第6話 適正者
翌日、魔力の操作の仕方についてネージュに教えてもらっていた。
「さて昨日は色々と驚くことがあったけど、今日は魔力の操作についてやっていこうか」
「はい」
魔力の操作についてはいいんだが・・・昨日の疑問をぶつけてみるか?
疑問とはステータスに表示されていたMPと魔力についてだ。あの時、光の精霊は魔力が先に無くなると言ってたがそれはMPのことじゃないのか?ということだ。
「ねーじゅさんしつもんがあります」
「何かな?」
「せいれいがまりょくをしょうひするっていってました。でも、すてーたすにひょうじされたMPがへるんじゃないですか?」
「ふむ・・・それは合っていて間違っている。といってもわからないよね。簡単に言うとだ。精霊の言う魔力とはMPではなくもっと抽象的なものなんだと私は思う。実際にコーリアに精霊を呼び出してもらってずっと現界させてたんだけど・・・MPは減らなかった。だけどコーリアは目に見えて疲労していた。ここから察するに魔力に表示されている数値によって現界される時間が限られている。そしてそれは時間が経つと共に疲労として現れてくるということぐらいしかわからないんだ」
・・・それだけわかっていれば十分だと思うのは俺だけでしょうか?
つまるところ魔力の数字=精霊の現界時間ってことか。あれ?ってことは精霊を毎日限界まで出していれば魔力は自然と伸びる?
寝る前に試してみよう。
そう思考していたらネージュが口を開いた。
「まあ、実際はよくわかってないが正解だから。疲れたとか思ったら精霊の現界をやめればいいんだけどね」
「わかりました。ありがとうございます」
「さて今日の本題。魔力の操作についてやっていこうか」
「はい」
ナルはネージュが魔力についての説明を熱心に聞いた。
「魔力とは私達の体の中にある力のひとつだと思ってくれていい。そしてそれを操作するには絶対に他の人から体の中にある魔力を引っ張り出してもらう必要がある。これは魔力が体の中に固まっているためそれを解す人が必要だからと思ってくれてかまわない」
「かたまっているですか?」
「そう。例えばこの毛玉」
どっから出したその毛玉・・・
「これはこの毛玉自体に私が手を出さなければ糸として利用することができない」
ネージュはそういって毛玉から糸を一本引っ張り出す。
「これの毛玉が今のナル君だよ」
ふむふむ・・・つまり生まれながらに強い魔力を持っていても何かしらの鍵みたいなのが魔力に掛かっているってことか。
「そしてその魔力を解す方法は簡単。ナル君私の手を握ってくれるかな?」
そう言われナルはネージュの手を握った。
「後は私がナル君の魔力を・・・・・・」
「!?」
「驚いたかい?それが魔力だよ」
これが魔力・・・
体全体に何かが行き渡る感じがした。
あれ?それにしては体が熱いような・・・・・・
「ああああああ!!!!!??」
熱い!?なんだこれは!!?
「ナル君!?」
「ナル!どうしたの!?」
何だ・・・!これは・・・体が焼けるように熱い!!
ナルが体熱さを声に出して唸っているとネージュの後ろの机にあった紅い血のような液体が発光していた。
それにきづいたネージュは驚いた声を出した。
「まさか!?ドラゴンブラッドが反応している!?」
「そんな!?ありえないわ!ドラゴンブラッドから反応を出すなんて今までありえなかったことよ!?」
「でも今起きている現象はそうとしかいえない!!」
がああ・・・くそう・・・なんだっていうんだ・・・・・・
そこで俺の意識は途絶えた。
そして見慣れない場所に立っていた。
周りは自然に溢れていて、陽光が眩しく思えるくらいの場所だった。
「ここは・・・?確か俺はさっき魔力の操作をしていて・・・」
そうだ!急に体が熱くなったと思ったら意識が途絶えて・・・
「にしてもここはどこだ?って!俺の姿が前の姿に戻っている!?」
自分の体を確認したナルは前世の体に戻っていることを手や足を見て判断した。
そして唐突に声が聞こえた。
『血を求めよ』
「誰だ!?」
『我が血を求めよ』
「だからお前は誰だ!そしてここはどこだ!?」
『・・・・・・・・・』
そこで声が途切れた。
なんだってんだよ・・・
呆然と立ち尽くしながら再びあたりを見渡していると光のようなものが浮いてることに気づいた。
そしてその光はついてこいと言っているように動き出す。
「・・・ついていくしかないか」
ナルは他に出来ることも無いと思い光を追いかけ歩き始めた。
そして一歩踏み出した途端だった。風景がガラリと変貌した。
「これは!!?」
その風景は焼ききった街だった。所々に人らしきものが倒れている・・・いや、あれは竜人か?
