第2話 8
私はサイドから一つ目たちの集団に襲いかかった。
牽制代わりにレーザーアサルトを乱射する。
腰だめで放ったのだから当たるはずもない。
一つ目もオートアーツとの戦いはなれている。
犠牲が出なければ、すぐに石が飛んでくる。
単純な投擲の力と精度は、生身の筋肉にはかなわない。
防御力も同じだ。巨人のごとき大きさの生き物の投擲の威力たるや、それだけでオートアーツはひしゃげてしまう。
一発でも食らえば終わりだ。
手足のない車両も昔の戦いでは存在したらしい。
だが、人間をそのまま大きくした生き物の戦略の幅の広さは脅威だった。
車両は瞬く間に駆逐された。
私はそれを味わっていた。
前の戦いにはない。連携。
一つ目、その二体が、私の機体の前後を挟み撃ちにした。
トゲのついた金棒を八相に構えて私に襲いかかる。
だが私たちは、物心ついた時から兵士になるべく格闘術を教え込まれている。
従来のオートアーツなら必要のない技術だ。
だが私の機体のスクリプトは接近戦仕様。
並程度の腕といえど私の動きを再現できた。
複数の相手と同時に戦う時は決して足を止めないこと。
相手に間合いに入らないこと。間合いのギリギリを見極め、敵を誘導する。
そしてお互いの攻撃が邪魔になるような位置に身を置き、反撃のチャンスをつかむ。
一つ目が私にタックル、いやぶちかましを仕掛けた。
私は片足を軸にしてスピンしながら飛ぶ。空中で相手の後頭部が見えた。
私はレーザーアサルトを振りかぶる。着地しながら、全重量をレーザーアサルトにかけてがら空きの後頭部へ振り下ろした。
一つ目はそのまま倒れ、起き上がってこなかった。
ぐにゃりとレーザーアサルトがひん曲がっていた。
一体は無力化した。次だ。
必死な顔をした一つ目が飛びかかってくる。
私は腕をつかむと一本背負いでぶん投げる。
穴だらけの道路が今度こそ壊れ、破片をまき散らした。
私はレーザーブレードを抜くと容赦なく突き刺した。
今度はさらに二体が同時に襲いかかってくるが、南条が援護射撃で二体とも撃ち殺す。いい腕だ。
だが敵も意地になったのか、さらに増援がやって来た。10体はいるだろう。
連携を知っている相手は厄介だ。次はこっちが殺される番だ。
それでも私はあきらめなかった。
レーザーブレードを片手に、かつて存在した寺院の仁王像のごとく一つ目に立ち塞がる。
殺せるものなら殺してみろ! だがお前らもここで死ぬのだ。
まずは一体。私は近くの袈裟斬りにした。
一体を斬り捨てた途端、一つ目の動きが止まる。
その目は冷たく、そして絶望の色に染まっていた。
私を恐れているのだ。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
一体の一つ目のが吠えた。
金棒を振り回しながら襲いかかってくる。
私は迷わなかった。
一つ目の脚部、スネに斬りつけた。
オートアーツの頭上ギリギリを金棒が通り過ぎた。
足を切りつけられた一つ目がバランスを崩す。
操縦席に警報音が鳴り響く。だが私は笑っていた。
私は足を斬りつけた勢いでレーザーブレードを振りかぶり、尻餅をついた一つ目の頭に振り下ろす。
さあ、次はどいつだ。
私は一つ目たちを見つめた。
すると操縦席に甲高い女子の声が響く。
「おい、よけろ!」
私は笑いながら言われたとおりに、すぐ横に避難する。
ミニガンの発射音が響いた。
煙が粉塵が舞い上がり、一つ目の姿が見えなくなった。
のっしのっしと重量級の機体がやって来て、通信を飛ばしてきた。
「まったく、サポートしに来たと思ったらそれか!」
「ああ、悪いな八幡。助かった」
「まったく、お前は私がいないとダメだな! ……でも助かった。正直終わりかと思った」
八幡の声は、最後にはボソボソと小声になっていた。
最後のが本音なのだろう。
だから話題を変えてやる。
「八幡、戦況は?」
「いいことが今まで一度でもあったか?」
そりゃそうだ。
「冗談だ。猟犬部隊の半分は神の国に旅立った。お前らの部隊のことはわからん」
「そうか……俺たちも生き残らないとな」
「わ、私は神の国に行く準備はできている! お、お前は、それだけの腕がありながら神の国に行かないつもりか!」
「あいにく俺は神の国より、この世が好きなもんでね」
「そ、そうか……世の中にはいろんなやつがいるのだな。大丈夫だぞ。少し変でもそれだけの腕があれば神の国に行けるはずだ……ぞ?」
「悩むな。そして俺をかわいそうな子みたいに扱うな」
「……まあいい。それで、どうする? このままでは我らは死ぬ」
「たぶん今回の戦いには司令官がいる。そいつを倒せば終わると思う」
私はそう言うと、猟犬部隊の残骸から使えそうな武器を拾う。
死人の持ち物をいただくのは気分が悪いが、生き残るためだ。
実弾のアサルトライフル、弾はたくさんある。
私は南条を呼び出す。
「南条、アサルトライフル見つけたぞ。そこに置いてあるぞ」
「了解。デートの邪魔だったか?」
「うるせえ。あとでおぼえとけよ」
八幡もミニガンの弾を仲間からいただいた。
私は八幡の胸中を思うと、かける言葉が見つからなかった。
「それで、どうやって探す?」
八幡が私に問うた。
だが私は常に明確で確実な答えを持っているわけではない。
「そこは歩き回るしか……」
と情けないセリフを口にしたその瞬間、隠れていた建物の壁がバンッと弾けた。
ドンッと壁からなにかが飛び出してくる。
私はとっさにバックステップで距離をとった。
私のいた場所を、大きななにかが素通りした。
ナタだ! 大きなナタだ!
私は危うく一刀両断にされたところだったのだ。
「黒木! うおおおおおおおおおおお!」
八幡がミニガンをぶっ放した。
煙と閃光。そのせいで襲撃者の正体はわからない。
私はレーザーブレードを抜いた。
ミニガンと煙と爆音の中、神経を研ぎ澄ませる。
襲撃者は高確率で死亡したに違いない。
だが……。
煙の動きが一瞬、ほんの一瞬だけ速くなった。
来る! なにかが私の機体目がけて飛んできた。
私はレーザーブレイドでそれを斬る。手応えあり!
だが次の瞬間、私は弾かれた。
一発で切れなかったせいで、レーザーが爆発したのだ。
煙が晴れた。
そこにいたのは巨人。
一つ目なんて目じゃないほどの巨体と体格。
ヒゲを生やして、その額にはツノが存在した。
メジャーな妖怪だ。
鬼、まさに鬼が私を睨み付けながらそこに立っていた。




