第4話
引き続き設定説明回です。エセ科学です。叩けば埃が出ます。余り深く考えないで下さい。
ヒロインが出るまで当分かかりそうです。
「はぁ~~…。」
創造召喚の練習を始めてしばらくの後、大きな溜め息をつくアキト。予想通り、全く創造召喚は出来なかったのである。
(これもまたダメですか…)
創造召喚は文字通り新たな物質やエネルギーを造り呼び寄せる技術である。故に、導子さえあれば炎や水など他の系統の導術の物を造る事が出来る。しかし、水ならば水導術を使った方が早く、また必要導子量もかなり抑えられる。つまり、様々な系統の生導術が使えるが、必要導子量はかなり多くなるのである。
(…もう4系統全て試し終えてしまいました)
無論、大量の物質を創造しようとすれば、それだけ多くの導子が必要となる。故にアキトは、最も消費導子量が少ない、各系統の最小単位の創造に挑戦していた。つまり、これらさえも出来ないという事は、創造召喚はほぼ絶望的という事である。
(自分の導子量が少ない事はわかっていましたが、此処までとは…。)
なまじ多少なりと期待をしていた分、落胆も大きかった。アキトの落ち込んだ顔を見て、事情を知っていたコウガは、優しく彼の背中を叩く。
「まあ、誰にでも得手不得手は有ります。君には転移召喚の才能が有るのですから、それを伸ばせば良いのですよ。」
「先生…、有難うございます。」
その時、アキトの後ろで歓声が上がる。
「何あれ凄い!生き物!?」
一人の女子が感嘆の声を上げ、皆の視線が集まる方向を見ると、ある少年が今正に燃え盛る何かを召喚しようとする所であった。
「あれは…、フェニックス?」
アキトの呟きに応えるように、甲高い鳴き声を上げて伝説の不死鳥はその神々しい姿を現す。
「まさか…、幻獣召喚…。」
創造召喚は、他の系統の生導術が使える他に、ある特徴を持つ。それは、生き物を模した形で物質を創造し、自立機動させる事が出来るという事である。これを幻獣召喚と呼ぶ。
「これが、僕の幻獣か…。フン、気に入った。」
不死鳥を顕現させた少年―ユウキは、誇らし気に後ろを向いてアキトを一瞥した後コウガを見る。
「どうでしょう?先生。」
「ああ、素晴らしいよ…。まさかその若さで幻獣を創造できるとは…」
幻獣召喚は創造召喚の中でも難易度は高いとされる。そもそも何故生物の形を取り、自立機動することが出来るのかについてはよく解っていない。一説には他系統よりも多くの導子を注ぎ込む為に、生じる物体は完全な物質化が出来ず、不安定な導子と物質の中間体が生じる。そしてその導子部分に他のイメージ(動物など)を乗せることによりそれを模すことが出来、また行動を指定することにより、自立機動が出来るとされている。
創造召喚により形成された存在は不安定であるため、導力供給が途絶えればすぐに霧散してしまう。故に物質が増えないため、土や水を造っても良いとされている。
「うわぁ…。格好良いなぁ…。」
神々しい不死鳥の姿にすっかり魅了されたアキトは、しばらくそれを見て呆けていたが、やがて異変に気付く。
「フェニックスが…揺らいでる…?」
アキトの呟きを耳にしたユウキが後ろを振り返るとフェニックスが消えようとしていた。
「な、何!?一体どうして…」
「創造召喚で創造した幻獣は、その体を顕現するために常に一定の導力を必要とするんですよ。君の幻獣は特に必要導子量が多いようです。現在の君の導子供給量ではもう限界のようですね…。」
驚くユウキに静かに答えるコウガの言葉が終わるや否や、不死鳥は跡形もなく消え去った。
「ですが素晴らしいですよ。まさか幻獣召喚が出来る程の逸材だとは。」
「いえ、この程度では満足出来ません。僕はもっと長くフェニックスを顕現させ、自由に操作して見せます。」
ユウキの意志にコウガは大きく頷いた。
「その向上心、素晴らしいですね。ですが今は大きく導力を消費して疲れているのでは有りませんか?しっかり体を休めることも、重要なことですよ。」
逸るユウキを優しく諭し、コウガは他の生徒に対して自らの練習に戻る様に促す。その後、コウガはアキトの所に来て声を掛ける。
