第1話 廣瀬くんと渡辺さん
「廣瀬君!いきなりなんだけどさ、今からカブトムシ捕まえに行こう!」
「本当に先輩は突然変なこと言い出しますよね。あー、ちなみに行く気はないですよ。僕、虫苦手なんで。」
「ふーん……そうなんだ。で、準備はもうできてるからさ!さぁ行くよ♪先輩に続けぇー!」
「は?えっ、ちょっ……待ってくださいよ先輩!!」
――――先輩はいつだって身勝手だ。
そんな身勝手な先輩は僕の1年年上である高校2年生のいたって普通の女子高生だ。
いや、"普通の女子高生"であるというのには少し語弊があるかもしれない。なぜかというと実はうちの学校には、≪渡辺さんファンクラブ≫なるものが存在しているらしく、まぁ御察しの通り、先輩はその渡辺さんなのであり、ファンクラブの一員たちから絶大な人気を誇っているのである。
あくまで噂に過ぎないのだが、なんとファンクラブのメンバーたちは全学年を合計して五十人に昇るだとか昇らないだとかと聞いたことがある。あの先輩の何がそんなに彼らを引き付けるのであるのだろうか。
ある程度検討はついてはいるが、あまり口に出したくはないのでやめておく。なんだか先輩に負けたような気分になるからだ。
もし万が一にでもそのことを聞かれていたのなら、きっと先輩はニヤニヤとした顔つきで向こう一週間は僕をからかい続けてくることだろう。
――――先輩はそういう人だ。