また一歩ナルは踏み出してみた。そして再び風景が変わった。
「・・・荒野?」
誰かの視点なのだろうか。視界がぐるぐると変わる。
そして暗くなった。
「これは誰かの記憶か・・・・・・?」
考えても埒が明かないとりあえず歩こう。
そこからは風景が変わることは無かった。そして目的の場所についたのか光は動きを止め消えた。
「・・・・・・到着したのか?」
『我が血を求めよ適正者よ』
「あんたは・・・?」
暗い空間の中に立っていたのは一人の人であった。否。人というには尻尾や角がある。
『我は血を残し。種族を救うために死した者なり』
「救えと言っているのか?」
『竜人族は人によって滅ぼされた』
「なら俺は人だ。頼む奴が違うだろう」
『否。適正者よ。世界が異なりし者よ。この世の人ではない者よ。救ってくれ竜人を・・・』
言いたいことをいったのかその竜人はスゥー・・・っと薄くなっていく。
「まて!勝手なこと言って勝手に消えていくのか!?」
『適正者よ。この世を救え・・・』
どいうことだ!って叫ぼうとした時にはナルの意識はプツっと切れた。
「・・!・・・・・・!!ナ・!」
声が聞こえる・・・
「ナル!!」
そこでナルはハッとなり目が覚めた。
目の前にはネージュと母様が心配そうにこちらを見ていた。
「ここは・・・?」
「ナル!!!」
「うわっ!母様!?」
物凄い勢いで抱きついてきたコーリアにナルは驚いた。
「よかった・・・!本当に良かった・・・・・・!」
「えっと・・・?」
「ナル君どこまで覚えているかな?」
「魔力の操作を教えてもらっていて・・・そこで意識が途絶えたのは・・・・・・」
「そうか。じゃあその後の話をしようか。その前に驚かないでくれよ?」
「何がですか?」
「見たほうが早いだろうね」
はいと言われ渡されたのは鏡だった。
そしてそこに映し出された顔みて驚いた。
「え?・・・・・・え?」
「まあ、そういうことだ」
ナルは驚いた。
その鏡に映っていたのは10歳ぐらいの少年の顔だったからだ。
よくよく確認してみると手や足などが成長して大きくなっていることがわかる。
「・・・あの後ドラゴンブラッドが入っていた瓶が割れてね。その瓶に入っていたドラゴンブラッドがナル君の体の中に入っていったんだ。そしてそこからナル君の体は成長をはじめた。目の前で起きていることが信じられなかったよ。ちなみに服は大きさを調整したから問題は無いはずだよ。そしてナル君何を視た・・・?」
「・・・・・・ネージュさんは竜人って知ってますか?」
「・・・知っているよ。馬鹿などっかの王族が自分の国があいつらのせいで危ないとか言って戦争をおこしてほとんど生きてない種族だよ」
「僕が視たのは竜人の記憶です」
「それは・・・」
「聞かないでくれると助かります」
「そうか。わかったよ。ほらコーリアいい加減ナル君から離れなよ」
そう言ってネージュはコーリアをナルから引き剥がした。
「・・・・・・・・・・スゥ・・・」
「寝てるし・・・」
「仕方ないか・・・ナル君が倒れてからずっと寝ずにいたからね」
「僕ってどのくらい寝ていたんですか?」
「三日間だよ」
「え?」
「君は三日間寝続けていたんだ」
「そんなに・・・」
あの夢の体感時間だとそんなに掛かっている感じはしなかったがそんなに日が経っていたのか。
「まあ、それはコーリアが無理しすぎた結果だから別にいいんだけど」
「いいんですか?」
「昔から結構徹夜自体はやってたからねコーリアは」
「そうなんですか」
「とりあえず今日はもう寝たまえ。まだ体を動かすのに時間がかかるだろう」
それもそうか。急に体が大きくなったせいで腕が動きずらい。
ナルは手を握ったり開いたりしてみるが反応が遅れる。
「そこは練習あるのみだね」
「たぶん大丈夫です。だんだん感覚は掴んできたので」
そう言ってナルは再び手を握って開いたりを繰り返した。
