そうだ。こいつを……。これで終わりだ!

 私はちぎれて尖っている方を鬼に向ける。

 思いっきり腕を振りかぶると、鬼の胸に一気に突き刺した。

 体重をかけ、深く深く突き刺していく。


「死ねええええええええええッ!」


 ズブズブとちぎれた腕が胸に突き刺さる。

 鬼は私の機体を何度も殴った。

 だがもう力は抜けていた。

 ある程度まで刺さると、とうとう鬼は動かなくなった。


「敵、将校……討ち取りました」


 私は松下隊長に通信を飛ばした。


「そうか……一つ目が逃げていく……よくやった」


 松下隊長は感情をこめずに私を褒めた。

 嗚呼……私はまた生き残ってしまったのだ。

 どろりと熱いものが流れているのに気づいた。

 血が流れている。頭を切ったようだ。

 南条から通信が入る。


「おーい、黒木! 生きてるのか!? なあ生きてるって言ってくれよ!」


「死んだ」


「よかった! 生きてやがった!」


 まったく、南条はいつでもこうだ。

 私は少しだけ、本当に少しだけだが明るい気持ちになった。

 今度は八幡から通信が入る。


「おい! 生きてるか!」


「血まみれだが生きてる。お前さんはどうだ?」


「イテテテ。アバラを折ったらしい。でも生きてる。部隊のみんなは全滅したようだけどな」


「そうか……。お前はどうなるんだ?」


 なんとなく聞いてみた。

 八幡にはあまり不幸になって欲しくはない。

 なんというか、これでも一緒に視線を乗り越えた仲間なのだ。


「さあな、別の猟犬部隊に送られるのか? それとも除隊か……」


「縁があったら……また会おう。今度は遊んだりとかさ」


「ああ……それもいいかもな」


 流れた血が冷えてきた。

 いつもは蒸し暑い操縦席も、少し涼しく居心地よくなった気がする。

 いつかまた、八幡に会えるといいな。

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