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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第1部 第1話

初投稿です。見切り発車です。独自設定多めです。エセ科学です。以上が苦手な方は注意して下さい。

 アラカミ・アキトは走っていた。昨日のアルバイトの掛け持ちが祟り、盛大に寝坊してしまったのだ。


 「ハア、ハア、いくら今月が、ハア、厳しいからって、ハア、やりすぎてしまいました、ヒイ。」


 前を歩く人々の間を縫うように駆け抜けて行く彼は、さながら韋駄天のようであった。そんな彼の頑張りが功を湊し、なんとか登校時間間近に学園の入り口へと辿り着く。


 「ハア、なんとか、ハア、間に合っ!?」


 急に視界が揺らぎ、体勢が崩れ前のめりになる。足元が疎かになっていた彼は道端の石を踏んでバランスを崩し、盛大に転んだ。


「っ痛ぅ~~。やってしまいました。うう、手の皮擦りむけちゃってる。消毒しないと、保険室に先に行きますか。授業には完全に遅刻ですね…」


遅刻を悟り、走り疲れた彼は、息を整え歩きながら保険室に向けて歩いて行った。


国立導力開発総合学園。此処は、導力と呼ばれる力の使い方、応用法を教える研究教育機関である。


30年程前、突如として大海に現れた大地と人ならざる者達、その出現と共に人々は魔法の様な力を使えるようになった。イメージや呪文により炎や水を生み出し操るその力を人々は導力と呼び、発電、下水処理、道路交通網整備など、生活に役立てていった。


此処、国立導力開発総合学園は、数多くの優秀な導力使いを輩出してきた実績を持つ名門校であり、卒業後の就職率はほぼ100%を誇る。苦心の末入学する事ができたアキトは、なんとか卒業して就職し、実家にお金を送る為に努力していた。


保健室に寄っていて完全に遅刻したアキトがクラスのドアの前に立つと、中から先生が講義している声が聞こえてきた。


「なので、導力は導子という暗黒物質を媒介として発動すると考えられています。また上記の理由により、導子はイメージにより動きを制御できるという性質を持つので、導術により炎や水を自在に操ることが可能となる訳で…。」

「すみません。遅れました。」


アキトは小声で呟きながら静かに授業中のクラスのドアを開けると、一瞬クラスの視線が彼に集中したが、すぐ前を向いて授業に集中する。中には怪訝そうな顔をする生徒もいた。

アキトは申し訳なさそうに、足音出さずに歩き、自分の席に着くと教科書を取り出した。


「よう、どうしたよ。遅刻なんて珍しいな。」


隣から囁きかける声に、アキトは頭の後ろを掻きつつ静かに応える。


「恥ずかしながら、此処に来る途中で石を踏んで転んでしまいましてね。保険室に行ってて遅れてしまったんですよ。レン君。」


レンと呼ばれた活発そうな雰囲気の青年は、眉を顰めて聞き返す。


「おいおい大丈夫かよ。怪我は酷くないか?」

「保険室の先生の活性化治療のお陰で何ともないですよ。心配してくれて有難う。」

「そうか、それなら良いんだが、気を付けなよ。」


そんな会話をやり取りした後、アキトは「いい友達ができて良かった」と心で笑いながら、改めて授業に集中した。


午前中の授業が終わり昼休み、アキトはレンと教室で一緒に昼食の弁当を食べながら話していた。


「なあ、さっきの授業の“導存平衡”って意味よくわからなかったんだが、アキトはわかったか?」

「あれは導力の元となる導子と、現実の物質やエネルギーとの比率が常に一定であるという事ですよ。例えば土導力で土を作ると、土が発生し、導子が減少する。すると今度は、近くの土が導子に変換される。

こうやって常に導子量と現実のエネルギーや物質の存在比が一定となるその状態を導存平衡と呼ぶんですよ。」

「つまり、導力で発生させた物質と同じ分だけ、何処かの物質が減少するって言うわけか、なる程。」

「これが有るから、いくら導力を使って炎や水を発生させても、世界中の総熱量や総水量は変わらないんだ。」


そんな会話を続けながら、アキトは弁当を完食する。その様子を見ていたレンが少し呆れながら話題を変える。


「それにしてもお前よくそんな量の弁当で足りるな…。その程度じゃ腹減ってしょうがないんじゃねぇか?」

「今月は財布がピンチなんで、なるべく節約しないとね。お腹は余り減らない方だし、まあ何とか…ね。」

「そうは言ってもな。ご飯の上にワケのわからん草しか載ってないのは流石にどうかと思うぞ。」


アキトの弁当の内容は、ご飯の上に炒めた雑草が載っているだけの簡素なものであった。


「あはは…、まあ見た目は悪いけど、キチンと食べれる草だし、ちゃんと味付けすれば割とイケるよ。」

「草ばっかり食ってねぇで、タンパク質も採らねえと大きくならねえぞ。ほら、俺の唐揚げ一個やるから喰えよ。」


呆れた口調でレンが唐揚げを箸でつまみ、アキトの空の弁当箱に移すと、アキトの顔が笑顔で一杯となる。


「本当にくれるの!?本当に!?うわぁ有難う~。これで明日の弁当のおかずになるよ。」

「いやちょっと待て。明日の弁当?今食べないのか!?」

「今食べるなんてそんな勿体ないこと出来ないよ。大事に食べないと。」

「わかった。良くわかったから。また明日俺の弁当のおかず分けてやるから、取り敢えずそいつを今食べろ。」

「いやでもそんなに悪いよ。唐揚げ一個も貰ったのに…。」

「デモでもナンでもだ。ったく、少しは自分の体を気にしろよ。本当にぶっ倒れるぞ。」

「うう…。有難うレン君。持つべきものはやっぱり親友だよ。」


そんなことで親友に成れちまうのかよ…と心の中で呟き、苦笑しつつもアキトの喜ぶ顔を眺めていたレンであった。

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