第6話
引き続き世界設定説明回。読みにくい文章ですみません。勿論良く考えればおかしい所が出てくるので、深く考えないことをオススメします。
学園の授業が終わり、アキトは一旦寮に帰って荷物を整理した後、家庭教師のアルバイトのためとある学園中等部の生徒の家を訪ね、勉強を教えていた。
「…と言う訳でこの公式は導かれるわけです。」
「へぇ、公式なんて只覚えて於けば良いものかと思ってたよ。」
「それでもテストは問題有りませんが、応用が利きませんし、何よりすぐ忘れてしまいます。
全て理解しなければならないとは言いませんが、重要な公式ならばその公式がどうやって導かれたかを理解しておくと、後々役に立ちますよ。」
家庭教師の仕事を始めて2ヶ月となり、アキトはその間同じ生徒に付きっきりで教えていた。
「はい、今日の分はこれで終わりですね。」
「本当?じゃあニーチャン、幾つか質問しても良い?」
「分かりましたマコト君。答えられる範囲でお答えします。」
マコトと呼ばれた元気な少年は、懇切丁寧に教えるアキトにすぐ懐くと彼を兄と呼び慕うようになっていた。
「じゃあさ、何で人ならざる者達は“導族”って呼ばれてるの?」
「えっ?導族についてですが?ちょっと待ってて下さいね。」
マコトは勉強が終わると、決まってアキトの持ってきていない科目の内容について質問していた。アキトの転移召喚を見たいがためであった。
『近代史ノート、召喚。』
「おぉ~、相変わらずスッゲ~。」
一瞬の内にアキトの掌の上に召喚されたノートを見て、マコトは感嘆の声を上げると、アキトは苦笑した。
「そんなに凄い物でも有りませんよ。只の転移召喚ですからね。君だって後もう少し経てば導術解禁となるのですから、そしたらもっと凄い事が出来るようになりますから。」
「そんなに自分の事卑下しなくってもいいじゃん。ニーチャンは優しいし導術だって凄えし、オレとっても尊敬してるんだ。」
「それはありがとうございます。それでは質問に答えますね。簡単に言えば導術を伝えたからだと言われています。単純ですね。導術を使うから導族というわけです。」
「な~んだ、そのまんまか。何か単純だから変に勘ぐって損した気分だよ。」
人の国家と人ならざる者達の国家との戦争が表面的には集結し、休戦協定を結ぶ際、その協定は当時中立の立場を貫いていたヨミ国で結ばれた。その際問題となったのは、人ならざる者達をどう呼称するかであった。勿論彼らと人との言語は違い、そして彼らは彼ら自身の言葉で自らを『人』と呼び、人を『亜人』としていたのである。
互いに自らの事を『人』と呼び、相手を蔑称で呼ぶのは双方の感情を逆撫でし、休戦協定の話が拗れかねないと思われた。そのためどちらかもしくはお互いの呼び名を変える必要に迫られ、当時のヨミ政府は、人ならざる者達に対して、彼ら自身を『導族』と呼んで見ては如何かと提案した。
何故このような呼び名にしたのかについては人側に対してと導族側に対してで説明が異なっており、導族側に対しては『共に世界を導いて欲しいため』と説明して譲歩を引き出し、人側に対してはその説明ではなく『魔導を扱う種族であるから』とした。
結果的に人側は『人』という名を維持する事で、導族は自分達が『世界を導く者である』と思うことでそれぞれの面子を保つことが出来た。勿論そのために裏でヨミ政府が各国の説得に四苦八苦したことは言うまでもない。
無事休戦協定を結ぶことの出来た影の立役者であり、また戦争時に発生した導族の難民の多くを受け入れ救ったヨミ国を、当時の導族国家群代表であるアビス王国国王は気に入り、ヨミ国との交流を始めたとされる。
「じゃあさ、何で導族の共通語ってヨミ語なの?」
「それはですね。ヨミ国から導族国家に技術や知識を伝えたためだとされていますね。」
ヨミ国と交流を始めたアビス王国は、ヨミ国の技術や知識を吸収し活用するためヨミ国の言葉を国民に広めた。また、アビス語の方言は酷く同じ国なのに言葉が通じない事が良くあったため、導族間のコミュニケーションにを円滑にするための側面もあるとされる。アビス王国の言語体系がヨミ語のそれに近く、ヨミ国に対しての国民感情が悪くなかったのもヨミ語採用の大きな要員となった。またこの時、導族の使っていた技術である導術がヨミ国に輸入されたとされている。
