第3話 守るために
「------------」
何か聞こえる・・・
「----------ナルーーーーー」
駄目だ・・・意識がはっきりしなくて物凄く眠い・・・・・・
そして2ヶ月が過ぎた。
やっと状況を飲み込み始めることができた。
俺は無事に転生できたようだ。
あの黒い渦のことを考えると・・・やめよう・・・
ま、まあとにかくだ。
今、俺が生まれた家はよくライトノベルとかである田舎貴族の家らしい。
「うあー」
「なあに?ナル?」
・・・そして目の前にいる女性が俺の母親である。
その母親の名はファライスト・コーリアという。
どこか優しい用にも見えるのだが何か陰を持つ笑顔を時々する。
そこに大声で入ってくる男の声がしてきた。
「おい!コーリア!ここか!?」
「・・・静かにしてください。ネッタ・・・赤ん坊がいるのですよ?」
「ふん!そんなもの知るか!それよりも資料は纏めてあるだろうな?」
「・・・・・・そこにあります」
「全く・・・よし。ちゃんと纏めてあるな」
そう言ってその資料を見て満足したのか男はすぐに部屋を出て行った。
あれがこの母親の夫と言うのだから意味がわからない。
まあ・・・貴族だから政略結婚とかのせいだろうが・・・
「ごめんね。ナル・・・」
そう謝るコーリアの目尻には涙が確かにあった。
「うー」
その涙をナルが手で軽く拭ったのに驚いたのか。さらにコーリアは涙を流した。
「ありがとうね・・・ナル・・・あなただけは私が守る・・・・・・」
「うーあー」
何も言えないこの身が憎い。だが今は辛抱だ。
この優しき母親を悲しませないために・・・成長したら絶対にこの母親だけは守ってみせると思ったナルなのであった。
そしてあれから3年が経過した。
その間も母親は涙を流すことが時々あったがナルの前では本当の笑顔を向けてくれていた。
・・・そしてこの環境がどういった所かわかった。
ようするにあれだ。前世でいたブラック企業と変わらない。
なんでそんなことがわかったかというと原因はあの男の怒鳴り声だった。
「どうせ田舎の農民など使い捨てだ!そんな奴捨てておけ!」と・・・
ああ・・・この男が母親であるコーリアを苦しめている原因などだと一瞬で理解した。
そして母親は最初からここに住んでいた所にあの男が無理矢理政略結婚という形をとったのだろう。
じゃなければこの母親があんな暴挙を許すはずが無い。
ならやることはひとつだ。まずはあの男をどうにかするためにこの身で何かをなさなければならない。
そしてナルは母親コーリアに頼みごとをした。
「かあさま。おそとにでたい」
「ナルはおそとに出たいの?」
「うん!」
このとき「すげえ気持ち悪いな俺」と思ったのは仕方ないと思う。
だって元は23歳ですもの・・・思えばこの数年、羞恥プレイ続きでやばかった。
最初の1年間など特に。赤ん坊の主食は母親の母乳である。ってことは必然的に吸うことになるわけであり精神年齢23歳の俺にとっては恥ずかしすぎて色々とアウトだった。
だが所詮は赤ん坊、お腹の空きには勝てなく普通に吸っていた。
と話がそれた。今は外に出ることだ。
「じゃあ母様のお友達の所にいこっか?」
「おともだち?」
「そう。お友達よー」
友達か・・・思えばそんなに友達いたっけかと考えるナルだったが。考えていて悲しくなったのですぐに中断した。
「メイルはいる?」
「はっ。ここに」
アーリアが誰かの名前を呼ぶのと同時にコーリアの背後に人が立っていた。
全身黒い衣装で男性か女性か判断がしずらいがたぶん女性だろう。声が高かったのでそう思うことにした。
それにしても今のって能力か?
「ちょっと外に出たいのできる?」
「はっ。コーリア様の頼みならば」
「じゃあお願い」
「ではお手を・・・」
「はい」
メイルがコーリアの手をそっと大事なものを受け取る時のように丁寧に触れる。
そしてコーリアはナルを抱きかかえた。
「では・・・『テレポート』」
ビュンという音がしたと思ったら目に入ってきた光景はレンガなどでできた家がならぶ街だった。
「それでは手筈道理にしておきます」
「ありがとう。メイル」
「いいえ。これもコーリア様のためです」
「昔みたいに呼び捨てではよんでくれいないのね・・・」
「・・・・・・失礼」
その言葉を残しメイルは再び消えた。
コーリアは少し悲しそうな顔していたがすぐに笑顔に戻った。
「さてと私のお友達の所に行こうねナル?」
「メイルはおともだちじゃないの?」
我ながら馬鹿な質問をしたと思う。そんなことわかりきっていることだというのに。
「そうねえー私はお友達と思っているのよー?」
「そっかー」
「そうよー」
・・・駄目だな。体が子供に戻ったせいか精神も体に引きづられているっぽい。
ちゃんと考えて発言することよりも疑問がすぐに口に出てしまう。
「それじゃあ行こうねナル?」
「うん」
そして10分ぐらいだろうか抱きかかえられたまま母親コーリアが歩いていると目的地についたのか足を止めた。
目の前には石造りの大きな家というか屋敷?があった。
「ネージュ!いるー!?」
うわ!耳痛い!
