第6話 『双子は嘘を重ねる』
牡羊王と真正面から衝突したアルク。
“王を喰らうには王になれ”という謎の示唆。
そして――
ついに双子が動きます。
空に走った黒い亀裂。
それを見た瞬間、牡羊王アレクトルの表情が凍りついた。
「十三番目の……兆候か」
低い声。
王は明確に知っている。
蛇を。
俺を。
「学院長!」
結界の維持が限界に近いらしい。
校舎の壁がひび割れ、生徒の悲鳴が遠くで重なる。
王は俺を睨み続けたまま言う。
「猶予は終わりだ」
空の炎が再び集束する。
先ほどとは密度が違う。
圧縮された太陽のような火球。
学院ごと、消す気だ。
リゼが天秤を展開する。
均衡結界。
だが規模が違う。
防ぎ切れない。
そのとき。
「待った」
軽い声が、戦場に不釣り合いに響いた。
シリウス・ジェミニ。
双子座の生徒会長。
彼は屋上の縁に立ち、王を見上げる。
「牡羊王アレクトル陛下」
丁寧な一礼。
炎が揺らぐ。
「双子の小僧か」
「はい。交渉に参りました」
俺は目を細める。
こいつ、何をする気だ。
シリウスはにこやかに続ける。
「学院は中立。彼の身柄は引き渡せません」
王の目が細くなる。
炎の密度が上がる。
「だが」
シリウスが指を立てた。
「“条件付きの協力”なら可能です」
空気が変わる。
俺が睨む。
「おい」
シリウスは無視した。
「アルク・ノクスは学院管理下に置く」
「外部への敵対行為を禁じる」
「その代わり」
笑う。
「星紋奪取の研究データを、各国へ公開する」
一瞬、静寂。
次の瞬間、俺の中で何かが弾けた。
「ふざけるな」
蛇が激しく脈打つ。
研究?
データ公開?
人体実験か。
王は低く笑う。
「ほう……面白い提案だ」
リゼがシリウスを睨む。
「あなた、正気?」
「もちろん」
双子の星紋が左右で異なる色に輝く。
「世界の均衡は、情報で保たれる」
王が火球を緩める。
「つまり、蛇を“共有”するということか」
「ええ」
シリウスは楽しげだ。
「独占は争いを生みます」
「ならば透明にする」
俺は立ち上がる。
「俺の意思は?」
「あるのかい?」
さらりと言う。
「君はもう国家案件だ」
怒りが込み上げる。
その瞬間。
シリウスの右目が淡く光った。
双子座の能力。
分裂思考。
嘘と真実の同時展開。
「誤解しないでほしい」
声色が変わる。
低い、もう一人の声。
「これは君を守るためでもある」
王が口を開く。
「説明しろ」
シリウスは屋上から一歩前へ。
「今ここで彼を処刑すれば」
「十三番目は“完全覚醒”する可能性がある」
空の黒い亀裂を指す。
「あれが証拠です」
王の視線が、亀裂へ。
「不完全な状態で管理する方が、安全だ」
沈黙。
炎が揺れる。
王は計算している。
ここで殺すか。
利用するか。
俺はシリウスを睨む。
「お前、最初からこれを狙ってたな」
双子は笑う。
「君が覚醒する可能性は、三年前から計算していた」
背筋が冷える。
三年前。
俺が学院に入った頃か。
「十三番目は、必ずどこかで生まれる」
「ならば学院内の方が都合がいい」
リゼが息を呑む。
「あなた……」
王がゆっくりと火球を消した。
「条件を提示しろ」
交渉成立。
最悪だ。
シリウスは言う。
「アルク・ノクスの身柄は学院管理」
「外部持ち出し禁止」
「ただし王家は観察権を持つ」
王の視線が俺に刺さる。
「逃げれば、国家総力で潰す」
当然だ。
俺は拳を握る。
蛇が低く唸る。
喰う。
今すぐ、双子も王も。
だが――。
リゼが小さく首を振った。
今は違う、と。
王は最後に言う。
「蛇よ」
その目には、純粋な敵意。
「貴様は必ず、我が手で焼く」
殺意。
濃い。
条件は、常に満たされる。
王は炎と共に空へ消えた。
圧力が去る。
結界が軋みながらも保たれる。
静寂。
そして。
俺はシリウスの胸倉を掴んだ。
「説明しろ」
双子は笑う。
「君を生かした」
「利用するためにか」
「もちろん」
即答。
「十三番目は、世界の“鍵”だ」
右目が光る。
「そして、鍵は単体では意味を持たない」
左目が光る。
「十二が揃って初めて、扉は開く」
俺の胸の蛇が、強く反応した。
扉。
何の。
シリウスが囁く。
「君はまだ知らない」
「星座は、武器じゃない」
ぞくり。
「“装置”だ」
空の黒い亀裂が、わずかに広がった。
第6話でした。
・双子の本性の一端
・主人公覚醒を三年前から把握
・星座=装置という伏線
・世界の大きな構造の匂わせ
次話では――
学院内部の分裂。
そして“最初の裏切り”。
物語、さらに深くなります。




