第2話 6
初陣とは違い、作戦概要が送信されてくる。
ただし、神経接続でだ。
強制的に脳に情報が書込まれていく。
吐きそうだ。しかも後頭部から首にかけて鈍痛がする。
こいつで戦闘知識を書込んでくれれば戦死者も少なくなるだろう。
だけど情報量が多くなると、脳の温度が上がる。
ヘタをすると脳死の可能性が出てくる。
一度に送信できるのは、せいぜい数メガバイト。紙にして数枚程度だ。
人間は古来からの学習が一番摩耗しないようだ。
だけど情報漏洩がないように、作戦の直前に兵士へ作戦概要を送るぶんには便利な技術だ。
敵は妖怪だ。
我々人類が知らない技術を持っているかもしれない。
脳みそから直接情報を取得する方法もあるかもしれない。
だとしたら兵士に与える情報を絞ってしまう方が安全だ。実に合理的である。
前回はとにかく戦うだけだった。
だが今回は相手の目的が伝えられた。
妖怪の目的は【水耕栽培】施設の破壊。
水耕栽培施設は乱暴に言うと野菜の工場である。
昔ながらの土による耕作よりも、坪あたりの収穫高は3倍。
清潔で病気の心配がなく、天候にも左右されず、安定した生産が可能。
一緒に魚の養殖も可能で環境負荷の小さく、持続性のある食糧供給施設なのだ。……以上、私たちが習った社会科の教科書より。
食料施設を破壊するのは、確かに定石と言えるだろう。
だが……なんのために? 妖怪の目的がわからない。
もしかすると私たちは、敵をあまりにも知らなすぎるのかもしれない。
「おい、お前! なにをボケッとしてる! もう始まるぞ!」
八幡の声で現実に引き戻される。
「悪い。考え事をしていた。八幡、えっと、ミニガンだっけ? 発射まで何秒かかる?」
「3秒だ! 一つ目どもは一瞬で殲滅できるぞ!」
私は八幡の機体を確認する。
やはりミニガン装備。しかも二丁持ちだ。
重量級の装備のため、機体は全体的にごつい。
特に機体の足は太い。
香川だったらキャタピラにするところだが、わざと二足歩行にしているのだろう。
機動性を犠牲にしたスタイルだ。
後方にいてもらおう。
「わかった。後方から殲滅してくれ」
「バカにするな! 私にはこのハンマーがある!」
背中から突き出ていたのはハンマーのようだ。
それでも私のレーザーブレードの方が確実だろう。
だがそれを言うのはよろしくない。相手の価値観に合わせねば。
「ヒーローは後から来るもんだろ?」
「お、おう。そうだな!」
次に南条の機体を確認。
実弾のアサルトライフル。グレネード弾付き。
実弾だから精度は微妙だろう。
「南条。中距離のサポートはまかせた。まずは俺が前線をかき回してくる」
「え、ちょっと、黒木!」
南条を置いて私は走り出した。
太陽が私の機体を照らした。
影がふっと私の機体を覆った。
偵察用のドローンが私の上を通り過ぎたのだ。
それと同時に敵の位置が送信されてくる。
オートアーツの作動音をなるべくさせないように低速で歩く。
水耕栽培施設は川の近くにあり、その他にも雑多な建物が広がっていた。
だけど資料によると、それらは廃墟らしい。
戦争による人口減で維持ができずに放棄され、水耕栽培施設だけが稼動しているようだ。
私は廃墟となったビルの影から様子をうかがう。
数体の一つ目がいた。斥候だろう。
まだ同じ隊の連中も、猟犬部隊も来ていない。
それでいい。
私は機体のカラーリングの色を暗くする。
機体が薄ボケた灰色になる。
都市迷彩のできあがりだ。
そして時を待つ。
一つ目に隙ができるその瞬間を待つ。
後ろを向いた!
私は一気に飛び出し、レーザーブレードを抜き襲いかかる。
一体目。後頭部を斬りつける。ざんっと音がして一つ目が倒れる。
そのまま二撃目、私は学校で習った剣術そのままに腰を切り、ブレードを切り上げる。
背中から一刀両断にすると三体目。
今度は少し離れていたので、走る、走る、走る。
さすがに間合いが離れていたので、気づかれた。
だが助けは呼ばせない。
私は腕を思いっきり引き、渾身の突きを繰り出す。
レーザーブレードが一つ目の胸に突き刺さる。
悲鳴も上げることができずに三体は絶命した。
前の時は敵は数百体投入した。
三体倒したところで焼け石に水かもしれない。
私はパーツの冷却処理をはじめた。
それにしても静かだ。
たった三匹しかいないなんて。
ソナーにも赤外線でも検知できない。
逃げてしまったのだろうか?
考えながらパーツの冷却処理が終わるのをを待っていると、操縦席に八幡の怒鳴り声が響いた。
「おい、今のはなんだ!? どうしてあんな動きができる!」
「接近戦用のスクリプトを作ったんだよ。連中は接近戦になれてないから有利なんだ」
「くれ!」
本当に子どものようなやつだ。
私は呆れたが、出し惜しみする理由もない。
「わかったよ。衛星経由でスクリプトを送信してやるから」
「おう! お前、いいやつだな!」
戦闘中になにやってるんだ。
私は自問自答していた。
どうにも南条といい、八幡といい、私を振り回してくれる。
なんだか理不尽である。
私が少々いらだっていると南条から通信が入る。
「おう、こっちは静かなもんだ。ドローンの画像でも敵はこちらに来てないようだ。連中、普通は突っ込んでくるんだけどな。どういうことだろうな?」
私は考えた。
確かに妖怪は考えなしだった。
今回も自由気ままにやっているのだろうか?
……いや待てよ。
「なあ、南条。隊長に索敵範囲を広げろって言ってくれるか? 南条の方が付き合いが長いだろ?」
「ああ、でもなんで……って、おい、もしかして……黒木、何考えてやがる?」
「南条……前と違って指令を出してるやつがいるんじゃないかな? 陽動に少し残して、迂回してきてるとか? 衛星画像は来てるか?」
「衛星なんてロストテクノロジーだ。もう、リアルタイムで監視できるほど台数が残っちゃいねえよ」
「偵察隊は?」
「わからねえ! 隊長に連絡するから待ってろ!」
私はなぜか、次の瞬間には八幡に通信を入れていた。
「八幡! そっちに妖怪が迫ってるかもしれない! 注意しろ!」
「おう、わかった。死ぬにはいい日だな」
ああ、イラつく。
簡単に死ぬとか言うな!
私は走った。
南条と合流し後方を目指した。




