親交
「やっぱり!
名前を教えてくれない?お友達になりたいの!」
心なしか迫りながら少女に詰め寄るエミル。その様子は……俺が初対面だったらドン引く位だ。少し呆れつつ、このままでは少女が可哀そうなのでエミルの手を取り、一度落ち着かせる。
「エミル。自分の名前から言ったらどうだ」
「ああ、そっか!
エミル・ハドラー。アスティア魔法学園の第一学年だよ!」
「私は、ユリア・フラントス。同学年です。」
ニコニコと満面の笑みで少女――フラントスに紹介する様子はまさに人懐こい犬。それがエミルの取得で人とすぐに打ち解けられるのだが、フラントスはそうはいかなそうだ。やはり、敬語というのが壁を感じる。仲良くなればとれるだろうか……
「ユリアちゃんね! よろしく!」
「はい。よろしくお願いします。」
「あ、あとこっちは……」
エミルの手がこちらに向いたのを見て、俺が自己紹介する番だと気づき口を開く。
「俺はクレイ・シュミリア。同じく同学年だ。」
瞬間、フラントスの姿が彼女と重なって見えた。
長い真っ直ぐな黒髪に、琥珀色の瞳。そう見えたのは――気のせいか。
フラントスの方も目を見開き静止し、同時に大きな瞳から一粒の涙があふれた。
「ユリアちゃん!」
エミルが呼びかけ、ハッとしたようにそちらを向く。俺も現実に戻った感覚がして静かに尋ねた。
「どうした、なぜ泣いている。」
「え……?」
俺が尋ねたことに本人も気づいてなかったらしく、自分の頬を触れて驚いていた。
「ちょっと! イチャイチャ禁止!
仮にも婚約者の前だよ? どうかしてる!」
「ああ、すまない。」
「……婚約者?」
エミルが間に割って入り、頬を膨らませながら駄々っ子のように怒った。まあ、怒ったとは言っても冗談のうちだろうが。それに素直に謝ると、フラントスはフラントスの方で驚いていた。おそらく聞きなれてないからだろう。
「ええ!
クレイは私の婚約者なの! まあ、他に好きな人がいるようだけど。」
「まだ決まったわけじゃない。」
つーんと冷たい目線をよこしながら告げるエミルに苦し紛れの反抗をする。さすがにそれは浮気してるみたいで嫌だ。
フラントスまで冷めた目で見てきて思わず顔をしかめた。
そのまましばらく話していると、昼の鐘が鳴った。
「あ、私はそろそろ寮に戻りますね。」
「えー、ユリアちゃんともっと話したいなぁ。」
「すみません。少し用事があるので。」
どうやら、この短い間でエミルはフラントスに懐いたようだ。懐いたと言ったら人聞きが悪いが……犬っぽいこともあってこれが一番合っている気がする。
「エミル、あきらめろ。」
「……はーい」
「すみません、では。」
最後まで丁寧な言葉で壁は感じたが、はじめと比べれば大分ほぐれた方だと思う。
この学園で外部生はほとんどスカウトなので、特待生と扱いは似ている。おそらく、フラントスはもっとも成績・家柄のいいクラスだろう。そう考えるとクラスは同じになる確率が高い。
これからが楽しみだ。