模擬対戦 後半
もう一度始まった試合は、まさに激戦だった。いくら手加減の方法を教えたからと言って一般人のレベルにできるようになったわけではない。
「っくそ……!」
悔し気に呟くルークに同情する。フラントスは先ほどと同じく避けまくっている。ただ、攻撃されたときにカウンターをしながらだが。突っ込んできたときは、手に持った木でできた剣で受け流して軽く腕を叩く。魔法で一気に攻めてきたときには、自分の周りに風魔法で圧縮した空気の壁を作り魔法の中へ突っ込み、相手の魔法を逆に目くらましに利用して軽い一撃。
今ではルークが完全に劣勢だ。
「クレイ……ユリアちゃん、後のこと考えてるのかな……?」
「いや、考えてないだろうな。」
明らかに目立つ。王家の者より強いなんて、周りからすれば恐れの対象でしかない。もしかするとルークからの逆恨みがあるかもしれないのに。
「っまだ、まだぁ!」
「え、まだやるんですか……」
うげ、と顔をしかめたフラントスに呆れる。そんな言い方したらさらにルークがやる気出すぞ。仕方ない、といった様子で魔力を練り上げるフラントスに俺の危機察知能力が警告音を鳴らす。思わず体を乗り出し、やめさせようと口を開くがその必要はなかった。
「――とまれ!」
「……騎士団長様?
どうされたんですか?」
割って入ってきた騎士団長をみてざわつく場内。
騎士団長はここから見ても分かるくらいに焦っていた。理由はきっと、フラントスの魔法だろう。
「ユリア・フラントス。
今何を使おうとした?」
「……ストローム、です。」
その魔法名に、唖然とする。ストロームとは風魔法の中級で、上級のケージ・オブ・ストロームの基となる魔法だ。
「……貴嬢は次から実技には参加しないようにしろ。」
「なぜですか?」
「怪我人を出しかねない。貴嬢の魔法にはそれだけの力がある。
きちんと理解していろ」
「……そう、ですか」
しゅんとなるフラントスを見てかすかに顔をしかめた騎士団長は、小さく何かを呟いてから「そういうことだ」と告げて去っていった。
「っ貴様……!」
「ああ、アスタリア様。申し訳ありません、力の加減が分からなくて……」
「貴様は、どれだけ俺様をバカにしたら気が済むんだ!
不敬罪で処刑してやる!」
「バカにしてるつもりはないんですが……」
「あの、話なら離れたところでなさってください。
次の試合が始められませんので……」
「すみません。」
そのまま話し込んでいく二人は、まるで仲の良いライバルだった。まあ、ルークからすればそんなの嫌で仕方ないと思うが。