第3話
設定を一部変更しました。
返還→転送
転送位置に目印を描く必要性を追加
導術には大きな括りで二種類ある。一つは導子から新たにエネルギーや物質を生み出す“生導術”。そして、元からその場にある物を操る“操導術”。厳密に言えば操導術も、物体に移動エネルギーを与える生導術の一種で有るが、便宜上別物として扱っている。
これらは、どの系統の導術を用いるかにより重要性が変わってくる。風導術は生導術よりも操導術の方が重要、炎導術はその逆と言った具合にである。
空気は通常、術者の周りに存在するものなので、生導術を用いてまで空気を造る必要は無く、辺りの空気を操作すれば良い。逆に火の気はその辺りに在るような事はまず無いため、炎そのものを造り出す必要が出てくるのである。
「はい、それじゃあ皆さん整列して下さい。」
召喚導術の実習担当の教師であるコウガは、その厳つい顔のイメージに反して、とても丁寧な口調と穏やかな気性を持つ人物である。コウガが呼び掛けると、実習施設内に散らばっていた生徒達はコウガの前に集まり整列する。
「今日は召喚導術の基本である転移召喚の復習と、応用である創造召喚の基礎練習となります。」
コウガの言葉に生徒達からは喜びと驚きの含まれる声が上がった。
「フン、やっと創造召喚が学べるのか。今まで転移召喚ばかりでウンザリしていたんだ。」
アキトの隣で小さく呟く者がいた。アキトと同じく召喚導術に適性がある秀才、ユウキであった。
「はいはい、余り騒がないで下さいね。創造召喚は確かに派手ですし、憧れるのも分かりますが、まずは転移召喚の復習からですよ。それでは位置に着いて下さい。」
騒いでいた生徒達は、コウガの発言に静かになると、実習施設内の各々の定位置に着く。
施設内には、丁度弓道場の様に、フローリングの部分と地面が剥き出しになっている部分の二つの空間が有る。今生徒達が居るのは丁度その空間の間の、フローリング側の辺りになる。
「それでは、転移召喚の練習を始めて下さい。何度も言っている事ですが、決してこちら側に転移させないで下さいね、人に当たったら危ないですからね。」
生徒達は地面の側に手をかざした。すると、掌に白いボールが現れた。そして、次の瞬間そのボールは消えた。
これは、転移召喚の基本技術、『召喚』と『転送』である。
『召喚』はその名の通り、物体を手元に呼び寄せる技術、『転送』は呼び寄せたものを所定の位置に移す技術である。
何でも召喚できるという訳では無く、基本的に自らの所有物しか召喚できない。故に、今生徒達が出現させたボールは彼らの所有物である。
一方、『転送』は転移先に導陣(魔法陣のようなもの)を描いておく必要がある。導陣には様々な物があるが、転移位置指定のための導陣は転移陣と呼ばれる。
また、転移陣の上に転移対象が出現出来るだけの空間が無ければ、転送が発動出来ないという制約もある。そのため、彼らが居る所から地面を挟んだ反対側に、各自が指定された場所が在り、その場所をに転移陣を描いてボールの転移位置として使用していた。
「召喚、転送、召喚、転送…」
「アキト君は凄いですね。以前と比べて早さが段違いです。」
「有難うございます。コウガ先生。」
アキトの転移召喚の早さ、正確さは他の生徒達の中でも頭一つ飛び抜けており、コウガは関心する。
(やった、先生に誉められました。毎日練習した甲斐がありました。)
毎日転移召喚の練習をし続けて来たアキトは、自らの努力が認められた事に喜色満面となる。
「フン、その程度でいい気になるなよ。僕だってその位…」
するとそのすぐ横でアキトと張り合うように、ユウキが転移召喚を行っていた。
「…チッ!クソッ!」
しかしその額には汗が滲み、明らかに無理をして召喚している事がわかる。転移召喚は高い集中力とセンスを必要とする為、連続使用はかなり脳への負担がかかるのである。
「もうその位にしなさいユウキ君。明らかに無理をしていますよ。後には創造召喚も控えていますし、自身の体調位わかるでしょう?」
「クッ!…わかりました。」
コウガに諭され、悔しそうに召喚を止めるユウキ。
「あの…ユウキ君、大丈…」
「大丈夫だから僕に構うな!」
汗だくのユウキにアキトは声を掛けようとするも、突っぱねられ、次の言葉を失う。
(うわぁ…、何か気まずいですね。)
これ以上何か話掛けるのは良くないと感じたアキトは「はい…わかりました…」と小さく応え、黙った。転移召喚の練習を生徒達が一通り終えた頃を見計らい、コウガは声を上げた。
「はい!それでは皆さん、転移召喚の練習はその位にして下さい。次はいよいよ皆さんお待ちかねの、創造召喚の練習ですよ。」
それを聞いた生徒達から歓声が上がるが、アキトは一人不安であった。
「創造召喚かぁ…。僕には上手くやれる自信が有りません…。」
転移召喚で優秀な成績を修めるアキトが、創造召喚に不安を抱くのには理由があった。
既に存在する物を移動させる転移召喚は操導術に分類され、新たな存在を造り出し呼び寄せる創造召喚は生導術に分類される。そして通常、生導術には操導術よりも一度に多大な導子が必要となる。
この一度に出せる導子の最大値を“最大導子量”と呼び、その値は各自がその体に溜め込める導子の量の値、“保持導子量”に依存する。つまり、この保持導子量が少ないと、最大導子量も少なくなり、一度に多大な導力を必要とする導術が使えないという事になる。
そして、アキトはその保持導子量が生まれつき極端に低いという特異体質を持っていた。
(僕の保持導子量はかなり、いや極端に低くて、導子のコストパフォーマンスがかなり良いとされる転移召喚でさえ、出来るかどうか危なかったんですよね…)
この学園に入るとすぐ、保持導子量を測定する検査が有る。ここでアキトは学園創立始まって以来の最低値、“測定不能”(無論、低すぎて計測できないの意である)を叩き出し、本気で検査入院を勧められた。しかし、体の方は至って健康であり、特に異常無しとの判断だった。しかし、それはつまり保持導子量を改善する打つ手無しという事でもあり、アキトは当時かなり落ち込んでいた。
それ故、転移召喚が出来た事はアキトにとって朗報であった。転移召喚自体はセンスこそ必要であるが、消費導子量は全導術の中でもかなり低い方に分類される。測定不能レベルの保持導子量のアキトでもギリギリではあるが可能であった。
そして、導子回復量は人並にはあったらしく、召喚した次の瞬間には別の召喚を行う事ができる位に回復する事が出来たため、連続転移召喚が可能であった。また、アキトには召喚導術の才能があったらしく、一般的に脳への負担が高くかなり大変である連続転移を事もなげに行う事が可能であったのだ。
しかし、そんなアキトであっても、創造召喚を行う事には不安があった。必要導子量が高いため、センス云々の問題以前に発動する事すら出来ない可能性が非常に高い。
「でもこんなことでへこたれる訳にも行きません。転移召喚だって出来たんです。きっとかなり小さい物だったら創造できる筈…」
淡い期待に胸を膨らませ、アキトは創造召喚の練習に挑んだ。
話が進むと設定の甘さが足を引っ張りますね。なるべくこういう事の無いような話作りがしたいです。