第8話 ギルド長
どのくらい待っただろうか。約一時間?うん、まあ待つのは構わない。
だけどないくらなんでも少々ではないぞ?
ああもう・・・前の世界のクソ会社思い出しちまった。
そういえばあの会社の受付嬢も大変そうだったな。上司に連絡しても帰ってくれという連絡しか来ないなんてそりゃ無理だろ。
てことは今回も受付嬢が悪いんじゃなくてここの上司が悪いってことか。
ハア・・・なんでこうも馬鹿が多いんだろうか・・・まあ、あくまで予想だが・・・
そんなことを考えながら溜息をついている時だった。
「お待たせしました・・・」
少し気落ちしているような雰囲気で受付嬢が帰ってきた。
あ・・・これは苦労人の顔だと一瞬でわかったナルなのであった。
「これから適正試験を行いますので冒険者登録はその適正次第とさせていただきます」
「・・・わかりました」
「聞かないんですか?」
「何をですか?」
「・・・いえ、なんでもありません。では案内いたしますのでついてきてください」
受付嬢はこう言いたいんだろう。
俺が何でこんなに遅いんだって言わないからだろう。
まあ、そこはね・・・苦労人だってのは一発でわかるし。今回はここの管理体制が悪いってのも顔見れば一発でわかる。
だからこそボソリと呟いてしまった。「大変ですね」と。
その言葉に受付嬢は歩みを止め、こちらを向き破顔し泣き始めてしまった。
「えっと・・・その大丈夫ですか?」
「は、はい。みっともない所をお見せしました・・・」
まだグスっと声が掠れているので目の腫れが引くまで少し待った。
「すみません・・・この仕事の大変さをわかってくれる人なんて今までいなかったもので・・・」
「お気になさらず。同じような人を今まで何人も見てきましたので」
「それはな・・・いえ詮索はご法度ですね」
「ありがとうございます」
「こちらこそ目の腫れが引くまで待ってもらってありがとうございました」
まあ、気づかれるわな。
「もう大丈夫です。さあこちらです」
受付嬢はもう大丈夫という感じで再び案内をしてくれた。
そしてついた場所は闘技場っぽい場所であった。
うむ。周りを見ても石造りでくまれ、ちゃんと入り口には鉄格子がある。
「ここにになります。そしてあちらにおられるのがBランクギルド長のアクライド・メメルス様です」
「今なんか文字が被っていた気がするんですが・・・?」
「お気になさらず。気のせいです」
受付嬢はここには痛くないがナルが心配という目をしながら闘技場からゆっくりとさっていった。
まあ、深くは聞くまい。たぶんだが理由はだいたい予想がつくしな・・・
とりあえず挨拶でもしますか。・・・予想通りなら追い返す言葉が飛んでくるだろう。
「はじ「帰れ餓鬼」・・・・・はあ・・・」
大当たりだよ・・・なんでこう・・・・・・阿呆なのかね?
ナルがいた会社の先輩社員でもこういう奴はいた。人の話を聞かなく自分の我しか通さない奴が。
そしてそう言った類の人は会社側からは職人だからという馬鹿な理由で新人などを騙そうとする。
例えばだ。どう考えても無駄の多い置き方をされている資料があるとしよう。その資料を纏め綺麗に分けることをその職人とやらは怒る。理由は簡単だ。ただ気にくわないからそれだけが理由である。
話が逸れた。今は目の前にいるコレをどうにかしないとな。
「あなたは人の話を聞かないのが常識なのですか?」
「なんだと!このクソ餓鬼!?」
なんだろうか・・・この成人した時ホストで俺は偉いんだぜとか言っているクズが他の会社に入った時わがままを通すようなカスになったような奴は?
