就職
初の連載です。
よく考えてないので3話くらいやったらやめるかもしれません。
「鈴木さん、最近どうよ」
渡辺さんがお酒を飲みながら聞いてきた。
僕も渡辺さんも妖怪だ。
妖怪といっても昔話に出てくるような有名な妖怪ではなく、幽霊みたいな妖怪だ。
ちなみに僕と渡辺さんの他に、後藤さんも相席している。後藤さんも妖怪だ。
「いやいや全然。この前なんか子どもを驚かそうとしたら、飛び出してる内臓もぎとられてキャッチボールされちゃった」
「ガハハ、まじかよ」
渡辺さんは笑った。
僕の容姿は普通だが、腹から臓器が飛び出している。
腹を抱えながら人に近づいて、「うっ」と言いながら腹を離して臓器を発射。これが僕の十八番だ。
「俺なんかさー、目が飛び出てるじゃん? 顔隠して、いないばーするのが十八番なんだけど、この前女性にやったら右ストレートが飛んできてよぉ! 目どころか色んな物が飛びそうになったよガハハハハハ!」
「まあびびってもらえるだけいいっすよ」
渡辺さんは声も体も態度も大きい人だ。
「後藤さんは?」
僕は後藤さんに話をふった。
後藤さんは口数の少ない人だ。
話をふらなきゃ喋らない。
「私も同じようなものですよ。この前結婚式に忍び込んだのですが、「あー! 腕がとれたー!」と言いながら腕を外したら、結婚式が微妙な空気になってしまって」
「…………」
後藤さんは少しずれた人だった。
後藤さんは右手首がとれる。ロケットパンチなんて言って腕をはずすのが、彼の持ち前の一発芸だった。
『はぁ……』
僕らは一緒にため息をつく。
ちなみにここは公園だ。
酒はスーパーで買ってきた。
ホームレスと間違われて、警察に捕まったことは何度かある。
「なぁ……、一回本気で怖がられて見たくないか?」
渡辺さんが言った。
そりゃそうだ。
妖怪なんだ。
一回くらいは怖がられてみたい。
「だけど……、どうすれば……?」
すると渡辺さんが笑った。
「俺に考えがある」
「左から渡辺さん、鈴木さん、後藤さんでよろしいですか?」
遊園地の事務室で、面接官が言った。
ここは僕らが住んでる街の中にある、それなりに大きい遊園地だ。
『はい』
僕らは答える。
「おかけください」
『失礼します』
面接が始まった。
面接官の女性は眼鏡をかけてて真面目そうな人だ。
「それでは渡辺さん。なぜこの遊園地で働こうと思ったのですか?」
最初のターンは渡辺さんか。
とりあえず、一番頼りになる人が最初で助かった。
「い、いいいいい一発逆転をねねねね狙いたかったたたたたからですすっ!」
…………。
《こ……こいつ……、こいつあがり症かぁぁぁぁああああ!!》
僕と後藤さんは同時に心のなかで叫ぶ。
これは想定外だった。
だから怖がられないんじゃないだろうか。
「そ、そうですか……。それでは後藤さん。後藤さんは今まで何か仕事の経験はありますか?」
渡辺さんに見切りをつけたのか、後藤さんに話をふる。
「私は最近まで結婚式で注目を浴びて、雰囲気をぶち壊す仕事をしていました」
…………反応しづれー…………。
こりゃ終わったな。
僕は確信した。
「そ、そうですか……。では鈴木さん。あなたは長期で働けますか?」
「はい、一応は」
「そうですか、それでは結果を言わせていただきます」
え? 僕のターン終わり?
『はい』
仕方なく僕らは頷く。
「結果は不━━━━」
「おーっと、私の右手が勝手にロケットパーンチ!」
いきなり後藤さんは叫ぶと、面接官目掛けて左手で右手を投げた。
ゴツンという音がして、面接官の頭にあ当たる。
面接官は気を失った。
「え、ええええ! ちょっ、なにやってんの!?」
僕は後藤さんを問いつめる。
「いやいいぞ後藤さん! 今のうちに書類を書いちゃえ!」
渡辺さんはそう言うと、書類を書き換え始めた。
かくして、僕たちは遊園地のお化け屋敷で働くことになった。