第45話 『起動値』
“生存確率 60%”
七つが揃った瞬間から、数字は白く安定している。
だが空は違う。
透明だった亀裂は、明確な裂け目へと変わった。
管理者の視線が、隠そうともせず降り注いでいる。
胸の七つが静かに回る。
蛇。
牡羊。
蠍。
王毒。
獅子。
水瓶。
天秤。
均衡は崩れていない。
だが“世界の前提”が揺れている。
空が裂ける。
白い光が柱となって地上へ落ちる。
声が響く。
「七つ到達、確認」
「起動値、再計算完了」
水瓶が即座に解析を始める。
情報の洪水。
だが今は制御できる。
「起動確率 87%」
下がった。
以前は92%だった。
七つを共有で取得したことで、演算が乱れている。
管理者が続ける。
「世界安定値 42%」
地面が震える。
遠くの空間が歪む。
起動とは――
世界の再構築。
不確定要素の強制整理。
つまり。
俺の“削除”。
リゼが隣で息を呑む。
「どうするの?」
七つが揃えば、何かを壊せると思っていた。
だが違う。
七つは、壊すための力じゃない。
“選ぶための力”だ。
空の裂け目から、巨大な白い構造体が現れる。
輪のような形。
演算陣。
世界規模の裁定装置。
「起動まで、残り一分」
冷たい宣告。
蛇が唸る。
牡羊が熱を上げる。
獅子が燃える。
だが水瓶が告げる。
「真正面衝突は安定値急落」
無理に壊せば、世界が崩れる。
天秤が揺れる。
均衡を失えば、リゼが消える。
俺は深く息を吸う。
「七つは何のためにある」
胸の中で、星が共鳴する。
それぞれが違う。
だが一つの方向を向いている。
“選択”。
管理者の声。
「最終確認」
「起動許可を」
世界そのものが、判断を求めている。
俺は空へ叫ぶ。
「拒否だ」
沈黙。
だが演算は止まらない。
起動確率が微増する。
88%。
89%。
蛇が囁く。
――足りない。
水瓶が理解する。
起動を止めるには、
世界安定値を上げる必要がある。
俺はリゼを見る。
天秤が、静かに光る。
「均衡を拡張できるか?」
リゼが目を見開く。
「世界規模で?」
「できるだろ」
俺は笑う。
「七つだぞ」
牡羊が突破口を作り、
蠍が演算を侵食し、
王毒が循環を広げ、
獅子が押し返し、
水瓶が干渉の流れを読む。
蛇が全てを繋ぎ、
天秤が――
世界全体へ、均衡を拡張する。
地面から光が走る。
街。
森。
王国。
海。
七つの星の光が、網のように広がる。
「世界安定値 53%」
管理者の声が揺らぐ。
「再計算」
「再計算」
空の輪が軋む。
起動確率が下がる。
80%。
72%。
65%。
俺は叫ぶ。
「世界は不安定でいい!」
「それでも選ぶ!」
天秤が強く輝く。
「世界安定値 61%」
起動確率 41%。
空の輪が崩れ始める。
管理者の声が歪む。
「起動条件、未達」
「再保留」
白い構造体が崩れ、光が霧散する。
裂け目が、ゆっくり閉じる。
静寂。
“生存確率 63%”
跳ね上がる。
世界は再構築されなかった。
削除もされなかった。
俺は膝をつく。
七つが静かに回る。
リゼが支える。
「止めたの?」
俺は息を吐く。
「保留だ」
管理者は消えていない。
起動も完全に消えたわけじゃない。
だが。
世界は“選んだ”。
削除ではなく、継続を。
七つは、初めて役目を果たした。
終わりは、まだ先だ。
第45話まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
ついに――
世界起動を止めました。
七つは破壊の力ではなく、
「選択の拡張」でした。
・起動確率の攻防
・世界安定値の概念
・七つの本当の役割
ここからは最終決着へ向かいます。
管理者は消えていません。
保留です。
つまり――
まだ終わっていない。
ここまで追ってくださって本当にありがとうございます。
物語はクライマックス。
最後まで一緒に見届けていただけたら嬉しいです