今度はさっきと違い手を握るのに反応の遅れが来ない。
「馴染むの早いね・・・」
「ええ。記憶がそうさせてくれるんです」
「なるほど」
うん。この調子なら明日には動けそうだ。
「もうひとつ言っておくことがある」
体の確認をしていたナルはネージュの方向を見た途端固まった。
そこにはひどく真面目な顔をしているネージュがいたからだ。
「ナル君。君はドラゴンブラッドがどんなものか知らないはずだ」
「はい」
「ドラゴンブラッドは人に奇跡的な力を与えると言われている物なんだ」
「そのわりにはさっき結構軽い感じで飲ませようとしていたような気がするんですが?」
「本気で飲ませる気なんて無かったさ。実際あれは解明できていない点が多すぎて私に回ってきたぐらいだからね。ナル君あの時コーリアは言ってたよね?適正が無ければ死んでしまうとあれはその言葉の通りなんだ。ドラゴンブラッドを飲んだ者または使った者は使用後すぐに死ぬ。それもとても悲惨な形で」
「・・・知ってます。それも記憶の中にありましたから」
「そうか。なら言いたことはわかるね?」
「ええ。悪用はもちろんしませんし。他人にこの情報を流すことは絶対にしません」
「よろしい。これは絶対だ。でなければ君はこの世界に追われることになる。なにせ君自体が実験材料になってしまうからね」
その言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。
確かに話を聞くに希少性を考えるとその可能性が濃厚だ。そしてこの世界にも自分のことしか考えないゲスは多い。ならば余計に気をつけなければいけないだろう。
「まあ、今は平気だから気にする必要は無いよ。それよりも魔力はちゃんと使えるようになったかい」
「大丈夫です。この通り」
そう言ってナルは手を上に挙げ魔法を唱える。
「来たれ水よ『ウォータボール』」
「これまた見事なものだね」
「魔力が通って行く道がわかるんです」
「そういえばナル君は『洞察の眼』を持っていたね。それは相手や自分、周りの魔力を見ることが出来るスキルでね。使い勝手は物凄くいいけど魔力の消費が大きいから余り連続で使用するのはやめておいたほうがいい」
「わかりました」
魔力を視るか・・・でもそれってステータスとかも視れるってことなんじゃ・・・?
試してみるか。イメージするのはあのステータス画面・・・眼に魔力を通してそれを見通す感じで・・・!
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名前:イチノミナル
性別:男
種族:人族(竜人族)
HP:6000/6000
MP:9745/9800
力:83
魔力:151
知能:266
防御:92
精神:288
速度:66
運:40
能力
精神耐性、疲労耐性、環境耐性、体力消費軽減、ステータス上昇補正、覚悟、正論毒舌、幸運、魔法取得速度補正、適正力、物理耐性、魔法耐性
スキル
威圧Lv3、論破Lv2、火魔法Lv1、水魔法Lv1、土魔法Lv1、風魔法Lv1、光魔法Lv1、闇魔法Lv1、精霊魔法Lv1、精霊召喚Lv1
ユニークスキル
洞察の目、スキル上限開放、開眼、竜人化
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・・・・・・・・・うわお。
なんだこれ?能力が大体上がっている。てか精神と知能の上がり方は異常すぎるだろう。
あかん。これはあかん絶対に人に見せられないわあ・・・
早い所精霊を育てよう。じゃないと隠蔽がどこまで効くのかわかったもんじゃない。
・・・よし寝よう。そしてまた明日考えよう。
そう思いナルは自分のステータスから現実逃避をして眠りにつくのだった。
ちなみにネージュのことをすっかり忘れていて眠ってしまったので後日コーリアがとか愚痴を聞くことになった。
普通ってなんだろうなー・・・