第3話 先輩とカブトムシ(2)
「てことで、カブトムシ探すよー!私はあの辺の木で探すから廣瀬くんはこの辺の木をよろしくね!」
そう言い残すと、先輩は足早に木へと向かって行った。
「はぁ……」
あまり気は進まないが、サボっていると先輩に何を言われるか分からないので、一応探してみる。
「とりあえず揺らしてみるか」
足で木を蹴り、揺らしてみたがビクともしない。もちろんカブトムシも降ってくるわけでもないし、それどころか他の虫ですら降ってこないじゃないか。もし僕がアニメや漫画の主人公であったのなら何かしらのアクションがおこっていただろうに。
なんだかもやもやするので、念のためもう一回蹴ってみた。
――何も反応はなかった。
なんだか自分が酷く惨めに感じられてきたので、この辺で木を蹴るのはやめよう。
ところで先輩のほうはどうなっているのだろうか。別行動をしたとはいえ、あくまで二人ともいる場所は、公園内に過ぎないので、正直見ようと思えば直ぐにでも様子を見ることはできる。
というか、先輩の向かって行った場所は僕のいる場所の真反対なのだから、ただ振り向くだけでいいのである。
振り向いてみようか。
いや、やめておく。先輩がニヤニヤした顔でこちらを見つめるのが目に浮かぶからだ。
結局このままカブトムシを探し続けることにした。
そういえば先輩が、『カブトムシはクヌギとかコナラから出る樹液を好む』と言っていた。
先ほど僕に二度も蹴り飛ばされたこの可哀想な木からは、残念ながら樹液は出ていなかったので、他の木を探すことにした。樹液を出すことが出来ないことで虫が寄ってこず、また人間に蹴り飛ばされ、挙句の果てには不必要であると見限られたそんな不憫な木に対し、僕は憐憫のまなざしを送らざるを得なかった。
周りの木々をしばらく吟味しているところで、先輩の僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい!廣瀬くん!いたからこっちに見においでよー!」
実に無邪気でニコニコ笑っている先輩の顔付きから察するに、おそらくカブトムシの雄か雌を見つけたのだろう。いや、もしくはその両方かもしれない。
とりあえず吉報であるということには間違いがなさそうなので、見に行くことにした。
まぁ元より拒否権など無いのだが。