導族達の住むナラカ大陸の出現時、同時に現れたとされる導子の存在により、人側にも個人的に導術を使用できる才ある者もいたが、その制御方法が不明で活用に難があった。
導族側から導術の技術が伝わる事により、人は始めて実用的に導術を活用できるようになったとされる。この時、導術はヨミ語で輸入されたため、 現在の導術は基本がヨミ語である。導術はイメージを導子に伝える技術とも呼ばれ、その技術にはイメージと言葉が重要である。ヨミ語で作られた導術は、ヨミ語を母国語としていない者が翻訳により使用しようとするとその言葉とイメージに乖離が発生し、上手く導術が発動しないか、したとしても著しく効果が減少する。現状では導術はヨミ国とアビス王国固有の技術としてほぼ独占状態となっていた。
「へぇ~、じゃあさ、アビス王国の人達もヨミ国と同じような暮らしをしているのかな?」
「それはわかりませんが、僕達みたいに皆さんが幸せに暮らしていたら、とても嬉しいですね。」
人と導族の間の隔たりは以前よりは減少したものの、それでも交流はある程度制限されており、また情報規制もあり互いの詳しい状況を把握することは現状非常に難しい。
しかし、ヨミ国の伝えた知識や技術は確かにアビス王国に息づき、多くの民の生活水準向上に貢献したことは事実であり、ヨミ国に対するアビス王国国民の評価は頗る高い。
このような現状を踏まえ、最大の人族国家にして嫌導族派筆頭でもある大国へイルはヨミ国に対して苦言を呈し、一部過激派はヨミ国国民に対して『コウモリザル』と揶揄している。
「さて、それではそろそろ時間ですし、僕はお暇します。」
「うん、ニーチャン、今日もありがとう。」
「いえいえ此方こそ、熱心な方を教えるのは楽しいですし、何より他人に教えることで僕自身も更に理解を深めることができました。またお願いします。」
「ニーチャンに教えて貰ってるのに、お願いされるなんて変な気分だよ。」
アキトとマコトは互いに笑いながら話をし、アキトは帰宅の準備を始めた。すると部屋の扉がノックされ、ジュースを持った女性が現れた。マコトの母親であるヒョウカであった。
「あらアキト君もう帰るの?もっとゆっくりしていけば良いのに。」
そう言ってヒョウカはアキトにジュースを渡した。
「いえ、今日はもう暗いですし、これで帰りますよ。ジュースありがとうございます。おいしかったです。」
貰ったジュースを飲み干してアキトは答えた。
「お粗末様でした。それにしてもとても礼儀正しいわね。家の子も見習って欲しいわ。それかアキト君家の子にならない?」
「おっ?そりゃあ良い。ニーチャンなら俺の兄貴に大歓迎だぜ。」
マコトの母親の冗談にマコトが合わせて茶化した。アキトはその光景に微笑みながら、自身の長い後ろ髪を弄った。
「ええ、とても魅力的なお話ですね。ですが、僕には既に大変敬愛する両親と、可愛い妹がおりますので。」
「あら残念。こんな良い息子を持ててあなたの両親が羨ましい限りだわ。」
アキトの答えに本当に残念そうにするマコトの母。一方マコトはアキトの妹に反応した。
「ニーチャン妹が居たのか。知らなかったよ。どんな娘?」
「とても元気で活発な娘ですよ。僕に良く懐いてくれているのでとても愛おしく感じています。」「愛おしいって…、ニーチャンもしかしてシスコン?」
「有り体に言ってしまえばそうなのでしょうね。」
爽やか笑顔で話すアキトにマコトが若干引いた顔をした。
「それではこれで失礼します。」
「ありがとう。またお願いね。帰り道気を付けてね。」
「ニーチャン、またな~。」
家の玄関でヒョウカとマコトに別れの挨拶をして、アキトは寮への帰路についた。
「さて、今日も裏山で山菜探しながら帰りましょうか。もう暗いですし余り期待は出来ませんが、寮への近道ですし、もしも見つけられたら行幸ということで。」
寮の裏にある山の麓の山道の入口に立ったアキトは、召喚したライトを手に山の中へ入って行った。
その後彼の姿を見たものは誰もいなかった…とはなりません。