入学 中編
「ッユリアちゃん……!」
「エミル、早く行くぞ。」
「……うん……」
とりあえず、入学式に遅れるわけにいかないので会場へとエミルの手を引きながら入っていった。
中へ入ると、集まった生徒たちが自由に席についている。奥の方には生徒会の人や教師もいて、まだ始まっていないせいで外と同じくざわついている。
すこし見渡すと、フラントスの白い髪も見えたが適当に席を選んで座った。
「ねえ、クレイ……
嫌われ、たのかな……?」
心配そうに尋ねてくるエミルを見て、少しだけ微笑む。
おそらくフラントスは俺らを嫌っていない。あの場で相手の喧嘩を買うようなことを言えば間違いなく面倒なことになっていた。きっと、そのことが分かっていたからあのような対応をした。フラントスは状況判断のうまい子なんだと思う。
まあ、こんなのもあくまで推測だが。
「さあ、どうだろうな。
あとで聞きに行くか?」
「……そう、だね。」
そこまで考えていても説明はしない。なんなら本人から聞いた方が安心できるだろう。
エミルが小さく答えると、一気に会場が静まりかえって入口の方を向いた。
あれは……王家の四男か。
アスタリア国の王位は年齢関係なく跡継ぎを決めるので四男の彼にも継承権がある。……まあ、彼はとてもわがままなことで有名だが。
それをみて周りの生徒が少しだけ色めき立つ。女はその端正な顔立に。男はすこし呆れているものもいるが、半分以上が地位狙い。
それからしばらくして、入学式が始まった。
入学式は前世の学校とあまり変わっておらず、変わっているところといえばマイクは無いことと生徒会のほとんどがイケメンであること。なんだよあれ。イケメンじゃないと生徒会に入れないのか?
そのほとんどを聞き流すと、ついにフラントスの挨拶の番が来た。真っ直ぐな髪が一歩進むたびにふわりとなびく。舞台の上のマイクの前に立ち、俺たちの方を見渡す。そして、台本を開くと淡々と読み始める。
……が、途中で止まった。
ちらりと教師の方を見たかと思うと、少しの間をあけてから台本を見ずに話し始めた。台本を見ていないのにスムーズで、覚えているのかと驚いた。
「――外部生代表 ユリア・フラントス。」
言い終わると同時に礼をする。すると、俺たちの座っている席の中で一人。真っ直ぐに起立した。
「おい!貴様、庶民の分際で……!」
立ち上がったのは、銀髪に紫の瞳の王家の四男。ちなみに、銀髪に紫の瞳は王家の証で、一目で誰が王家のものかわかる。
教師のものも強くは言えない様で誰も何も言わない。
「ユリアちゃん……大丈夫かな……」
「心配ない。フラントスは状況判断のうまいやつだ。」
急に怒鳴られて少し驚いた様子のフラントス。だが、少しうつむいてからばっと前を向いた。
「私は騎士団長様に誘われてここへ入学したのです。
言いたいことがあるのなら、私ではなく騎士団長におっしゃってください。」
少し一礼してから、きちんと道をたどって自分の席へ戻っていった。
アスタリアの四男は少し言いよどんていたが、まあ……何とかなるだろう。