偶然
俺が彼女を見つけたのは偶然だった。
ただ、エミルと共に寮住まいに慣れるために早めに寮へ引っ越していただけ。時間が余って、外をゆっくり回ることに決めゆったりと話しながら歩いていた。
エントランスの前にある噴水の前を通った時。ふと懐かしい感じがして噴水のほうを向いた。そこにいたのは、華奢な少女。噴水の四方に置かれたベンチに一人、静かに座っていた。何をしているわけでもなく、心地よさそうに目を瞑って座っていた。
「クレイ?どうしたの」
「……ああ、なんでもない。」
「なんでもなくないでしょ。
ちょっと休憩しよっか」
なぜか目を離せずにいると、急に立ち止まった俺を心配してか近くのベンチに座らせられた。そのベンチは少女のすぐ横のベンチで、少女を見るにはもってこいだった。
「あ、あの子って噂の外部生かな?」
「”噂の外部生”?」
エミリがふと口にした言葉に思わず聞き返した。
「うん。
魔法が上手で魔獣を手懐ける能力を持ってるらしいよ。
っていっても、噂にしか過ぎないんだけどね?」
「そう、なのか……」
魔獣を手懐ける、というところで彼女を思い出した。彼女は動物好きで、どんなに警戒心が強い動物でもよく懐いていた。噂にしか過ぎないとはいえ、そんな能力があったら羨ましい。少しでも彼女との共通点を持てるのだから。
「にしても、すごく綺麗な子だよね。」
エミルがそういうのもうなずける。もちろん、エミルは可愛い。だが、あの少女は可愛いというよりは美しいとか綺麗とかのほうがあっている。
真っ白な髪は背中を覆うほどに長く真っ直ぐで、肌も日焼けをしたことがないくらいに白い。しかし、頬や唇は綺麗に色づいていて……全体の雰囲気で言うと、大人のきれいな女性。遠目に見ただけだと大人と見間違うだろう。
「――ねえ、クレイってば!」
「あ、悪い。」
「……もしかして、あの人なの?」
じっと長い間見つめていたらしく、不安げに尋ねられた。あの人、というのは俺の好きな人のことだろう。はっきりとは言っていないが、エミルはきっと気づいている。
だが、どこか懐かしく感じるだけで確証はない。会えたら会えたでうれしいが……彼女も死んだのかと思うと悲しい。
「まあ、私にだって他にいるから!気にしないでいいよ。」
「エミル……」
涙が浮かんでいるのを見て罪悪感が襲ってくるが、気持ちはどうしようもない。我ながら最低な男だ。
そう思いながらエミルの頭を胸に抱きよせていると、影が差した。なんだ、と顔を上げると綺麗な蒼い瞳の少女が目の前で俺たちを見ていた。
そう、隣のベンチにいた少女だ。
「彼女。どうしたんですか?」
綺麗なソプラノの声。その声質は彼女と違うものの、柔らかく優しいところが一緒だった。
そこまで考えたところでふと尋ねられたことを思い出し、口を開いた。
「あー……これはだな、」
「ねえ!あなたが外部生?」
「え?あ、私は外部生ですが……」
……触れられたくないらしく強引に話をそらされた。
困惑気味に答える様子がやはり彼女に似ていて、自然と頬が緩んでいた。