そんな風にしかめっ面になっているナルをみて。
「あ!ごめんねナル」
ちゃんと確認してから叫ぼうね母よ・・・
『あー・・・コーリア?いつもどおりで入れるよ』
「はいはい。全くネージュの魔法馬鹿にも困ったものね」
そうアーリアが呟くのと同時にナルを抱きかかえている手腕とは逆の腕を扉に伸ばし魔法らしき言葉を唱えた。
「囁く精霊よ。導きを『ノイズアンロック』」
今のは魔法・・・?でも精霊って言ってたから精霊魔法?
うーん・・・ここら辺の知識は皆無に近いからな。
どうやら母・・・あーもう!母様でいいや!
母様の友人はどうやら魔法馬鹿といわれているらしく色々な魔法を知っていそうだ。
なら魔法について詳しく教えてくれるかも知れない。
そんな期待を抱きながら屋敷のドアくぐる。
「はーい。いらっしゃい」
「久しぶりねネージュ」
「うん。久しぶり。コーリアと合うのは3年ぶりかな?」
「そう・・・ね。あの時期は色々とあったから」
「政略結婚って聞いたけど駄目そうかい?」
「ええ。そろそろ国王から御達しがぐるんじゃないかしら?」
「密告したのかい・・・?」
「・・・仕方が無いのよ。もう農民や町民は現界なの。いつ暴動が起きてもおかしくないのよ」
「それは・・・・・・じゃあもしかしてそのために?」
「ちょうど良かったのよ。ナルが外に出たいって言ってくれたから」
「なるほど・・・君がコーリアの息子のナル君だね?」
「はい。はじめましてファライスト・ナルです」
ちゃんと挨拶できたことに驚いたのか顔がナルを見たりコーリアを見たりで忙しく上下に動いている。
「クスクス・・・驚いた?」
「全くだね。久々に吃驚したよ」
「どうかしたのかあさま?」
なんで驚いたのかを母様に聞いてみたらネージュとコーリアは互いに見つめあい笑った。
「なんでもないのよナル」
「良い子だねナル君は」
「自慢の息子よ」
「違いない」
「「あはははははは!!」」
生まれてはじめてかも知れない母様が声を上げて笑ったの見たのはそのことが非常に嬉しく、非常に悔しい。
自分にはそうやって笑わせてあげるだけの力がないこと。だけど逆に母様を笑わせてくれる人がいたことその両方の気持ちでちょっと困惑している。
何せこの感情自体はじめてのものだからだ。
たぶんこれが嫉妬と呼ばれるものなのだろう。
そんな風に自分の気持ちを整理しているとネージュが真剣な顔に変わりこう言った。
「家を抜けるんだね?」
「・・・・・・ええ」
「町の人達にその話は?」
「してあるわ。そして今日それが起きるとも」
「・・・納得したのかい?」
「ええ。納得してくれたわ。そして「自分達もこの町から去る」とも・・・一応職を失わないように全員の推薦書を書いて雇ってくれそうな所に送っておいたわ」
「さすが盤上の女神だね」
「その名は随分前に捨てたわよ」
「今でも健在ってことさ」
・・・あのー完全に話についていけてないのですが?
つまりこういうことですか?今日ここにくるのは最初から予定していたことでその内容は家からの脱出および逃走ということか?
「ほらナル君にも説明してあげないと」
「大丈夫よ。ナルは頭がいいから」
そんな胸を張って言わなくてもいいと思ったネージュなのであった。
でも説明はしてほしかったなあ・・・
そして自分からでた言葉に自分で吃驚した。
「えっと・・・まほうおしえてくれますか?」
どうしてそうなった俺ええええええ!?
いやさっきから小難しい話が続いてたけどさ!
確かに魔法早く覚えたいなーとか思ってたよ!?
でもさそれが言葉からでるとは思いもしなかったよ!!
ほら!二人とも驚いた顔してるもん!
「く・・・あははははは!!!君の息子は本当にすごいね」
「さすがに今のには私も驚いた」
「いいよ!ナル君。これから君はここに住むことになるんだコーリアと一緒にね」
「あ!ちょっと勝手に決めないでよ!」
「とは言ってもしばらく行く宛てが無いでしょうがコーリアは」
「うぐっ・・・」
「おとなしくここに住みなさいな」
「・・・わかったわよぉ」
「ということだナル君。今日からここが君の家だ」
「はい。よろしくおねがいします」
内心喜んでいるのがばれたのか再び二人にクスクスと笑われてしまった。
恥ずかしい・・・けどこれで問題はほとんど解決した。
後は俺が強くなるだけだ。
さあ!明日からがんばるぞ!!!