成長
時間は過ぎていき、6歳になった。
姉は立派な淑女へと成長し、俺は紳士なりかけだ。とはいえ、俺の決意もあってほぼ完成している。そして、予想通り婚約者も決まった。
シュミリア家は公爵位に位置しており、婚約者募集と聞きつけたものが寄ってたかって……少しうんざりする位だった。結局俺の相手は、姉と違って活発でころころと表情の変わる子供らしい性格の、エミル・ハドラーになった。俺はいつの間にか表情のあまり動かない子供に育ってしまった。だが、エミルと一緒にいると俺もつられて笑うことがあるので、それを見た両親がそうしたのだろう。
俺としては、雰囲気がどこか彼女に似ていてその時のことを思い出すから自然と笑うのだが……まあ、それを言っても婚約者は変わらないし、決まった以上エミル本人に目を向けることに決めた。
あと、俺は初めて姉の婚約者に会った。
姉の婚約者は王家の三男で、とても柔らかい印象の男だった。俺より年上で、完璧な紳士。容姿、性格、家柄のすべてよしのルディ・エンペール様。
姉と一緒に談笑している様子を見て、羨ましいと純粋に思った。
それから四年。
姉がアスティア魔法学園に入学して二年が経ち、俺が入学するのも二年後。
礼儀作法の勉強も終わり、今ではほとんどが魔法の勉強になり少しだけダンスの練習をするようになった。魔法は今まで以上に上達して、ダンスはエミリと一緒にできるのでとても楽しい日々を送っている。
今となっては、彼女のことを時々思い出すもエミリ本人と向き合えたと思う。それでも婚約者、というよりは友達という感覚だが。
結局のところ、彼女のことをまだ忘れられていなかった。自分でもどんなしつこい男だとは思うが……まあ、この想いを知る者はいないのでいいだろう。
――なんて思っていたのだが。
「ねえ、クレイ。
あなたってこの婚約どう思ってるの?」
エミリから唐突に聞かれたこと。その声は少し寂しげで、いつもの彼女らしくないな、と思った。
「急にどうしたんだ?」
「いいから答えてよ。」
「質問自体よくわからないんだが……」
「だから……
その、私のこと……好き?」
強い口調で言い返されたと思えば、不安げな声で尋ねられる。その率直な質問に目を見開くも、まずは応えようと口を開いた。
「好きか嫌いかで言えば好きだ。」
我ながら冷たいな、と思うもこれが事実だ。どう頑張っても友達以上に見れそうにない。遠回しに言うよりは、こっちのほうがいいだろう。
「……そう。
実はね、私にも他に好きな人がいるの!」
エミリは声を張り上げる。でも、その声は震えていて空元気だとすぐに気が付いた。
「だから……っ、その人にっ会えるまで……
それまでの婚約、だからねっ!」
「エミリ……」
泣きながら笑顔で言うエミリに申し訳なくなるも、謝るのはまた違うだろう。
その時はただ、そっと抱き締めていた。