第2話
基本的に、一つの話は短いです。
昼休みが終わりに近くなり、生徒が次の授業のため移動を開始する。午後の授業は導術実習であり、皆着替えの為に更衣室に向かっていた。
「そろそろ僕達も行きましょうか。」
先の授業の復習をしていたアキトは、昼寝をしていたレンを起こす。
「んあ?もうそんな時間か…。悪ぃアキト、起こして貰っちまったな。」
「いいえ、この位どうって事無いですよ。唐揚げのお礼も有りますし。」
「ん?じゃあ唐揚げやらなかったら起こさなかったのか?」
レンは不機嫌そうに言うと、アキトは慌てて弁解する。
「何言ってるんですか!?そんなこと無いですよ!例え唐揚げ貰わなくったって、キチンと起こしましたよ!」
「悪ぃ悪ぃ、ちょっと軽く意地悪言っただけだ。まさかお前がそんなにムキになるなんてな。」
「もう、僕は余り冗談通じないんですから、そんな意地悪しないでください…。」
アキトは溜め息をつくと、実習用の運動服を取り出し席を立つ。レンも席を立つと、服を探し始める。
「あり?服が無ぇ?やっべ、昨日洗って干したまんま部屋に忘れて来ちまった!」
レンは運動服を忘れてしまった事に気付き慌てる。そしてすぐにアキトに懇願する。
「悪いアキト、服貸してくれ。運動服忘れて授業に出られねぇなんて泣くに泣けねぇ。」
「だけど僕のサイズじゃ少し君には小さいかも知れないですよ?」
「それでも構わねぇ。なあ、頼むよ。」
「ええと、わかりました。それでは少し待って下さい。」
するとアキトは自身の右腕を水平に持ち上げ、掌を上に向けて小さく唱えた。
『出でよ体操服。召喚!』
アキトの右掌の上の空間が少し歪んで見えた次の瞬間、綺麗に折り畳まれた緑の運動服が掌の上に乗っていた。
「はい、僕の予備の体操服です。呉々も生地を傷めないで下さいよ?直すの大変なんですから。」
「お、おう。わかった。気を付けるぜ。」
アキトの発言の一部に若干引きつつも、レンは感心して言った。
「しっかし、やっぱりお前の召喚導術は便利だよな。忘れ物したり物盗まれても直ぐ手元に呼び寄せられるんだからな。」
「そうですか?僕はレン君みたいに土導術を使えれば良かったなと思いますよ?」
「そうかぁ?こんなの地味だ「そんなこと無いですよ!」
レンの言葉に若干被せ気味に喋るアキトの表情は真剣であった。
「土導術って凄いじゃないですか!建築現場のバイト出来るし、芋掘りのバイト出来るし、壊れた壁や割れたガラス直せるし、それからそれから…」
「わ、わかったわかった俺が悪かった。それより授業始まっちまうし早く行こうぜ?」
「え?別に君は何も悪いことは言っていませんし、謝る必要有りませんよ?」
不思議そうなアキトの手から運動服を受け取ったレンは、アキトを促して共に教室を出て更衣室へと駆けて行った。
導術実習では各自の適性に合わせ、別々の実習用施設が設けられており、土導術の得意なレンと召喚導術の得意なアキトは、実習施設前で別れることになる。
「それじゃあなアキト、また実習後にな。」
「うん、わかりました。レン君、実習で怪我しない様に気を付けて下さい。」
「おう、任せとけ。俺は体の頑丈さには自信が有るからな。」
「いえ、君には心配は要らないと思うのですが、服が破けないか心配で…」
それを聞いたレンは肩を落とす。
「お前なぁ、人の心配より服の心配かよぉ…」
「あはは、冗談ですよ。さっきの仕返しです。」
(そう言いつつも目がマジなんだよなぁ)
くだらない会話を楽しそうに交わした2人は、互いに手を振り別々の実習施設に入って行った。