3傷口
ガサガサと木の葉が音を立てている。
「あの…」
初めて声を発した私に対して、猫は、ん?と気軽に返事をした。
「''見つけた''って私があそこにいる事、知ってたんですか?」
少し探るような目つきの私に猫は陽気に答えた。
「ああ!もちろんだとも!memory and berth 《メモリーアンドバース》に聞いたからね!」
「メモリーアンドバース?」
「記憶と誕生の女神の事さ!外から来たから知らないと思うけど、森の守り人見たいな人だよ」
守り人…口の中で呟きつつ意味を心の中で理解する。
その会ったことのない女神とやらが私を見つけたのだろうか…
考え込んでいると、風が吹いて、少し開けた場所に出たのがわかった。
風が過ぎたあと目を開けると、そこには幻想的な風景が広がっていた。
青い、澄んだ、翠とも思わせるような底が透けて見えるほどの透明な湖が眼前に広がっていた。湖の向こうまで見える程大きく開けたその場所は、木々が湖の周りをぐるりと囲んでいるのが見えた。
「…綺麗…」
思わず漏れた声に反応して猫がそうだろう?と首を傾ける。
するとふわふわと輝く光の輪のようなものが浮いていて、こちらへ漂ってくる。
その輪に乗って小さな毛玉のような球体がこちらへ飛んできた。
「……わっ」
胸の前に組んでいた手の中にその毛玉が飛び込んで来たのだ。
驚いて手の中を見ると、それは二、三度目震えてぱっと中身を開いた。
「鳥…?」
黄色い光を柔らかく放っているその物体は鳥のような姿をしていた。
目があり、くちばしがあり、どこからどう見ても鳥だが…
そう思ったその瞬間、その鳥は手の中で翼をくちばしへ持って行き、まぶたを歪ませて目を細めた。
「笑った!」
くすくすと微かな笑い声が聞こえるほどはっきりと、その鳥は笑ったのだ。
「birdだ。Light bird《光鳥》僕らはみんなバードって呼んでる」
猫は人間と同じような指先でバードの頬をくすぐった。
バードはくすぐったそうに身をよじる。
「いたずらが好きで基本的には無害」
猫はそう言って笑った。
「可愛い…」
呟いた私に猫は、さぁしゃがんで。と座らせる。
バードはぱたぱたと羽ばたいて私の肩にとまった。
「…っ!」
膝を折るとずきっという痛みが走った。
「痛むかい?今泥を落とすからね…」
猫は優しく傷口を洗い落としてくれた。
すり…と痛みに顔を歪める私を案じてか、バードが頬を擦り寄せてきた。
「……」
痛みが引いたような気がしてバードを撫でる。
「くるるー」
バードは嬉しそうに鳴いた。
「終わったよ。さ、行こう」
猫が微笑んで私の手を取った。
「女神はあの木の向こうだ」
猫は木々の囲む湖のほとりを指してまた歩き出した。
私の心からは、もう不安や恐れが消え去っていた。