第7話
設定変更により一部改訂しました。
「あ、また有りました。」
アキトは日課として、寮の裏にある山の中を良く散策していた。健康の維持管理のためと、アキト曰わく『山菜』とされる、どう贔屓目に見ても雑草にしか見えない草を集めて食材にするためであった。
「今日はなかなかツイテいますね♪結構辺りは暗いのに、久しぶりに大量の山菜が見つかりました。」
そう呟くアキトは、まるで長いこと手入れしていない庭の草むしりを終えたばかりのような大量の雑草を一カ所に集め、一つの山にした。
「さて、このまま持ち運ぶのは大変ですし、所持契約するとしましょうか。」
転移召喚の特徴として、自らの所有物でなければ転移出来ないという制約がある。しかし、誰にも所有権が無い物、または所有者が国といった人でない物に所属するものなどについても、所持契約用の導陣を用いることにより、自らの所有物として召喚可能な状態にすることが可能である。(無論、所有者がいないからといって勝手に持ち出し禁止の物に所持契約を行うことは窃盗行為に当たり、見つかると罰則がある。)
アキトは“山菜”を採るに当たり、以前に一度県の担当職員に山菜の実物を持って訪ね、所持契約が可能か尋ねたことがあった。結果、問題は無いとされ、アキトは担当職員に満面の笑みでお礼を述べたという。ちなみに、担当職員の男性は最初喜ぶアキトを怪訝そうな顔をして見ていたが、アキトの事情を知ったあとは涙を堪えながら「頑張って生きるんだよ。もし辛くなったらいつでもおいで。」といってアキトにチョコレートを渡したという。
「これで良し、それでは部屋に送りましょうか。『山菜、転送』」
アキトは草山に手を翳すと、転移召喚の『転送』を行い、自らの部屋へと送った。アキトは寮の自室に“山菜”専用の空間を用意し、その上に転送陣を描いたビニールシートを敷いて床が汚れない様にしていた。
「ふぅ、これで当面はおかずに困りませんね♪」
一仕事終えたアキトは、満足そうな顔をして寮へ向かって歩こうとしたが、ふと何かに気付き立ち止まる。
(向こうに誰か…倒れている!?)
アキトは近くの茂みの中にうつ伏せに倒れる人の姿を認め、急いで駆け寄った。
「この子は…導族の少女?何でこんな所に…。」
近くに寄ると、その人物は普通の“人族”と明らかに違う特徴を持っていた。
「山羊形導族の子でしょうか…?でもこんなに白い髪や肌を持ってたでしょうか?」
その少女は頭に二本の丸まった角、背中から蝙蝠の羽、臀部から先の尖った尻尾を生やしていた。これは山羊形導族の特徴であったが、大きな相違点があった。それは色で、通常の山羊形導族は髪角や羽、尻尾は黒く、肌は浅黒いのだが、彼女の角も羽も尻尾も全て純白であり、肌はまるで透き通るように白く、風に揺れる髪は月光を反射してさながら天の川が如く輝いていた。しばらくその美しくも神秘的な姿に見惚れていたアキトであったが、直ぐ我に返り、少女の安否を確認した。
「すみません!大丈夫ですか!?どこか具合が悪いのですか!?」
頭を打っている可能性もあったため、少女の体を揺すらずに声を掛け、呼吸と脈を確認した。
(大丈夫そうですね。息があるし脈も正常です。)
アキトが一先ず胸を撫で下ろすと、少女が意識を取り戻した。
「良かった。気がつかれましたか。今救急車を呼びますね?」
アキトが携帯を召喚し、電話を掛けようとした時、少女が慌て出した。
「お願いします!病院は止めて下さい!私は大丈夫ですから!」
「しかし…。」
「お願いします!!」
「…わかりました。」
「…ありがとうございます。」
(どうやら何か事情が在りそうですね…。)
少女の必死な懇願に、何か事情が在ることを察したアキトは一先ず電話を掛けるのを止めた。
(病院に行くと身元について訊かれますから、恐らくそれで嫌がっているのでしょうね…。となると身元を確認されると困る不法滞在者か何かが妥当な所ですかね…。
)
少女が頑なになっている所を見るに、恐らく公的機関に見つかれば本国へ強制送還されることが確実であろうと当たりを付けたアキトは、かなり悩む。此処で少女を匿えば、自分は非正規滞在を幇助したという事で犯罪者となる。
(ですが、此処で彼女を警察に出頭させれば、確実に彼女は罪に問われます。年端も行かない内に何か本国で大きな罪を犯したとは考えにくいですから、恐らく彼女の親族が政治犯かなにかで彼女はその煽りを受けたのかも知れませんね…。
そうなると、彼女を警察に出頭させるのは些か罪悪感が…。いえ、自分でも甘いことを言っているの百も承知なのですが…。)
とにかく彼女の事情について詳しく訊きこうと思い立ったアキトの耳に、大きな音が響く。
「~~~~!?////」
少女のお腹の虫の抗議の声であった。よほど不満が募っていたらしく、抗議のデモ行進が始まる始末であった。
「…とりあえず僕の部屋に来ませんか?何か食べるものを用意しますから…。」
見かねたアキトが提案すると、少女は羞恥で白い肌を鮮やかな紅に染めながら、無言で小さく頷いた。