あれだなどうせBランクというのがどのくらいかわからないがなり上がりだろう。
たまたま他の人よりも強かったただそれだけしかない阿呆か。
「それで?人の話も聞かず餓鬼と罵るだけの何も見ようとしない。何もしようとしない阿呆がなぜ最初に言うことが「帰れ餓鬼」なんですかね?頭沸いてるんじゃないですか?普通、適正を量るだけならやってもいいでしょうが。それともそれすら判断出来ないほど馬鹿なんですか?冒険者とは命を賭けて魔物と闘う仕事と聞きましたがあなたみたいなクズを見ているとそれも嘘なんじゃないかと思えますねえ」
・・・おおうすげえな俺こんなにすらりと毒舌が出せるなんて自分でも吃驚だ。
ナル言葉を聞いたアクライドはというと口を何回かパクパクとさせた後に顔を徐々に真っ赤になりなにやら暴言らしきもの言い始めた。
それをくだらない物を見るようなな目で見ていたら、腰に下げていた剣をを抜いてこちらに切りかかる体勢をとっていた。
「はあ・・・図星を突かれて逆上か・・・・・・程度が知れるな」
「餓鬼がその口を今から閉じてやる!」
「どうぞ。やれるもんならな。阿呆が」
ナル言葉を合図にアクライドは足で踏み込みナルの懐に入り剣を振りかざした。
だが、それは成功せずアクライドの体は宙を舞っていた。
「なっ・・・!?」
「阿呆が力量も見えてない相手にむやみやたらに突っ込むからそうなるんだ」
アクライドはどうにか体勢を立て直そうとするがさすがに空中ではそれが無理にらしくそのまま地面へと落下していった。
そこに追い討ちをかけるようにナルの魔法が襲い掛かる。
「来たれ風よ『ウインドカッター』」
放たれたのは初級魔法の風の刃。ただ数が違った。普通のウインドカッターは1つの空気の刃が飛んでいくだけだがナルのは50を超える風の刃が発生していた。
精霊のバックアップと魔力のMPの総量によるごり押しである。
ザシュっと言う音とボフンボフンという音が同時に煙の中からしてくる。
「くっ・・・ガハッ!」
煙が散りアクライトの姿を見えた。血だらけになり全身に切り刻まれた跡があり、剣を棒代わりにしており立つのもやっとのようだ。
まあ・・・ウインドカッターぐらいで死ぬような奴では・・・待て?今、俺はあいつを殺そうとしたのか?
いかんな・・・竜人の記憶にいくらか常識が引っ張られている。
そんな風に自分の常識を改めて確認しようとしていたナルだったがアクライトが何か言っているのでそちらに耳を傾けた。
「クソが!クソがクソがクソが!!!!!何故だ!!何故俺が貴様のようなクソ餓鬼に!!!」
「だから力量も確認しないで突っ込んだお前が悪いとさっきも言ったろうが」
「てめえ何をしやがった!?」
「何もただ・・・お前が自分の力で空を舞っただけだろうが」
「クソ・・・たれが・・・・・・」
そこで意識が途絶えたのかグラリと傾いたと思ったらそのまま倒れた。
・・・今さっきアクライトを宙に回せたのは柔術で剣で振りかぶって来た力をそのまま返しただけだ。
なので俺自体は魔法しかやることがなかった。
実につまらん。もっと弄り・・・だからいかんって竜人の記憶が色々と俺の常識を塗り替えようとしている。
これはちょいと確認しとかないとやばそうだな。
この世界の人に対しての恨みを持つ竜人の記憶はナルの基本的な常識を変えようとしていた。だがさすがに日本人であったナルは人殺しということをしたことに対する嫌悪感を持っているためギリギリの所で理性がその衝動を抑えるのであった。
「はあ・・・コレどうしよ・・・」
頭に少し血が上っていたとうはいえギルド長を倒してしまうのはいささか問題のような気が・・・
「うわあ・・・またやらかしたようだ・・・・・・」
頭を抱え一人で唸っている時だった。
「ホッホッホッ。これまたすごいことになってるいるのう」
「ッ!?」
その声はナルのすぐ後ろ、背中から響いてきた。条件反射的に聞こえてきた方向とは逆に体を動かす。
「なるほどなるほど。危機感に対する能力も悪くないのう」
さっきまでナルがいた場所にいたのはローブを着込んだ・・・渋くてそこそこ筋肉質な上半身を出している老人がいた。