「アキト君はどうしますか?もしここにいるのが辛いのでしたら、休憩室に行っていても良いですよ?」
「いえ、大丈夫です。ここでもう少し頑張って見ます。」
健気にも努力する意志表明をしたアキトに、コウガは笑顔を向ける。
「そうですか。ですが呉々も体調には気を付けて下さいね。」
努めて明るく振る舞うアキトに、コウガは同情を禁じ得なかった。
(元気そうな振りをしていますが、相当落ち込んでいますね…。何とかしてあげたいのは山々なのですが…。)
アキトが召喚導術の実習を始めてから2ヶ月、常にアキトを傍で見てきたコウガは彼の空元気を一目で見抜いていた。厳つい顔の自分にも物怖じせず懐いてきたアキトをコウガは気に入り、また不明なところなども熱心に質問をして努力しようとする真面目な性格に感心して、最初の頃から特に目を掛けていた。
(普通なら、これほどの努力を行っているならば、少しは保持導子量が増えても良いですが、相変わらず増える気配は有りませんね…)
一般的に、保持導子量は筋力と同じように、使えば使うほど増加する。“過剰回復”と呼ばれるものである。個人差こそ在れど、鍛えれば増えるのは共通である。アキトほど熱心に練習していれば、ユウキと迄はいかずとも、消費導子量の少ない創造召喚を行う程度には保持導子量が増加していてもおかしくはない。
コウガもそう楽観視して、時々アキトの保持導子量を調べて見ているが、一向に増える気配はなかった。
(やはり彼の体質は、非常に保持導子量が増えにくいものなのでしょうね…。)
コウガは例え心の中の呟きでさえ、アキトが“全く”保持導子量が増えない体質であるなどと考えてもみない。アキトが諦めない限り、自分も決して諦めないと彼は心に誓っていた。やがて実習時間が終わりに近づき、コウガは生徒達に呼びかける。
「はい!そろそろ時間ですよ。皆さん集まって下さい。」
コウガの呼びかけに、生徒達は練習を止めて集まってきた。見ると、一部の生徒はとても気だる気な顔をしていた。
「はい、今日は皆さんとても熱心で素晴らしかったです。ですが、余り根を詰めるものではありません。今日は皆さんゆっくり休んで体を回復させることに専念して下さい。」
体は資本ですからねと彼は言って締めた。
「おい、貴様あれで本気だったのか?」
実習が終わり、生徒達が皆着替えるため更衣室に向かう最中、アキトはユウキに声を掛けられた。ユウキはとても不機嫌そうな顔をしており、アキトはとっさに自分が何か仕出かしたのでは無いかと記憶を探った。しかし、どうしても心当たりが見付からないため、恐る恐るユウキに尋ねた。
「あの…、僕が何か君の気に障るような事したのでしょうか?もしそうなのだとしたらごめんなさい。」
「質問に答えていないぞ。謝るのではなく答えを聞かせろ。貴様のさっきの創造召喚はあれが本気だったのかと訊いている。」
ユウキの問い掛けにアキトは困惑の表情を浮かべるが、正直に答える。
「はい…。残念ながら、あれが僕の限界です。」
アキトの答えを聞くと、ユウキはいきなりアキトの胸倉を掴み、静かに、しかし怒りの籠もった声で詰め寄る。
「ふざけるな!貴様程の実力を持つやつが、何も造れぬ筈が無い!僕に気を使っているのならば止めろ!吐き気がする!僕は本気の貴様と勝負がしたいんだ!」
捲くし立てるユウキに対して、アキトは申し訳無さそうに答える。
「僕が君に変に気を使っているとか、そんなのではありません。あれは本当に僕の実力なんです。どうやら僕には、創造召喚の才能はなかったみたいです。」
アキトの答えを聞くと、ユウキは掴んでいる手を緩め、再びアキトに問い掛ける。しかしその言葉に、先ほどの険はなかった。
「貴様は、本当にそれでいいのか…?」
「良い訳ではありませんが、無い物は仕方がありません。幸い僕には転移召喚の才能はあるみたいなので、これからはそちらを伸ばして行こうと考えています。」
ユウキはアキトの意志を聞くと、胸倉を掴んでいた手を一度強く握って、ゆっくりと離した。
「…貴様には失望した。とんだ期待外れだ。」
「………。」
「…乱暴して悪かったな。」
そう言ってアキトから離れ、歩いていくユウキの背中は何処か寂し気であった。