入学 前半
それからしつこく聞かれたが、初め以降は表情を変えないよう意識したため姉がつまらなさそうにしていた。
俺だって、ずっとそのことに突っ込まれるわけにはいかない。その話題は俺の秘密といっても過言じゃないし。
ようやく寮に帰ったのが入学式。両親たちも一緒に学園の門をくぐるも、すぐに分かれて途中見かけたエミルと入学式会場へと向かった。
「あ! ユリアちゃんだ!」
目の前を歩く人ごみの中に少し空間があり、そのど真ん中を歩いていたフラントス。おおよそ、外部生ということで避けられているのだろう。
エミルの声が聞こえたのか、後ろを振り向いて小さく会釈し、合流した俺たちに挨拶をした。
「お久しぶりですハドラー様、シュミリア様。」
「久しぶり!」
「ああ。」
綺麗に礼をするフラントスは、家柄が分かっていなければ貴族と間違えそうなくらいだ。きっと彼女の母親が礼儀正しかったのだろう。
俺たちがフラントスの隣に並ぶと周りが少しうるさくなったが、仕方ないことだ。
「ところでさ、ユリアちゃんって挨拶するの?」
「ええ、まあ……自信はありませんが。」
「そっか! じゃあ、私楽しみにしてるね!」
「……そんなに期待するものじゃありませんよ。」
彼女たちが話しているのを聞きながら歩いていると俺たちの前……正確にはフラントスの前に立つ女三人。わざわざ物を申しに来るとは……度胸がすごい。
「ちょっと! 庶民がシュミリア様方にくっつかないで頂戴!」
「そうよ! 庶民風情が話しかけられる方じゃないの!」
「立場をわきまえなさいよ!」
まるでフラントスが俺たちにくっついているような言い方だが、正確には逆だ。そんな勘違いをされている彼女はたまったもんじゃないだろう。
――と、思っていたが。
「すみません。ハドラー様方が身分の高い方だと知りませんでした。
次回から気を付けますね。」
彼女は困り顔をしながらも適当にあしらっていた。平然とそう言うフラントスに傷ついたのか、エミルが顔を俯かせた。
フラントスは三人があきらめよくさったのを見て、それではというように一礼すると会場の方へ走って行ってしまった。
「――あ! ちょっと……」
その後ろ姿を見てエミルが片手を伸ばすも、聞こえていなかったのか振り返ることはなかった。