第5話
またまた世界設定説明回です。今度は主人公の国を取り巻く環境についても言及します。
相変わらずキッチリと設定を詰められず、甘い所多々在りますが、勢いで書いているので平にご容赦。生暖かい目で見守って下さい。
実習を終え、更衣室で着替えたアキトは、同じく実習終わりのレンと共に教室へと歩いていた。
「はぁ~~。なかなかどうして、上手く行かない物ですね…。」
「溜め息つくなよ。幸せが逃げるぜ?創造召喚の事は残念だったが、引き摺ったって仕方無いし、切り替えて行こうぜ?」
創造召喚が出来ず落ち込むアキトに慰めの言葉を掛けるレン。
「そうですね…。わかりました。ところで君の方は実習どうでしたか?」
レンの言葉に少し元気を取り戻したアキトは、暗くなった話を変えるため、レンに話を振った。
「ああ、今日は初めて鉄を扱ったぜ。俺は鉄の剣を作ったんだ。お前にも見せてやりたかったぜ。」
嬉しそうに話すレンを見ていると、アキトは自身も嬉しくなった。
「そうですか。それは良かったです。なかなか順調そうで良かった。」
「応よ!しっかし、俺もいい加減、生導術を習いたいぜ。だが土導術は生導術を使っちゃいけないってんだからなぁ。」
「それは仕方無いですよ。」
レンがそう呟くと、アキトは苦笑しながら答えた。
「前に授業で習ったと思いますが、土や水の生導術は許可なしの使用が禁じられていますから。」
土や水の生導術は技術的にはそう難しいものでは無いが、使用に当たってある問題があった。
その場にある物を操作する操導術と違い、生導術は新たな物質を造り出すことが可能であるが、その分導子が減少する。すると、導存平衡が物質側に傾くため、元の比率に戻そうとして現実の物質が導子化する。
この際に導子化の影響を最も受けるのは、生導術により生じた物質と同等の存在である。つまり、土を造れば土が、水を造れば水が何処かで導子化するのである。またその影響は生導術を使用した位置に近い程大きくなるという傾向を持つ。
「でもよ、貴重な物造らなきゃ、少しくらい良いんじゃねぇのか?」
此処で問題となるのは貴金属や石油と言った価値の高い物質を造る場合である。
貴重な物を造れば、その分他の場所の産出に影響が出る。人の手が加わったものは導子化の影響が低くなることが最近の研究によりわかったため、自然な状態で存在する物質が主に導子化すると考えられている。つまり、貴金属やガソリンを生産すると、その分のレアアースや原油が導子化により消滅することになる。
「そうは言っても、やはり産出国にとっては面白くないですよ。自分の所から資源を盗まれている可能性が有るかも知れないのですから。」
「しっかし、いくらなんでも神経質に成りすぎじゃねぇか?」
アキト達が暮らす国、ヨミは、周りを海に囲まれた島国である。島の内陸部にある資源は乏しいが、周辺の経済水域にはまだ開発されていない海底油田やレアアース鉱脈がある。もし生導術を使用しても、導子化するのはほとんどがそこに在るもので、外国の油田や鉱脈への影響はほぼゼロであると推察されている。
「まだ信頼に足る統計データも不足していますし、例えほとんど影響出ない程度にしか減少しないとしても、じゃあいいかとは簡単には言えないのでしょう。
未だ外国にはヨミのことを余り好ましく思わない方々もそれなりに居ると聞きますし、余計な火種を作ることは避けたいでしょうからね。」
「もう何年も導術使いを派遣し続けて莫大な利益を献上し続けているってのに。外国の奴らは未だにヨミの事認めねぇのかよ。」
先の戦争により、人類と人ならざる者達との間には未だ埋め難い溝ができた。そんな中、いち早く人ならざる者達と接触し、交流を深めて行ったのはヨミであった。その結果、元々は人ならざる者達の技術であった導術を取り込み、自らの物とすることに成功したのである。しかし、元々敵であった者達の技術と言う事で毛嫌いする者も多く、ヨミの事を「悪魔に魂を売った」と非難する声もあった。
そのような非難を受け、ヨミ国は国家をあげて導術使いを育成し、国家公務員として採用し、他の人族国家に派遣して導術による支援を長年行ってきた。この学園もそうした人材の育成を目的としており、主な就職先の一つになっている。
「口じゃ色々言っていてもな、もう導術無しの生活なんて考えらんねぇ程依存する国だってある。良い所取りなんて虫が好かねぇよ、やっぱ。」
ヨミによる長年の導術使いの格安の派遣及び無償の技術提供は着実に実を結び、特にお金の無い発展途上国などに急速に普及して来ている。人の意志だけで重器も無しに交通網の整備が出来、燃料の使用無しに浄水場や発電所を動かす事ができるその技術は、人件費などのコストを含めても、既存のものより現状遥かに効率、安全性、環境影響への配慮などに於いて勝っているからである。
その波は先進国に於いても無視できなくなって来ており、先進国の中でも先の戦争での被害が少ないヘルヘイムなどでは、スタンス上両手を挙げて歓迎とは行かずとも、一部試験的に認める様に態度を軟化して来ていた。
また、それにより他国に生じた石油や重器などの供給過多による損害に対しても、ヨミ政府は援助金という名の損害賠償を十二分に支払っていた。資源国による「ヨミ国が生導術を使ったせいで資源の産出量が減少した」という根拠の無い訴えに対しても、極力低姿勢で真摯に対応し、状況に応じて賠償金を支払うことも行っていた。
「まあ、気持ちは分かりますけどね…。」
そのように導術の恩恵に預かりながら、ヨミ国に対して否定的な態度を採り続ける国には未だに在る。そのような国に対しては、流石に庇いきれる気がしないとアキトは感じていた。
「まあ俺達が此処でああだこうだ言っても仕方ねぇし、それは政治家の仕事だ。精々俺達に出来ることは選挙に行く事位だぜ。」
「そうですね。まあでも、将来の国について考えることは決して無駄では有りませんし、そう言った意識は持っていて損は無いと思いますよ。」
そう言うアキトに対して、レンは少し溜め息をついた後、切り替える様に問い掛けた。
「ところでさぁ。今日放課後暇なんだけどさぁ。久し振りに何処か遊びに行かね?」
「すみません。お誘いは大変嬉しいのですが、今日も家庭教師のアルバイトが入って居るのでまたの機会にお願いします。」
「お前なぁ…。本当にそろそろぶっ倒れるぜ?少しは休んで遊んでスッキリしねぇと身が持たねぇって。」
アキトの答えに対し先ほどの倍の大きさの溜め息をつくレンを見て、アキトはレンが自身が遊びたい訳ではなく、働き詰めの自分の事を本気で心配して提案してくれていることに気が付き、申し訳無い気持ちでいっぱいとなる。
「すみません。でも、気持ちは本当に嬉しいです。また誘ってくれる日時さえ教えて下されば、その時間は空けておくようにしますので。その時は一緒に遊びましょう。」
「お前って、敬語といい変に律儀だよなぁ…。同年代とはとても思えん。」
でもそこも嫌いじゃねぇんだけどな、と心の中で呟くレンは、アキトの嬉しそうな横顔を複雑な気持ちで眺めていた。