言っている意味がわからないと思うがそうだから仕方ない。
「・・・どなたでしょうか?」
「ホッホッホッ。礼儀も悪くは無いと」
そしてよく見ると手元にある紙のようなものに何かを書き込んでいた。
「失礼ですが質問に答えていただけると嬉しいのですが?」
「ホッ?おお!これは失礼した。冒険者ギルド総代表ガルセル・クレイドという者じゃよろしくのう」
「・・・・・・・・はい?」
今総代表って言ったか?てことはこの組織のトップ・・・つまり元凶か。
そんなことを考えていたらガルセルが急に謝ってきた。
「すまなかった。こやつをギルド長にしたのはあくまで緊急処置だったのじゃ。冒険者というのは力を持ちすぎておる。それこそ自分に自信があるものがほとんどじゃ。じゃからこやつを仕方なくここのギルド長にしたのじゃが問題が多すぎたようでなカルプ嬢から連絡が来てのう・・・」
「カルプ嬢?」
「これも先に謝っておくぞい。すまぬ。最初から全部見ておった」
「・・・そうですか」
「そしてカルプ嬢とはお主を案内した受付嬢のことじゃよ」
だからか・・・最後あんな心配そうな顔していたのは。
「なるほど。冒険者になる者が少なく力だけが強いものしかいない。そしてそいつらは自分の力に絶対の自信がある。そんな奴らが後輩を育てようとは一切思っていないということですかね?」
「お主。そこまで理解できるのか?」
「まあ・・・こういう環境は前も見ましたので」
「その歳でか・・・」
嘘は言っていない。前のいた世界の会社もそうだったし、この世界で最初に生まれた場所もそうだった。
「とりあえず。あなたが総代表という立場というのをまず信じましょう」
「そこからかのう・・・」
「それで僕の適正はどうでしたか?」
「・・・・・・やれやれ。まいったのう。全部読まれておるようじゃの」
そう言ってガルセルは手をぷらぷらさせて参ったと言った。
・・・いや、そりゃあ目の前でなんか適正ありみたいなこと言われたらねえ・・・
ナルが試験という言葉を適正の後につなげなかったのはこれが理由だった。
「・・・すまぬがお主の名を聞いてもよいかのう?こやつのせいで名前は聞けんかったからのう」
・・・さてどう答えようか?この世界での本名を出すのはまずいから。
「ナル・・・ナル・コールドです」
「ナル・コールドか」
コールドは英語でcalledつまり呼ばれるという意味を持つ。
ナルと呼ばれている者なんてわかりやすだろう?
「それでじゃ。ナル・コールドよ」
「いいですよ。引き受けましょう」
「まだ何もいってないのじゃが?」
「どうせここのギルドの管理をしてくれと言うのでしょう?」
「わしも老いたかのう・・・」
「・・・それで条件があります」
「条件かの?」
「はい。1つ僕がこのギルドの管理をするなら一切の口出しはしないでください。2つ目はもしここで僕が非道なことに走った場合あなたが僕を始末してください」
「お主・・・」
ナルの考えはこうであった。
好き勝手にやるからナル自体が問題を起こしたときは容赦なく殺してくれということであった。
「わかった。その条件、我が名に懸けて約束しよう」
その言葉をガルセルが言ったのと同時に手首の所に魔法で書かれた文字のようなものが浮かんだ。
「これは?」
「名による束縛じゃよ。もし違えることがあった場合それが青から赤くなる」
「なるほど」
「それではここを頼むぞい。ナル・コールドよ」
「はい」
ガルセルはそれだけを言ったら地面を蹴ったと思ったら空中を走っていった。
・・・中々にあの爺さんも非常識の部類にはいるんじゃないか?
「はあ・・・とりあえず。どうしたもんかね・・・・・・」
そういえばコイツどうしよう・・・
血だらけで倒れているアクライドに目を向けながらそう思うのであった。
母様・・・何故かここのギルド長を倒したらギルド長になってしまいました。
・・・大丈夫、ここを普通にすれば俺の生活もきっと普通になるはず・・・
そんな淡い希望を抱きながら、ギルドの改変を後日から始めるナルなのであった。